100話記念企画 No.068



「さ〜く〜ら〜♪さ〜く〜ら〜♪」

「いーまー♪咲きーほこ・・・おっと。」

間違えた。
柳生は指を止めた。

「ふう、なかなか身につくのに時間がかかりますね。」
「そーお?あ、でもでもー。やーぎゅは普段はギター弾かないもんね!」
「そういう問題でもない気がしますが。」

どっちかというと自分がどうのより紀伊梨の習得が早すぎる気がする。

「どうも此処が苦手ですね。特に注意を・・・五十嵐さん?何か?」

指使いを確かめる柳生をじい・・・と見つめる紀伊梨。

「やーぎゅってさー。」
「はい。」
「意外と頑張り屋さんだよね!」
「何から突っ込めば良いでしょうか。」

聞く人が聞いたら怒る発言である。
真田とか、絶対怒る。意外とはどういう意味だ!とか言って。悪気0なのは重々承知していてもだ。

「だってさー、やーぎゅってあんまり頑張ってるイメージないんだよねー。こう、はふーはふー、ぜーぜーしんどーい!みたいなやーぎゅ見たことないしー。」
「努力してる姿を見せないのは紳士の嗜みで・・・心がけなければいけない事ですので。」
「へー!紳士ってそんな事も気を付けるんだ、たいへーん!」
「そうですね、大変なこともありますが。まあ進んでやっている事ですので。」

そう、別に誰にそうせよと言われたわけじゃない。
こういうスタンスの自分が好きだからやってるだけ。

今やってる練習だってそう。
別に何か大きく得するわけじゃない。ただ出来ない自分が気に入らないからやってるのだ。

「ところで五十嵐さん、お手数ですがこの辺りを一度弾いて見せて頂けませんか?」
「おお!いーよいーよ!どこどこ?」
「ここです。」
「ほいほい!ここはねー、えーとさ〜く〜ら♪さ〜く〜ら♪い〜ま、さ〜き〜ほ〜こ〜る〜♪って感じ!」
「桜♪桜♪今、咲きーほこ・・・おっと。」
「あり?おっかしーな、なんでだろ?もっかいやってー!」
「今、咲き誇る・・・ああまた。」
「???えー?今、さ〜き〜ほ〜こ〜る♪」
「どうも私はここの中指の動きが遅いようですね。・・・今、咲きーほ、こ、る♪」
「おおおお!出来た出来た!」
「やはりお手本があると捗りますね、有難うございます。」

お手本。
有難う。

その響きに、紀伊梨は頬がゆるゆるゆるっと緩んでいく。

「えっへっへー!ふふふーん♪まあいつでも紀伊梨ちゃんに聞いたら良いですよっ!」
「褒めたのは私ですが、嬉しそうですね。」
「嬉しいよー!紀伊梨ちゃんあんまり誰かのせんせーになったことないからさー。」
「おや?音楽の先生にはなられないので?」
「皆ギター弾かないもん!紀伊梨ちゃんTAB譜以外は読めないしー、他の楽器もやったことないし!」

(それでよくバンドを組もうと思うものですね。)

そんなんだったら色々弊害があって仕方なかろうと柳生は思うし、その推測は当たっている。
それらの全てを天性の勘で補っているのが紀伊梨だが、勘でやっていると説明しろと言われても出来ないから結局教師役にはなれない。天才の欠点である。

「だからやーぎゅ!遠慮なく紀伊梨ちゃんを師匠と呼んでくれて良いんですお!」
「いえ、そこまでは。」
「あり?」
「ええと、これの続きが・・・」
「ちょっとー、まだ話終わってないよー!やーぎゅってばー!」

無視しないでよー!と纏わりつく紀伊梨に柳生はそっと微笑んだ。

「冗談ですよ。」
「お?」
「少なくともギターに関しては私は素人ですからね。テストまでよろしくお願いしますよ、師匠?」
「・・・!よしゃこーい!」

今日も昼の音楽室にギターの音が響くのを、最近すっかり慣れた様子でセッティングされた楽譜と譜面台が聞いている。



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