Camp school:Light of fire
「・・・・・」
千百合は肉を炒めながら、どうしても思考のループから抜け出せないでいた。
「でもしそうじゃーん!」
しそう。
しそう、か。
自分は幸村のしそうな事なんてわからない。
別に誰が悪いわけでもない。
紀伊梨にも幸村にもなんら非は無い。
でも。
でも。
賄賂を贈ってた事よりも。
しそうなことが分からない事の方が、今、嫌だった。
「・・・・・・」
(・・・ねえ、千百合なんか怒ってない?)
(何かあったのかなあ。ねえ、紫希ちゃ・・・あれ?)
「紫希ちゃん?どこ?」
「あれ?そーいえば居ないわねー。」
江野と堀江の言葉に千百合が顔を上げると、紫希は食材が山と置いてあるスペースでうろうろしていた。
「あ!そーだった、じゃがいも取りに行くって言ってたわ。」
「でももうじゃがいも持ってるっぽいよ?」
「ああ、あれぼーっとしてるわ。」
「「え?」」
「連れてくる。」
千百合は包丁を置いた。
「・・・・・・」
「紫希。」
「・・・・・・」
「紫希ってば。」
呼びかけても全然反応しない紫希に肩ポンすると、紫希は文字通り飛び上がった。
「!え、あ、え!?千百合ちゃん?」
「何してんの?じゃがいも取りに来たんじゃないの?」
「あ、はい。それからココアを・・・」
「なんでココア?」
「いえ、カレーに入れよう・・・と・・・!」
かああああっと顔に熱が集まった。
「ご、ごめんなさい!」
「はいはい。クセよね。」
「ごめんなさい、すいません、」
「別に何か失敗したわけじゃないから良いって。」
(は、恥ずかしい・・・!)
つい家でカレー作っている気分になってしまった。
ココアなんか用意されていないのに、あるはずと無意識に思い込んでふらふらと探してしまっていた。
「ごめんなさい本当に、お手数かけてしまって・・・」
「・・・何か考え事?」
「え!え、ええ、ちょっと・・・夏休みの事で・・・・」
真面目に周りの誰かがテニス部辞めたらどうしたら良いんだろうと考えていた・・・とはちょっと言えない。縁起でもないし。
「・・・・・」
理由は知らない。
でも、どちらかと言うとしっかり者寄りの紫希がぼうっとしているという事が、却ってこの時千百合の背を押した。
「・・・紫希はさ。」
「はい?」
「この例えもムカつくからあんまり使いたくないんだけど。」
「???はい?」
「丸井のやりそうな事って、分かる?」
「いいえ、ちっとも。」
紫希は即答した。
「分かんない?」
「はい、全然。なんていうか・・・わかる気もするんですけど。」
「けど?」
「分かるようになってきたな、と思った端から予想外な事を言われたりするんです。だから、結局分かってないんだと思います。」
「あー。」
千百合も分かる、その感覚は。
覚えがあるもの。
「どうしてですか?」
「いや。ただ、わかんのかなって。」
「そうですか?ううんでも、私は分からないです。桑原君なら分かるんじゃないでしょうか?」
「ああ、まあね。」
ただ桑原はこの場合あまり参考にならないのだ。
だって、桑原が丸井の事に詳しいのって、要は真田が幸村の事に詳しいのと全く一緒。それは別に全然気にならない。
・・・いや、分かっている。
別にその真田の部分が紀伊梨に取って代わったからって、抱く感情が変わる方がおかしいのだ。
「・・・分かりたい?」
「え?丸井君の考えてる事を、ですか?」
「そう。」
分かりたいか。
丸井の事が分かるようになりたいか。
「・・・・・・」
「・・・紫希?」
「・・・・・・」
「あの。別に答え難いなら良いから、」
「・・・私、分かるようになりたいです。」
「・・・そう。」
「でも、分かりたくない気持ちもあります。」
千百合はちょっと目を見開いた。
「・・・どういう事?」
「私、今、丸井君の事良く知ってるとはとても言えません。でも、知らないままでも今が楽しいんです。寧ろ知らないから楽しいんだなって・・・そう思う時が沢山あります。私、丸井君だけじゃなくて千百合ちゃんや皆に対してもそう思ってます。皆が何を考えてるか私は知ってる分かってる、なんて偉そうな事言えませんけれど、でも・・・皆の全部をもし仮に神様にでもなって知ってしまったら、きっと毎日こんなに楽しくないです。」
勿論、知らないという事は色んなアクシデントも齎してくる。
えええ・・・そこでそれするのか、えええ・・・みたいな思いもするし、時にはどうして分かってくれないんだろうともどかしい思いもする事もある。
でも妙な話だが、紫希はそうやって自分の思い通りにならない友人が好きだな、良いなと思うのだ。例えそれが楽しい時じゃなくても。喧嘩してる時でも、意見がぶつかってる時でも。
「なので、そう・・・あ!クリスマスプレゼントみたいな感じです!」
「は?」
「プレゼントって、開ける前でも楽しくはないですか?何が入ってるのかなっていうワクワク感というか、勿論最終的には開けますし開けた後も楽しいんですけれど、開ける前独特の楽しさというか・・・開けた後は、中身が予想通りでもそうじゃなくても嬉しいというか・・・」
「・・・・」
「・・・へ、変です?」
「ううん。」
実に「らしい」と思う。
「そうか。」
「え?」
「こういう事か。」
「え?え?」
千百合は今、紫希がどう言うかと推測なんて立てていなかった。
紫希ならどう言うかわからなくて、それが聞きたくて聞いた。
紫希はいつも周りに対して今の自分みたいな気持ちなんだろう。
この人はどう思っているかな。
どうするかな。そうか、そうするのか。そう思っているのか。
その一連の発見そのものを良い事、嬉しい事楽しい事と捉えているから、紫希は基本人とぶつからないのだ。
成程。
知らないと言うのもなかなか良い物かもしれないとは思った。
勿論まだすっきりしてない気持ちはあるけれど、楽になった気もする。
「ありがと。ごめん、変な事聞いて。」
「いえ、お役に立てたのならそれで良いんですけど・・・」
何故そんな事を。
と問いたい気持ちはあるが、千百合は基本話す気にならないと話さない事を紫希は知っているので、これ以上は突っ込まない。
(分かりたい、かあ・・・丸井君の事を?分かりたいか・・・・)
いや、勿論友達だから、どうでも良いです知りたいとも思わないです、とかそんなわけはない。知りたいと思う気持ちはある、ちゃんと。
ただ、知りたい知りたいもっともっと!みたいなそんな感じじゃない。
そういう、矢も楯も無い様なガツガツした焦燥感とは違うのだ。
そうじゃなくて。
もっとこう、ふわっと柔らかい様な。それでいて何かはっきりもしてるような。
ああ、上手く言えない。
上手く説明できない。
自分でも掴みかねてる。
普段詩とか書いてるのに、こういう時は役に立たない。
「もっと色々読みませんと・・・」
「え?」
「え?」
「私が、本読んだ方が良いって話?」
「違います、違います!」
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