Camp school:Light of fire


「あははは!」
「何笑ってんの?」
「いや、どこに居るのかなと思ってて、ちょっと探してたんだよ。こんな所に居たんだ。」

千百合は、炊事場に居た。
そう、炊事場に。カレーとか手洗いがある、調理をしていた場所に座っていた。
決して屋根の下から出ない。虫嫌い。

「キャンプファイヤーは見えるけど・・・暗くないかい?」
「手元は見えるし。電気つけたら蛾が来るし。」
「そう。隣、良いかな。」
「良いよ。」

周りには本当に誰も居なかった。
林間合宿まで来て屋根の下に引っ込むという思考の持ち主が他に居ないらしい。
随分離れたところには数人の姿が見えるが、流石に少数派らしく皆各々スマホを持ってたりなにやらひそひそ話に勤しんだり。

「近くで見なくて良いの。」
「何度か見せてもらったからね。春日のお父さんに。」
「ああ。まあね。」

紫希の父親は、ちょくちょく一同をキャンプに誘う。
その際、流石にこんな大きな火ではないがちょっとしたキャンプファイヤーもやってくれるのだ。

「私あのくらいの火の方が好きだわ。」
「そうなのかい?」
「なんか手ごろじゃん。大袈裟じゃないっていうか。」
「ああ、そうだね。ほっとするサイズかもしれないな。寛いでぼんやり見るには、あっちの方が向いているし。」
「虫はあっちの方が多いけどね。」
「あははっ!そうだね、春日のお父さんはビールを飲むから。どうしてもね。」

屋外できゅーっと一杯やるのが良いんだと大人は言う。
これは紫希の父親に限った話じゃない、親はみなそう言う。驚いたことに、普段ビール飲まない母親達でさえ同意を返すのだ。

「ビールってそんな美味しいのかしら。」
「あんまり良いものじゃないよ?」
「飲んだことあるの?」
「ふふ。昔、ジュースと間違ってね。」
「ああ、まあ。美味しそうではあるかも。でも美味しくないんだ。」
「苦味だけだったなあ。それから炭酸の感じと。」
「甘くないの。」
「なかった。」
「酸味は。」
「無い。父さんも、あれは味じゃなくて喉越しを楽しむものなんだって言ってたけどね。」
「へえ。味は割とどうでも良い感じなのね。」
「あはは。どうでも良いは言い過ぎかもしれないけど、確かに味は二の次三の次なのかもしれない。その時はすぐ吐いてしまってもうそんなに良く覚えてないけれど、美味しいとは思えなかったって事は鮮明に覚えてるよ。」
「ふうん。」
「千百合は間違って飲んだ事は無いのかい?千百合の所は、お父さんもお母さんも晩酌が好きだよね。」
「あー、そうね。確かにうちは2人共酒が好きだわ。」

面白い事に黒崎家の両親は、2人共下戸のくせに酒を飲みたがる。
夕食を食べた後、ふと気づくと2人してダイニングテーブルに座って、つまみを出しながらビールだったりワインだったりをちびちびやっているのをとても良く見かける。

「んー、でもうちの母さんそういうのは厳しいから。子供が食べて良い物悪い物とか。昔父さんが私と兄貴に一口だけって焼酎勧めた事あったらしいけど、母さんブチ切れて父さんを病院に送ったらしいよ。覚えてないけど。」
「・・・そうなんだ。」

母、黒崎純子の激しさは幸村のみならずビードロズ全員が知っている。ビードロズ達だけでなくその親達もよくよく分かっているが、父・雄一の常識のズレぶりを見て「あそこはアレでバランス取れてるみたいだから・・・まあ、夫婦の形は色々だよね・・・」と思っている事を黒崎家だけが知らない。

「うちの親2人共弱いから、私も多分弱いのかな。飲んだ事無いけど。」
「ああ、遺伝するって言うね。」
「精市のとこどうだっけ。」
「うちは2人共強いよ。改まった所に外食したりする時なんか、2人共食前酒から食後酒まできっちり飲んでるけど、全然顔色が変わらないしね。」
「良いな。」
「羨ましいかい?」
「そこまででもないけど、弱いよりは強い方が楽そうっていうか便利そうじゃん。何かと。」
「まあ確かにそうかもしれないけど。・・・でも個人的には俺は千百合が弱いなら、それはそれで良い事もあるかなと思うよ。」
「何、良い事って。」
「大人になって一緒にお酒を楽しめるようになったら、ほろ酔いの可愛い千百合が見られるかもしれないだろう?」
「・・・・・・」
「今も言ったけど、うちは父さんだけじゃなくて母さんも強いからね。酔った姿を見るのはなかなか大変なんだって、父さんが言ってるのを聞いた事があるんだ。」

幸村夫妻のうわばみぶりは筋金入りで、幸村と妹の松は「酒に酔う」という事がどういう事なのか全然分からなかった。物語等で登場人物が酒を飲む描写があっても、何故飲んだ後急に様子がおかしくなるのか分からず、兄妹で「?」と思っていたものだった。
そうして父親に酔うとは何かと聞いたら、説明してくれた後、妻に対するちょっとした苦労をぽろっと零したのだった。

「飲み比べになってしまうから、ちょっと大袈裟だけど覚悟ってものが要るんだって。金銭的にも体力的にもね。」
「・・・・・」
「でも、それはそれとして好きな女性がほどほどに酔ってる姿は可愛いものだからって言ってて。その時俺はまだ小学生にもなってなかったから、そうなんだ位にしか思ってなかったけど。でも今は、父さんの気持ちが想像位なら出来るかな。」
「・・・酔った人間なんて別に可愛くもなんともないけど。」
「どうしてそう思うの?」
「母さんの事可愛いと思った事ないから。」
「あはは!そりゃあ、娘が酔った母親を見ても可愛いとは思わないさ。でも、雄一おじさんはきっと純子おばさんを可愛いと思って見ているよ。俺もきっとそうなると思うな。」
「・・・どうだか。」
「どうだかを知る為にも、なんだか早く大人になりたくなるね。こういう話をしてると・・・はい。」
「ありが・・・これは気分なの?」
「ふふっ。そう、気分だけでもと思って。」

紙コップに継ぎ足しして貰ったお茶。
わざわざラベルを上にされたペットボトルから注がれたそれは、キャンプファイヤーの炎に照らされて揺らめいて。
なんだか、飲むと酔うような気がした。

「・・・ん?」
「うん?」
「精市の家って、2人共強いのよね。」
「うん。」
「って事は、精市も強いんでしょ?」
「ううん、試した事はないけれど。でもアルコールへの強さは遺伝だって言われているし、多分ね。強いと思うよ。」
「じゃあ私は精市の酔った所は見られないわけ?」
「・・・・・・」
「なんでそっち向くのよ。」
「そうだ、この前部活であった話なんだけどね、」
「おい、話題変えるな。」



5/6


[*prev] [next#]

[page select]

[しおり一覧]

1年1学期編Topへ
1年夏休み編Topへ


-