Rare holiday 1
水着目的で神奈川くんだりまで来た2人だったが、購入は浴衣が先であった。
網代が行きたい浴衣ブランドの店の方が近いからである。
「楽しみだわ〜♪今年はどんな柄にしちゃおっか。」
「色々あって迷っちゃうよねっ!」
「可憐ちゃんはどんなのがお好みかしら?」
「私?ええと、ううん、特に好みとかはないかなっ?フィーリングっていうか、その時好きなのにする事が多いからっ。」
「ふうん・・・」
「・・・茉奈花ちゃん?」
「・・・白ね。」
「えっ?」
「可憐ちゃんは白地が似合うタイプとみたわ!そうでなくても濃い色よりはパステルカラーの方がベター、ね。帯や柄の色も紺とか黒とかよりもっと彩度が高くてカラフルなやつで、シックよりもパッと見て華やかな方が」
「そ、そうなのっ?」
ファッションに疎いとまではいかないが、取り立てて明るいわけでもない可憐としては、アドバイスを受けてもほう?そうなんです?としか言えない。
その点網代は流石というか、やっぱり好きな人は詳しいんだなあ・・・なんて感心しきりである。
「若しくは黒とかに挑戦するなら、もっとガラッとイメージを変えて可憐ちゃんの元気な持ち味を崩さずに・・・そうだ!いっそ髪を染めてみるとかはどう?メッシュを入れたり、巻いてみるのも良いかも!」
「い、いや!それは良いですっ!」
「あら、なんで?心配しなくても、我が校の生徒会長様は髪如きで目くじら立てたりしないわよ?」
「そっちじゃなくてっ!そういうのはなんかこう・・・ハードル高いっていうかっ!」
髪を染めたりなんて今までした事ないし、しようと思った事も無い。というか可憐の中ではそういうのはまだちょっと自分には早いなという心理的な抵抗があるのだ。
学校の規則的には別にさしたる事じゃない。王は生徒の髪が染まっていようが巻かれていようが、それこそ赤メッシュだろうが青メッシュだろうが好きにすればよろしいと言うだろう。
「えー?可憐ちゃんのイメチェン見てみたかったんだけどなあ・・・あっ!此処!此処よ、此処!」
「おっきい・・・!」
浴衣屋さんという響きで勝手にこじんまりした店舗をイメージしていた可憐は、思いがけない大きい店構えに面食らった。
「な、なんか凄そうだねっ!」
「ふふふ♪私、浴衣といったら大体此処で買っちゃうんだけど良いわよ〜?大概のものは此処で全部揃っちゃうから。」
「そうなんだ。」
「彩館ーsaikanー」と掲げられた看板の下の扉を潜ると、浴衣並びに沢山の浴衣グッズがわっと立ち並ぶ空間が広がっていた。
店内は落ち着いた雰囲気ではあるものの、人気の大手チェーンというだけあって人の入りはなかなか以上。
(色んな人が居るなあ。)
年頃の女性は勿論、子供、お年寄り、男性の姿も沢山・・・と目を走らせていると。
「あっ!」
「え?・・・あら!幸村君じゃない!」
「うん?・・・ああ、君達。氷帝の。」
其処に居たのは幸村だった。
こんにちは、と微笑まれて可憐はちょっとドキッとする。
ヘリから見た時は遠過ぎてよく分からなかったが、こうしてちゃんと見ると。
「ううん・・・」
「?何かな。」
「ううん。こうして面と向かって顔を見ると、凄い美形だわって思っちゃって。」
「あっ、やっぱりそうだよねっ!」
日々跡部を目の前にして、美形に大概慣れている可憐と網代でさえも整った顔だと思う。
イケメンとかかっこいい、というよりはどちらかと言うと男女関係のない綺麗さと言おうか、麗人という奴だ。
(幸村君も、もし怒ったりする事があったら怖かったりするのかなあっ?)
いつだったか、榎本が「美人が怒ると怖い」と言っていたのを思い出す可憐。
実際は怖いどころの騒ぎに収まらない事を、可憐はまだ知らないでいられた。
「ふふっ、有難う。自分ではそうは思わないけどね。」
「鏡を見るのをお勧めするわよ?ほら、丁度その辺に山程あるし。」
「そうだ、幸村君も何か買い、に・・・」
買いに来たの、と尋ねようとして可憐は言葉を詰まらせた。
え、それは。
その手に持ってる品は。
「へえ・・・攻めるわね、幸村君。」
「えっ?そうかな、俺はかなり大人しいデザインだと思うんだけれど。」
「あっ、違うわよ?それそのものじゃなくて、発想が攻めてるって話、ね。こういうのは趣味に合わないと簡単に箪笥の肥やしになっちゃうけど、そうならない自信があるんでしょう?」
趣味に合わない。
箪笥の肥やしに。
その話の流れで、可憐はやっと合点がいった。
「・・・あっ!ああっ!ご、ごめんなさいっ!私、幸村君が買うんだと思っててっ!」
「ん?うん、俺が買うんだよ。」
「あ、うん、買うんだけどっ!」
「・・・ああ!もしかして可憐ちゃん、幸村君が自分で使うと思ってたの?」
「はい・・・」
ああ恥ずかしい。顔から火が出そう。
ちょっと考えたら分かるというか、普通は分かるぞ。何で今幸村が自分用に選んでると思ったのか、逆に不思議だ。
幸いにも幸村自身は気を悪くした風ではなく、寧ろ可笑しそうにあははっ!と笑ってくれた。
「自分用のはこっちかな。」
「本当にごめんなさいっ!」
「自分用のもあるのね・・・というか、一式買うのね?」
幸村の持っているカゴは、おそらく自分で着る用であろうあれこれが全部入っている。
幸村は微笑んでカゴをちょっと揺らしてみせた。
「皆で浴衣で夏祭りに、という事になってね。勿論、部活の後になるけど。」
「部活の後に浴衣か。なかなかハードね。」
「大変そうだね・・・」
「確かにスケジュールとしてはタイトかな。ただ、こうでもしないととても時間を作れないから、多少の無理はね。」
「まあそれは分かるわ。お互い様、ね。」
「時間無いよねっ。」
「でも、時間が無いながらにそういう計らいは出来ちゃうわけ、ね?」
網代の目は幸村の手の中の品に向かう。
「大した事じゃ無いさ。俺にとっては単なるわがままだしね。」
「その大した事が出来ない男の子が、世の中にどれだけ多いかご存知かしらん?「神の子」はこんな場面でもパーフェクトなわけね。」
「神の子っ?」
「あら?可憐ちゃん、知らなかった?幸村君の二つ名よ。立海でそう呼ばれてるのよ、ね?」
「そうなのっ!?」
実は可憐は此処で初めて「神の子」というワードに出会ったのだった。
データ収集に携わっていたのは網代の方だったし、ビードロズの面々はそもそも二つ名とかにさして興味も無いので可憐にわざわざ話を振らないのだ。
「皆大袈裟なんだよ。」
「大袈裟なものですか、あの戦績を見て。いつかその内当たると思うと、今からそら恐ろしいわ。」
「そ、そんなにっ!?」
(か、帰ったら見て見ようっ!ああでも、ちょっと確認するのが怖い気もするっ!)
我等が王もかなり強い方・・・というか可憐が見ている限り敵なしなのだが、氷帝での敵無しが跡部とすると幸村は立海のそれなのであろう事は想像がつく。
もしお互い当たったとしたら、正にそれは頂上決戦と呼ぶべき試合になるんだろうか。
「そうだね。お互い勝ち進んで行けば関東の何処かでは当たるから、その時は胸を借りるよ。」
「あら、此方こそ。その時はよろしく、ね?」
まあ。
勝つのはうちだけどな。
幸村と網代がお互いにそう思っている事を、可憐は知らない。
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