100話記念企画 No.069
「・・・・・」
繊細な作業をする時は、無心よりは集中してやる派の忍足は、わかりにくいが今すごく集中している。
「お茶会」なんだから、お茶を注ぐのに粗相があっては本末転倒。
別にそんなにお茶に詳しいわけじゃないけれど、一応調べたし軽く練習したし。
「あ〜、良い香り!」
「うん、すごく良く淹れられてると思うよ。やるねー、忍足君。」
「ああ、なかなかのもんじゃねーの。」
「お褒めに預かって。」
(良く淹れられてんのか?これ?)
(わかんないっ!私も普段ちゃんとしたのは飲まないからっ!)
(美味そうだってのはわかるから良いんじゃねー?)
「zzzz・・・・・」
所謂良いお紅茶と、そうでもないお紅茶の差があまりよくわからない庶民組。そのこそこそ話をBGMに、芥川はまだ眠っている。
寧ろ、良い匂いがしてきて気持ちいいくらいに思っているかもしれない。
「桐生さん、茶葉は何かな?」
「アールグレイだよっ!イギリスにある、えーと・・・」
「「「「?」」」」
「えーと・・・えーと・・・あっ!オールディッジ社が出してるアールグレイの、一番良いやつを出して貰ったのっ!」
「よし。」
「ふうっ!」
「部長様ったら、こんな教育まで。」
「出してる茶葉の銘柄も分からねえようじゃ、恥だからな。」
「そんなのいちいち覚えんのか・・・」
「なんか大変そうだなー。」
「まあ、それなりには大変やで。そこの所は。」
こうやって、各種覚える事をちゃんと丸暗記するというのも大事な作業。
最も、慣れている者は覚えるのも早いが、可憐のように普通に生まれて普通に育ち、格式ばったお茶会に縁遠い者はこれだけでもう苦労する。
覚えている時はそんなに色々聞かれるかなあなんて思いながら指導を受けていたわけだが、成程。こうやって聞かれるわけだ。
「というか。」
「?」
「何故忍足が淹れてるんだ、お前が淹れるのが筋だろう?アーン?」
「無理ですっ!無理無理無理無理無理っ!」
「どうしてもあかんねんて。堪忍したって。」
「筋なのか?」
「ああ、うん。まあ。こういうお茶会は、ホスト役が淹れるのがマナーなんだよ。忍足君もホストといえばホストだけど、マダム役という意味では桐生さんの方がより良いだろうけどね。」
「いや、忍足で良いだろ。見てられねえぜ、怖くて。」
「ふふっ!まあ、可憐ちゃんも「怖い」って思って忍足君に頼んだんでしょうけど、ね。」
「ま、食器とかあるしなー。壊すかもしんねーし。」
「それ以前に危ねえだろ!紅茶だぞ、紅茶。火傷したらどうすんだ。」
「うーん?そこまでの大事には流石にならないんじゃないかな?流石に。」
「「だから甘いって。」」
芥川を幼馴染に持つ向日と宍戸は、この手の見通しを甘くすることが如何程危険かよくよく知っているのである。
可憐自身も自覚はある。
紅茶を淹れるなんて・・・よしんば淹れるのは出来たとしても、注いで回るなんて。無理、絶対無理。
「それでなくても壊しちゃうかもしれないのにっ!もし壊したら弁償・・・ううんっ、くれた先輩の気持ちを考えたら弁償じゃ済まないっ!」
「「「「くれた?」」」」
「貰いものやねん、これ。一式。・・・よし。可憐ちゃん、注いだで。」
「あっ、有難うっ!えと、じゃあ、乾杯っ?」
「乾杯は良い。普通に飲め。」
「やった、頂きま〜す♪」
網代の頂きますで、皆なんとなく一斉に口をつける。
「あっ、美味しいっ!すごく美味しいよっ!」
「本当、美味しい〜!滝君の言った通り、香りが良いわ!」
「へえ・・・何か、飲み慣れてないけど家のと違って美味いってのはわかるな!」
「そりゃまあ、俺らの家の紅茶って言ったらリプトンのティーバッグ1個4円みたいな世界なんだし。」
「それは本当に茶葉が入ってるのか?」
「景吾君、君が普段飲んでるものと他の人のを一緒にしちゃいけないよ。僕達はこれを湯水の様に飲めるわけじゃないんだから。」
「そういうものか?」
「跡部君ってこれを普段から飲んでるのかあ・・・」
「雲の上の話やな。まあ何にせよ、ちゃんと出来てるなら何よりやわ。」
忍足はひっそりと安堵の溜息を吐いた。
ああ良かった、緊張した。零すとか壊すとかは思ってなかったけど、美味しく淹れられる自信あるかといわれると、そんなに慣れてることじゃないし。
後やっぱり、ここでしくじると同じくホスト側である可憐の顔に泥を塗るようで。
「?忍足君、どうしたのっ?」
「いや、何でも。・・・うん、我ながら上手いこと出来たわ。まあ半分以上は茶葉のおかげやろうけど。」
「そんな事ないよっ!お茶が美味しくても、やっぱりちゃんと淹れられてこそだよっ!」
「・・・なー跡部。」
「アーン?」
「これって幾らくらいしてんの?」
「コストを聞くのはマナー違反だ。」
「良いじゃねーかよ、別にそんな改まらなくたって・・・網代?」
(向日君、向日君。)
(何だよ?)
(聞かない方が良いわよ、普通に飲めなくなるかもしれないわ。)
(・・・確かに。)
(ね?知らぬが仏よ。)
「そうだ、忍足。」
「?それはそうと、宍戸。サンドイッチのキュウリ零れるで。」
「おっと、危ねえ!じゃなくて、ほら。貰ったって話だよ。」
「あ、それは僕も聞きたいねー。」
「ああ、それなあ。何から言おか・・・」
説明したって伝わるかどうか、と思いつつ忍足は話した。
何か、お茶会愛好クラブなるものがある事。
よくわからないが気に入られてるらしいこと。
似合うからと持たされたこと。
「・・・それで、貰ったはええけど持て余してもうて。」
「いや、それは誰でも持て余すだろ!」
「ううん、それはちょっと正直迷惑だよね・・・」
「それで、お茶会を開くことにしたの?」
「えーと、それは私がわがままを言っちゃってっ!えへへ、ちょっとこういうのやってみたかったんだっ!」
「はー・・・って事は、もしかしてこれって盛大なままごとってやつ?」
「う!う、うんまあ、そう言われるとそうですとしか・・・」
「向日君、ロマンのない言い方は良くないわ!夢を叶えた、って言わなくちゃ。」
「まあ、結果的にはその押し付けてきた女の思惑通りにはなってるがな。」
「せやな。かなりしっかり使うてるし。」
そういう意味では確かに、跡部の言う通りあの先輩の誘導通りに進んでしまった、と言えなくもない。いや、別にそんな取り立てて逆らう気もないけど。
「でも、逆にここまでしないと使った事にはなんねえんだろ?」
「まあ、そうだよねー。カップとかだけなら日常使いできるかもしれないけど、シルバースタンドなんかはなかなか。」
「シルバースタンド?」
「ああ、これの事だよ。」
滝が目で示すのは、お茶会につきもののあれ。
スイーツとかサンドイッチとかスコーンが上品に乗っている、あれだ。
「へー。これシルバースタンドっていうんだ。」
「確かに、これに見合うだけの軽食っていうと絞られちゃうわ、ね。あ!勿論、今乗ってるのはどれも美味しいわよ?」
「本当っ?良かったっ!って、私が用意したものじゃないけどっ。」
「俺らメニュー決めしただけやからな。」
「つうか、これはどこから持ってきてんだ?」
「俺様の家のシェフに作らせた。」
「マジかよ・・・」
「食堂じゃねーんだ・・・」
「まあ折角だからな。食堂で出てくる物は食堂で食えるんだ。」
(なんだかんだ景吾君もノリノリだよねー。)
「でも確かに、これだけきちんとした品だと使えないからって箪笥の肥やしっていうのも勿体ないわね。」
網代がアプリコットジャムとクロテッドクリームを混ぜ混ぜしながら言った。
「もういっそ、部に置いといたら良いんじゃねえか?誰かがまた、こんな風にして使うかもしれねえし。」
「置いとく・・・ううん、良いのかなあっ?」
「場所的にはオッケーだけど、後はそのくれた先輩とやらの気持ちの問題だよね。」
「良いんじゃねー?置いといた方が侑士も使うだろ?」
「まあ確かに、「使って」て言われたわけやからええのかも知らへんけど。ただ・・・」
「ただ?」
「それはそれとして、今回みたいな事をまたその内やるかて言われると正直、」
「ん?ジロー、起きたのか。」
「ふあ〜・・・・うー・・・あれ?ここどこ?学校?あれ?っていうか、何か良い匂いするC!」
「あのなあ、ジロー・・・」
「あははっ!芥川君、ほらっ!お茶とおやつだよっ!これ、芥川君の分だからねっ!」
「えっ、俺の?やった〜!頂きまーす!」
寝たらここに至るまでの経緯が脳のどこかに仕舞い込まれてしまったらしい芥川は、全然気にしないであっさりティータイムに混じり始めた。
まあ今更誰も気にしない。芥川慈郎とはこういう男だ。
「うん、美味C!・・・で?俺なんでここでお茶とおやつ貰ってるんだっけ?」
「あはは・・・芥川君覚えてないっ?お茶会誘って、OKくれたでしょっ?」
「・・・あっ!そっかうんうん、覚えてるよ!あれ今日だったんだ〜!ごめんね、その日はちゃんと最初から起きてようって思ってたんだけど〜。」
「ううん、良いよっ。」
言っちゃ悪いが、こっちだって正直起きて来てくれるとは端から思っていなかった。
織り込み済みだから大丈夫だ。
「でもさ、でもさ!」
「?」
「それじゃ、このお茶とかお菓子とか、ぜーんぶ桐生ちゃんと忍足と跡部が用意してくれたんだよね?ありがとー!」
満面の笑みで礼を言う芥川に、皆がちょっと目を丸くした。
「・・・そう、ね。お礼がまだだったわ。有難う可憐ちゃん、素敵なお茶会よ!」
「えっ!?いや、あの、」
「そうだね、なんだかんだお喋りに夢中で後回しにしてしまってたよ。有難う、桐生さん。忍足君に、景吾君も。」
「サンキューな!」
「おう、また呼んでくれよ!」
「ちょ、ちょっと待ってっ!別にそんなお礼言われるような事じゃ、」
「素直に受け取っとけ。それもマナーだ。」
「ええっ!?そ、そう?かなっ?」
自分はやってみたいなとポロッと一言頼んだだけなんだけど良いんだろうか。
でも。
ちゃんとお茶会出来てるなら、それは嬉しい。
「・・・えへへっ!最初にも言ったけど、今日は皆、来てくれて本当に有難うっ!」
笑顔の可憐に、皆が笑顔を返すのを見て、跡部は満足そうに微笑んだ。
教えてくれというから教えたけど、お茶会なんて突き詰めればこれ。
皆笑顔。
これが一番良いのだ。
「ところで岳人、呼ぶ方にはならへんのん?」
「それは無理!俺には無理!」
「そない嫌がらんでも。」
「出来る出来ねえっつーよりやりたくねーんだもん。何かさっきから話聞いてたら、あれも決めてこれも決めてって、決めることだらけじゃねーか。」
「へえ。なあ桐生、そんなに大変なのか?」
「えっ?ああ、うんっ!その、結構決めないと行けないこと多くてっ!ちゃんと選ぼうと思えば思うほど頭が疲れてくるっていうかっ。」
「選ぶだけとはいえ、段々しんどなってくるな。あんまりこういうのをゲストの前で言うたらあかんねんやろうけど。」
「ぶふっ!」
網代が堪らず噴き出した。
いけない、こんな場で。はしたないはしたない、部長様に怒られる。
「網代ちゃん、何笑ってるの〜?」
「あ、ごめん違うのよ?実はちょっと前に、準備はどうかしらと思って部室に見に行ったのよ。ね?部長様?」
「ああ、あの時か。」
「いつの話やねんな。」
「声かけてくれれば良かったのにっ!」
「私もそうしようと思ったのよ?でも邪魔しちゃ駄目・・・っていうか、ホストが色々やってる場面にゲストの乱入はマナー違反だって、部長様に叱られちゃって。」
「アーン?当然だろ。」
「だから部屋の外からちょっとの間見てたんだけど、ね?確かに大変そうだったんだけどその・・・あははははっ!」
「もう、どうして笑うのっ!」
「ふふふ、ごめんごめん!あのね?なんだか二人が結婚式の準備してるみたいに見えちゃって。ほら、あれも色々決めないといけないじゃない?」
「え、」
誰が。誰と誰が、何の準備に見えたって。
言われたことを咀嚼するにつれてじわじわと顔に熱が集まりだす可憐。
「ちっ・・・違うよ、そうじゃないよっ!」
「良いじゃない、いい予行練習だと思えば♪」
「茉奈花ちゃんはそういう話好きやなあ。」
「ふふん。まあ女子ですから?」
「つーか、結婚式の準備とかどうやってするのかそもそも知らねーよ。」
「あ!俺、親戚の結婚式お呼ばれしたことあるよ!」
「呼ばれただけだろそれは・・・」
「まだまだ俺達には縁遠いよねー。景吾君なら知ってる?」
「まあ、ビジネスとして一通りはな。」
会話が流れても、可憐はまだちょっと恥ずかしい。
早く結婚式の話終わらないかな、終わった後また蒸し返されませんように、とか忙しい思いを抱えながら可憐はシュガーポットに手を伸ばした。
ガチャ!
「「「「「「「「あ。」」」」」」」」
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