「黒崎さん。」
「・・・・・」
「あのね、難しいのはわかるわ。でももう少しこう・・・ほんのちょっとで良いから、貴方の思った事をね?」
「書いてます。」
広げられたあのねノートの文章の末尾の、とってつけた感ありありの「楽しかったです」の部分を指さして、小学1年生だった千百合はさらりと言った。
先生はそういうことを言いたいわけじゃないのは、千百合もわかっている。
分からないフリをしているだけだ。だって面倒だもん。
「・・・これだけしか思わなかったの?」
「はい。」
「・・・そう。それが本心だというのなら分かったわ。」
「はい、失礼します。」
ああやれやれ、めんどくさかった。
とか思いながら千百合が職員室を出て行こうとした時、担任の呟いた一言が千百合の頭をガツンと殴った。
「・・・一度親御さんと相談した方が良いかしら。」
まずい。
やばい。
まずい。
あのねノートで手を抜いてるなんてあの両親にーーーとりわけ父に知られたら、もっと面倒な事になる。雄一から「情緒の育ってない子」扱いされて心配されるくらいだったら本気出してあのねノート書いた方がマシだ。
しかし、重ねて言うが当時の千百合は小1だった。
周りより多少賢くて捻くれてはいても、小1だった。
つまり、考えが浅はかだったのだ。