Camp school:Light of fire

山は町よりちょっと日が早い。
カレーをどうにかこうにか作り終えてふと気づくと、もう日は沈み切る直前で教師陣はキャンプファイヤーの準備を終えていた。


「点けるぞー!離れて離れて・・・こら、だから近づくなって!」


「舐められとるの。」
「あの先生が、付き添いを頼んでた先生だったね?」
「ああ。新海先生な。C組の・・・」

頼りがいありそう。
とは言い難い、やっぱり。
一生懸命なのは伝わってくるけど。


「行くぞ!行くぞ!・・・点火!」


炎は組木を舐めるようにちろちろと伝わり、あっという間に大きく燃え上がった。

「おーーー!凄い凄いーーー!あ!ねーねー、カレーは?カレーカレー!」
「紀伊梨・・・」
「一瞬しか見てないね、五十嵐ちゃん。」

花より団子を地で行く紀伊梨は、キャンプファイアーをさくっと後回しにしていそいそとカレーを盛りつけ始めた。

「カレー♪カレー♪紀伊梨ちゃんのー、きのこカレーは・・・はっ!良い匂い・・・あー!桑ちゃんだー!」
「ん?ああ、五十嵐。」
「桑ちゃんのカレーなーにー?良い匂いすんねー!」
「別に普通のキーマカレーだけどな。」

これも食育の一環。
あるだけの材料の中から、お好みのものを選んで好きなカレーを作ってみてごらん、というもの。
紀伊梨の班はきのこ入り、桑原の班は挽肉を使ったのだった。

「あ、桑原君だー。」
「桑原、ちょっと何か言ってやって。紀伊梨ったら、キャンプファイアーそっちのけなんだから。」
「五十嵐ちゃん、カレーは逃げないよ?」
「逃げるよ!?何言ってるのさっちゃん!逃げるよ!逃げます!」
「何処によ?」
「ブンブンのお腹の中だよ!それこそ桑ちゃん、なんとか言ってよブンブンにー!」
「ああ、気持ちはわかるぜ凄く・・・」

それこそ食い物を取られる事に関しては桑原の方が年季が入っている。
出た結論としては「諦めた方が良い」なのだが、紀伊梨に言ってもおそらく納得すまい。

「まあ今日は山ほどおかわりがあるから、流石に大丈夫だと思うぜ?安心してキャンプファイヤー見てれば良いさ。」
「そーお?じゃーそーしよっかなー!よし!ねーねー皆、前行こー前!」
「お、おいちょっと待て!行くから!行くから引っ張るな!」
「桑原君って苦労性だよね。」
「前門の丸井後門の紀伊梨か・・・うわ、私無理!」
「どっちか片方の相手だけでも大変でしょ?」
「ああ、それは良いんだ。もう慣れたし・・・」
「何か言ったー?ぜんもんの?こーもんの?」
「何でもないない!」
「行こう行こう。」

キャンプファイヤーはかなり大きな火に育っていた。

ここは元居たホテルからかなり離れているし、周りに照明になるようなものが見当たらないけれど、それでも辺りは炎のおかげで明るい。

「すごーい!きれー!あったかーい!」
「ああ、丁度良いな。もう夜だし涼しいし。」
「そーだねー!涼し・・・あ!しまったー!桑ちゃん、ちょっとカレー持っててー!」
「良いけど、どうしたんだ?」
「そろそろもっかい虫よけスプレーかけとかないとねっ!桑ちゃんも貸したげるー!紀伊梨ちゃんが終わったら交代ね!」
「・・・・・・」
「桑ちゃん?どったの?」
「あ、いや。なんでもない、有難うな。」

つくづく日本の蚊は良いよな、と桑原は思ったのだった。
何せ弱い。
そして人を殺しにかかってこない。精々デング熱位のものだ。黄熱病もジカ熱も持ってない。
刺されちゃったー、痒いーで済んでいる日本の人々を見た時、桑原は日本に来て良かったと思ったものだ。

「不思議なもんだよな・・・」
「え?何が?あ!虫よけスプレー?そーだよねー、紀伊梨ちゃんも昔から不思議なんだよー!どーしてこれで寄って来なくなるんだろーね?煙いから?」
「そ、そうじゃなくてな・・・偶に自分でよく分からなくなるんだよ。なんで自分は今日本に居るんだろうって。」
「お・・・?」
「ほら、俺はブラジルに居ただろ?親父も別に、国外に転勤があるとかそういう仕事じゃなかったし。まあ母親が元々日本人だったからそういう意味では縁はあったけど、日本に引っ越すなんて全然想像もしてなかったしな。」
「・・・・」
「なんだかこうして普段と違う事をしてると、何故かまだブラジルに居た頃の事を思い出すんだよな。ああいう生活してたなとか、ブラジルではこういう時こうだったよなとか。もし日本に来なかったら、俺は今頃どういう生活だっただろうとかーーー」
「桑ちゃんブラジルに帰るの!?」
「は?」

何故だよ。そんな話一言もしてないよ、どうしてそうなるんだよと思う桑原だが、紀伊梨の目は本気の色をしている。

「ちょ、ちょっと待て!俺はそんな事言ってない、」
「でもこれから言うかもしれないじゃん!こないだ読んだ漫画に描いてあったもん!こーやって昔の話をする時は、話終わったら言うんでしょ!?「なあ、実は俺・・・今度、ここを離れることになったんだ・・・」みたいな感じになるんっしょ、知ってるんだからね!」
「しない!何の漫画だか知らないけど、関係ないからな!」
「えー、そんな事言ったってー・・・桑ちゃんは放っておくと一人でどっか行っちゃうからー・・・ほら迷路の時もさー。」
「人を迷子常習犯みたく言わないでくれ。」

紀伊梨にだけはこの手の事を言われたくない。
迷子になるのは紀伊梨の得意技の方じゃないか。

「兎に角、別に引っ越しだとか日本を出て行くとかそういう話じゃないからな。」
「そなの?」
「ああ。ただ、思い出しただけだよ。こう・・・火とかぼーっと見てると昔の事とか思い出すと言うか、普段考えない事考えたりしないか?」
「そお?そーかなー・・・」

桑原がそう言うので、紀伊梨はカレーを食べつつちょっとキャンプアファイヤーをじっと見つめてみた。

火か。
確かに火をそんなにじっくりと見る機会はそうそう転がって居ない。
最後にガス以外の火をまじまじと見たのはどこだっけ?

ああそうだ。
灯篭の火だ。
旅行に行った時だ。

あれ?でもそういえばあの時あまり父と一緒に居た記憶がないような。
と思ったら、そうだそうだ。あの時父は1週間の出張に行っていたんだ。それで母親が、金曜日の夕方出発で自分達も行っちゃおうと言った。お父さんの仕事は日曜の午前中で終るから、それまで4人で観光しようね、と。
お父さんが合流したのは、日曜の午後から。そうだ、だからあまりお父さんが居た記憶が無いんだ。旅行先で過ごした時間の半分以上、お父さんが居なかったから。

本当は土曜の夜から合流できる予定だったけど、忙し過ぎて伸びてしまったんだ。お母さんはちょっと寂しそうな笑顔で、しょうがないよねー、と言ってたっけ。お父さん、当てにされてるんだよねって。最近支社が出来たばっかりだから、人が足りてないんだよって。
ししゃってなんだろーとか思っていたら、姉が見て見て紀伊梨、蓮も!と言って前方を指差したのだ。

『ほら、灯篭祭りだよ!』

そうそう。
灯篭祭りが見えたんだった。

楽しかったな、熊本。

「熊本行きたいなー。」
「えっ!?」
「んお?」
「・・・待て、お前は引っ越さないよな?」
「ん?あ、もしかして今熊本って言ったから?違うお!昔熊本に旅行した時の事思い出しただけー!」
「ああ、吃驚した・・・お前、自分で言っておいて人の事驚かすのは止してくれよ。」
「えへ、めんごめんごー!そーいうつもりで言ったんじゃなかったからさー!でも、又行きたいな熊本ー!今度はちゃんとおとーさん入れて!」
「ん?行った時は、お前の父さん一緒じゃなかったのか?」
「お仕事だったんだよねー!熊本に支社?があるんだって言っててー。あ、でもでも!お父さん最近又忙しそーだから、今年はあんまし旅行出来なさそーかなー。セーシェルは毎年だから多分行くけど、他の泊りがけはちょっとしんどいかもー。」

セーシェル行けたら十二分じゃないか。
桑原は思わず遠い目になって思うのだった。


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