100話記念企画 No.005


「大体!男子は女子よりも大きい声でないと駄目なのよ?」

そう言う彼女は館野律子。1-Bの女子にして、合唱部の1人である。
彼女は「自分は合唱部だから」という自負がかなり強く、人一倍どころか二倍三倍くらいあるだろという熱の入れようで、今回の合唱テストにおいても自ら仕切り役を買って出た。

熱心なのは良い。
熱心なのは良いけど。

「ほら、続きいくわよ!そっちの端から一人づつ!嫌そうな顔しない!」
「んな事言ったってよー・・・」
「文句を言うな!」

そんな事言ったって、誰だって一人づつ皆の前で歌えとか嫌であろう。
しかも普段の和気藹々とした空気ならともかく、こんな風に音程が合ってるかがっちり確認しながら歌わされるなんて。

「夏のくーさーはーらにー・・・」
「ストップ!声が小さい!それから「に」の所、段々下がってるわ!最後まで音程を意識!」

(あーあ・・・)

端のクラスメイトが怒られているのを聞きながら、丸井はカシカシと軽く頭をかいた。

丸井は別に音楽嫌いじゃない。不得手でもない。
音楽の授業普通に好きだし出来るし、合唱だって普通にやってる。

けど。

「次、丸井君!」
「・・・夏のくーさーはーらにー♪銀河はー、高くー、歌うー♪」
「・・・よし、OK!次、矢吹君!」
「夏のくーさー・・・」
「違う!ストップ!」
「う・・・」

隣の矢吹は震えている。
彼は土台音楽が苦手なのだ。

「前も言ったでしょ?「さ」の所から上がるの!ほら、もう一回!」
「な、夏のくーさー・・・」
「ストップ!もう一度!」
「な・・・夏のくーさー・・・」
「ダメダメ、全然駄目よ!あれだけ家でやってこいって言ったのに、」
「なあ。」

あまりにもあんまり過ぎて、思わず丸井はストップをかけた。

「何?」
「あんま怒んなよ。そんな風にやったって音程なんか取れるもんでもないだろい。」
「取れるわよ!音程は意識して取ろうと思えば取れるの!」
「すぐは無理だって。」
「テストなのよ!?間に合わせないといけないの!誰かのせいで私たち全員不合格かもしれないのよ!?」

今の状況の方が不合格に近いと思う。
全然聞き入れてくれる気配のない彼女に丸井が溜息を吐いた所で、5限終了のチャイムが鳴った。


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