Rare holiday 1


本当に特に希望の無かった可憐は、言われるがまま待ち合わせの時間に行き、電車に乗り。

そしてふと気が付くと、2人は神奈川の地を踏んでいた。

「・・・東京じゃないのっ?」
「そうなの♪新しく出来たブランドなんだけど、本店が神奈川だっていうからなかなか行けなくって!」

ウキウキの網代。でも、可憐も遠出(とは言いつつ隣県だが)は久しぶりで、浮足立つ気持ちはどうしても押さえられない。

「よしっ!じゃあ早速行こうっ!」
「ええ!じゃあ先ずバスが・・・可憐ちゃん!後ろ!」
「え?きゃあっ!」

そうだった。
自分は浮かれるとどうしても周囲が疎かになるのだ。

ロータリーの方を見ようとして、明らかに何もないようなアスファルトの上で足を器用に縺れさせた可憐は、いつもの習慣でどってっと転んで痛い思いをする覚悟を決めた。

「・・・あ、あれ?」
「おい、大丈夫か?」
「は、はいっ!ごめんなさい、大丈夫で・・・あれっ?」

偶々支えてくれた親切な人を振り返ると、なんだか見たことがある顔。

「あれ?お前・・・」
「可憐ちゃん、大丈夫?こんにちは、桑原君!有難う、ナイスタイミングよ!」
「桑原・・・あっ!そ、そうだっ!立海のテニス部の桑原君っ!」

そうだそうだ、思い出した。
ヘリからもちらっと見たし、立海に見学に行った時も見た。
立海のデータを一通り網羅している網代は勿論である。

「やっぱり、お前らってあれだよな。氷帝のあの、ヘリに乗ってた・・・」
「あ、う、うん・・・そう・・・」
「ふふふっ!私達すっかり「ヘリの人」扱いね。」

もうちょっとまともな出会い方したかったなあ・・・と思いつつ、まあもうその辺は今更遅い。

「あの時は有難うな。彼奴らが世話になって。」
「ううん、そんなっ!元はと言えば私がお世話になった側だったんだしっ!」
「気にしないで頂戴?我が部の部長様は派手好きだから、あの位のことはまあ度々ある事よ。」

(度々?)

あんな事度々あって良いもんじゃ無いと思うんだが、良いんだろうか。
とは思いつつ突っ込まない桑原は、中学に上がってから大分自分の見識が広まったのを感じる。
世の中には自分の常識で推し量れない、いろんな人が居る。本当にね。

「今日は?彼奴らと遊びに来たのか?」
「あっ、ううんっ!今日は違うんだっ!」
「お買い物に来たのよ♪」
「買い物・・・東京から出てか?わざわざ神奈川まで?」
「そーよお♪此処にしかお店のないブランドがあるから、目当ては其処ね!」
「そ、そうか・・・なんていうか・・・凄い気合いだな。」
「勿論!夏がもうすぐ始まるんですもの!水着に浴衣に、女の子は皆忙しいのよ!それでなくても、毎日忙しいんだから。」
「ああ・・・まあ・・・」
「だよね・・・」

お互いにお互いが血反吐吐きそうなほど忙しいのは良く知ってる。
よおおく知ってる。
直接聞いたことなくても、小耳に挟むだけで十分過ぎる位だ。

「やっぱり立海も忙しいよねっ?」
「そうだな。まあ、元々暇になるとは思って無かったし、練習がきついのは望むところって言えば望むところだけど・・・」
「けどっ?」
「思ってたより、中学上がって色んな事が楽しいからな。俺が2人居て、練習と遊ぶのと両方できたら良いのに・・・とかは最近よく思うな。」
「分かるっ!分かるよ桑原君っ!」

全力で同意したい意見。
自分だってそれは同じである。

ちょっとジレンマじみているが、毎日忙しくて、そんな毎日を良く見知った友達と過ごして。
良い事も悪い事も一緒に体験しながら濃い学校生活を送っていると、日々を重ねれば重ねるほど皆と過ごすのが楽しくなるから、余計に一緒に遊びたいと思ってしまうのである。

「私も分かるわ。結局、時間なんて幾らあったって足りないのよね。」
「ああ。勉強のこともあるしな。」
「「ああ・・・」」

此処でさらーっと勉強の話題が入る辺り、立海ってちゃんとした人が多いんだなあと思う。
別に可憐とて友人が皆勉学を無視してるなどと言う気はないが、明らかにその辺の事をなあなあで済まそうとしてる者も結構居るので。

「と・・・時間と言えば、引き留めて悪かったな。」
「あ、ううんっ!こっちこそ助けてくれて有難うっ!」
「そっちも今日は休みでしょ?お互い良い休日にしましょうね♪」
「ああ。じゃ、また。」

そう言って去っていく桑原の背を見送る2人。

「やっぱり立海って忙しいんだねっ!」
「そうねえ。まあ調べのついていた事ではあったけど、ね。」
「でも、何か私ホッとしちゃったっ!立海の人でも普通の所もあるっていうか、遊びたいとかって思うのは一緒なんだねっ。」
「ふふっ!そりゃあそうよ、私達青春真っただ中の中学生ですもの。」
「うん、そうだよね。」

それから、もう一つ。
さっきの桑原からの口ぶりからは、テニスも充実しているけれどそれ以外の学校生活の部分も充実していることが良く伺えた。

その中にはきっとビードロズとの友情も大きく関わるのだろう。
活動の場を違えても、マネジとしてじゃ無くても、4人はテニス部と交流を深めてテニス部を支えているのだ。
可憐自身がテニス部で毎日過ごす傍ら、伊丹達と過ごす時間に支えられているように。

(皆頑張ってるんだなあ・・・)

「可憐ちゃん。バスこっちよ。」
「あっ、うんっ!」

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