100話記念企画 No.034

それからしばらく経った日。

「邪魔する。」

昼休み。
ボン、と千百合が弁当を放り投げるのは机の上。

ーーー紀伊梨の、机の上。

「いらっしゃい千百合っちー!」
「ん。」
「紫希ぴょん今日もー?紀伊梨ちゃんは寂しくなくて良いけどねん☆」
「そ、今日も。よくやるわ、あんな面倒な事を。」
「よ。」
「ああ。おす。」

当たり前のような顔をして割って入ってきたのは丸井。

隣の席を指して此処良い?と聞いてくるが、生憎千百合はそこの机の主が誰だか特に知らないので、責任は取れないけどと返した。

「お前らだけ?春日は?」
「授業。」
「は?」
「美術のお絵描きしてるんだってー!ほら、紀伊梨ちゃん達もやってるっしょ?」
「完成が間に合いそうにないんだってさ。ここんとこずっとよ。」

美術の課題というのは、とかく生徒によって進度のスピードに差が出る。
理由は不得手だからだったり、丁寧過ぎたり、拘りがあるからだったり、まあ色々。

天地はそういう生徒が出てくるのは仕方がないと思っているし、それならそれで構わないと思っている。
だから昼と放課後に第二美術室を解放して、時間外で描きたい生徒は来いと言ってあるのだ。

「へえ。すげえ頑張ってんな。」
「何か、描きたいものがかなりちゃんと浮かんでるらしくて。描けてないものがまだ沢山あるとか言ってた。」
「ふうん・・・」
「はいはい!紀伊梨ちゃんねー、それデ/ィズ/ニー/ランド描いてるんだよ!」
「安直か?」

夢の場所ってあそこの事でしょ?
あっけらかんと、且つ堂々と描き始める紀伊梨に、天地は最早何も言わなかったのだった。

「あんちょ?あ、千百合っちは何描いたのー?」
「自分の家。」
「「なんで?」」
「夢に見たんで。っていう体でいこうと思って。」

つまり、実際に見てはいないのである。
ただ、本当かどうか教師側は確かめる術がないのであって。

「手抜きじゃねえかよい。」
「紫希じゃあるまいし、いちいち真面目にやってられないわよ。つうか、そういうあんたはどうなのよ。」
「俺お菓子の世界。」
「そーそー!ブンブンの絵、めーっちゃ可愛いんだよね!」

お菓子の家があってー、川はチョコレートで出来ててー、山はホールケーキでイチゴの木が生えててー、みたいなのを地で描く丸井。
女子でもそんなファンシーな世界考えないわ、と千百合は内心で呟く。

「でもちょいちょい変な生き物居るよね?」
「だーかーら。変な生き物なんか居ねえっつってんだろい!」
「えー、居るよー!お菓子の家の屋根にさー、何かペリカンみたいな奴がさー。」
「ね・こ!」
「ちょっと待って。ペリカンと猫って何をどうしたら混同すんの。」

似て非なるものという言葉があるが、非なる以上にまず似ても居ないぞ。
片や哺乳類片や鳥類。片や四足歩行片や二足歩行。片や毛皮片や羽毛。うん、掠ってもいない。

「え、待って待ってそれはちょっと見たい。珍しく興味沸いてきた。」
「あ!じゃーじゃー、今から美術室行って見よーよ!ほら、紫希ぴょんも居るし!」
「マジ?いや、良いけど。」
「あ、あんたは良いんだ。異論ないんだ。」
「いやまあ、見てもらったら猫ってわかると思うし?」
「えー!絶対わかんないよ、あれはペリカンもどきだよー!」
「猫だっての。」
「はいはい、見りゃあわかるんだから。」

そうと決まれば、そんなにだらだらといつまでも食べては居られない。
紀伊梨や丸井に比べて大食と言えない千百合は、ちょっと箸のスピードを速めた。



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