100話記念企画 No.034


次の日の昼休みも、紫希は美術室で絵を進めていた。

(空を塗り始めたいんですけど・・・)

夢で見た空は綺麗にグラデーションがかかっていた。
美術部でも美術に明るいわけでもない自分に、果たしてちゃんと塗れるかどうか。

ちょっと、要らない紙で色々試して練習しよう・・・なんてやっているから、余計終わりが遠くなるのだが。

(こうして・・・こうして・・・ううん、何か変です。どうも不透明感があるような・・・もっと、こう・・・)

「よ。」

急にポンと叩かれる肩に振り向くと、昨日も来た客人が。

「丸井君。」
「どう?進んでる?」
「いえ、正直そんなに・・・」

昼休み割いてるのに勿体ないなと自分でも思う。
でも進みは遅い。

気分が乗らないから猶更。

「これ何やってんの?」
「あ、空を塗る練習です。夢で見た空が綺麗だったので、あれに近づけたいんですけど。」
「ふうん・・・」

ただ、思うは易し行うは難しで、どうも。

「丸井君は、何か御用ですか?」
「いや?なんとなく来ただけ・・・ああ。」

そういえばあった。
用ってほどの用じゃないけど。

「昨日聞けなかったんだけど。」
「はい?」
「シャンゼリゼって何?」

単語の意味の見当すらもつかない。

昨日は帰りに紀伊梨に聞こうかと思ったが、紀伊梨に聞いてもわかる説明が返ってくるかは怪しかったので止めたのだ。

「シャンゼリゼは、フランスにある通りのお名前です。」
「フランス?」
「はい。実際にある街並みで、これはその夢というか・・・私が夢に見た、理想のシャンゼリゼなんです。」
「へー。」

理想のシャンゼリゼ。
理想の、ということは。

「現実のシャンゼリゼは好きじゃねえの?」
「あ、いえ。そういうわけではないんですけど・・・その・・・」

思い出される。
もう2年くらい前のことだ。

「・・・丸井君、シャンゼリゼの曲をご存知ですか?」
「曲?」
「はい。Aux Champs-Élysées・・・♪っていう曲なんですけど。」
「あ!聞いたことあんな、それ。何かCMでやってなかったっけか。」
「色んなところで聞いたことがあると思います、有名ですから。私、昔にこの曲が大好きになって・・・・」







「「オー♪シャンゼリーゼー♪」」

この曲を知って、メロディアスなその旋律を一気に気に入ったのは紫希と紀伊梨であった。

当時小学5年生。
2人はこの時、暇さえあれば口ずさんでいた。

「お前ら本当に好きねw」
「ふふ。でも良い曲だよね。覚えやすいというか、口をついて出やすいというか。」
「まあ流行りそうな感じではある。」

キャッチーという言葉があまりにも相応しいこの曲。
紫希はこの曲を当時とても気に入っていた。

シャンゼリゼというのはフランスに実在する通りだとフランスに詳しい幸村から教えられて、紫希は猶更好きになった。

残念ながら幸村も訪れたことは未だなく、実際どういった雰囲気の所なのかはわからない。
そう言われて、紫希はますます遠い異国の地である「シャンゼリゼ」に思いを馳せるようになった。

今にして思えば。
行ったことがないと言いながらも、紀伊梨や皆とあんな所かなどんな所かな、きっとこの曲がよく似合う散歩したくなるような所だよね、と話していると、幸村はいつも若干苦笑気味だった気がしないでもない。

でもそれは本当に、気のせいと片づけてしまえるような些細な表情の変化だったし、この日も紫希は家で皆と遊びながら紀伊梨と歌っていた。

偶々だったのだ。
偶々、この日は父が早く帰ってきた。

「オー♪シャンゼリーゼー♪」
「お!」
「あ!お父さんお帰りなさい。」
「おじさん、お邪魔してます。」
「してますw」
「ます。」
「うん、いらっしゃい!ところで、今の曲・・・」
「あ!おじちゃん知ってるー?」
「ああ、知ってるよ!


ナンパの曲だよね!」


「「「「え。」」」」
「・・・・・」
「・・・あ、あれ?え、そう、だよね?だよねっていうか、そうなんだけど・・・」


紫希の思い込みは崩れた。




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