100話記念企画 No.100


「あっ、おねーちゃん帰って来たあ!」

ソファに腰掛けながら振り向く妹。
美梨、ごめんねっ。今日ちょっと遅くなっちゃったっ。

ええと、それで録画の映画は・・・・

「笑点だよ!」

えっ?

「ほら、笑点だよ!」

えっ?えっ?どうして笑点っ?あの、映画はっ?金曜ロードショーはっ?

「お嬢さん、笑点だよ!」

お嬢さんって!?ねえ、美梨変だよっ!どうしたの、何で急に笑点とかお嬢さんとかっーーー










「お嬢さん、"終点"だよ!終点!」

「ふえ・・・?」

ゆさゆさと肩を揺すられてぼんやり目を開けると、さっきまで見ていた家やテレビや妹の代わりに、電車の車両と車掌さんと、荷物を可憐の分まで纏めてくれている忍足が見える。

やたら眩しい。視界が白む。
それに心なしかちょっと寒い。

・・・終点?

「・・・・!?こ、此処どこですかっ!」
「☆☆駅やて。」
「どこっ・・・!?」

そう、2人は忍足が最も恐れていた事態にーーー「寝落ちて終点まで乗り過ごし」という状況に陥ってしまったのだ。

最早聞いても「ああ、あそこね」とピンと来ないような所まで来ている。
ああ、地図を見るのが怖い。位置確認したくない。

「君達、帰れるのかい?家はどこ?駅から近いの?」
「まだ終電はあります。その子は俺が送って行きますし、終バスもあるんで。」
「そうかい?なら良いが・・・携帯は持ってるね?いざという時は、親御さんに車なり出して貰うんだよ?」
「はい。」

(うわあ・・・!)

駅員と忍足がやり取りしていて、更にその向こう。
頭上からぶら下がっている電光掲示板には、今まで生きてきて何気に初めて見る最終列車のアナウンス。

終電だ。マジのガチで終電なのだ。
これを逃したらもう自力では家に帰れない。

それに、当たり前だが家族からのLINEや着信も凄い。
えげつない通知の数。
そりゃあそうだろうとは思うが。

とか思っている間にも、母遥からもう何件めかも分からない着信。

「は、はいっ!もしもしっ・・・」

『可憐ーー!』

耳がキィン・・・となるような大声だが、今回ばかりは然もありなんとしか言えない。

心配したのだろう。
そりゃあ自分だって逆の立場ならそうなる。

「お、お母さんっ!」
『可憐、無事!?今どこに居るのっ!?学校は出たんだよね!?』
「ぶ、無事だよっ!何も危ない事にはなってないからっ!!ただちょっと、そのう、いつものドジを・・・」
『ドジ・・・?と、兎に角危ない目に遭ってるわけじゃないんだね?』
『おい、可憐は!?』
『あ、お父さん!取り敢えず大丈夫みたいだから、警察に大丈夫そうって連絡を・・・』
「け、警察っ!?」
『電話したよ、当たり前でしょ!?今から帰るねって言ったっきり連絡がつかないし、既読もつかないし帰って来ないし!』
「そ、そっか、そうだよね・・・」

子供の可憐はどうしても「警察」という響きにびびるが、ただでさえ遅いのに日付を越しても中1の娘が帰って来なかったら、親としては当然の動きである。
大袈裟なとか恥ずかしいとか言ってる場合じゃないのだ。

『ふあ・・・おかーさん、おねーちゃんと連絡取れたのー?』
『あ、美梨!そうなの、今この電話がお姉ちゃんと繋がってて・・・』
『ふーん?ちょっと代わって。』
『あっ!ちょ、』
『もしもし、おねーちゃん?』

ただ1人、限りなくいつものトーンで話しかけてくる電話向こうの妹の声に可憐はホッとした。こんな形で妹に落ち着かせてもらうって、姉としては若干複雑だが。

「美梨・・・」
『おねーちゃん、誘拐とかされてたの?』
「されてないされてないっ!」
『あは、やっぱり?じゃあ乗り過ごして終点とかまで行っちゃった感じ?』
「・・・はい。」
『だよね、そんな感じだって思ってたよ。』

これは親に何か言われるよりある意味聞いた。
情けない、超情けない。

『それで?』
「えっ?それでって・・・」
『どうやって帰ってくるの?』
「あっ、終電はまだあるからそれでっ!」
『一人?忍足さんはついてきてくれるの?』
「えっ!あ、ええと・・・」

どうだろうか。
最初は家まで来てくれる約束だったが、こんな時間にもなると車で迎えとかそういうのあるかもしれない。

どうかな、と思いながら忍足を見やると、いつの間にか駅員とは話し終えていたようで駅員は消えていて、忍足も家と電話中のようだった。

が。

『このアホ!』

電話越しでも普通に聞こえてくるような渾身の大声が、電話口の向こうから聞こえてきた。

『何やってんのん、あんたはほんまに!普段しっかりしてるのに、こんな時ばっかり抜けた事して!』
「・・・返す言葉も。」
『返す言葉もちゃうわ!他所のお嬢さんも一緒やのに、男の侑ちゃんがしっかりせえへんでどないするつもりなん!』
「・・・堪忍。」
『お姉ちゃんには謝らんでええねん!その可憐ちゃんいう子に謝んねん!』

激しいお姉さんだなと一瞬思ったが、きっと普段はこうじゃないのだろう。
こういう言い方でも、可愛い弟が帰宅しないのが心配で心配で、ほっとした反動できつい物言いをしてるのだ。

『大体あんた、そういう時は寝落ち警戒して起きとくもんやろ?何か喋っとくとか・・・』
「喋っててんけど。」
『ほんならなんでよ。』
「会話に集中してもうて、起きとかなていうのを忘れてもうて。」
『はあっ・・・・』

「はあ!?あんた何言うてんのん!」の「はあ」と、「はあ・・・もうあんたいう子はほんまに・・・」の「はあ」を足して2で割ったような「はあ」であった。

『兎に角、今駅やな!?』
「そう。」
『2人ともそこにおんねんな!?』
「そう。」
『最終列車にはまだ乗れんねんな!?』
「せや。」

『ほんなら、ちゃんとそれに乗って可憐ちゃんを家まで連れて行きなさい!!!』

そのつもりやって。と返事する気も失せるような大声であった。

『ほんで!送ったらその足で、そこから一番近いコンビニでも居り!お父さんに車出して貰うわ!』
「父さん居るん?」
『何時やと思うてるん!父さんと母さんでさえぼちぼち帰ってくるような時間やねんていうことを自覚し!』

忍足の父、瑛士は多忙な医者である。
従って夜勤の時もあるし、今日のように夜勤じゃなくても学会に出て母を伴ってパーティーに出て深夜に帰ってくるみたいな事も普通にある。
だから恵里奈の案としては、どうせ両親は車で帰宅するのだからもうそのまま拾って帰ってきてもらったら良いじゃんというわけだ。親としては良い迷惑。

おう・・・おう・・・と思いながら忍足姉弟の会話を聞いていると、ずっと無言だった電話向こうの美梨がやっぱりいつも通りの明るいトーンで話し出した。

『良かったね!最後まで一緒してくれるみたいだよ。』
「えっ!?ああ、うんっ!」

良いんだろうか。
まあでも事ここに至ってしまっては仕方がないか。

『美梨、一人で喋ってないで代わって!何がどうなったの!?帰って来れるの!?』
『まあまあ。おねーちゃん?お父さんとお母さんには美梨から説明しとくね?』
「あ、うんお願いっ!」

『あはっ!別に良いけど、深夜デート協力のお代として今度スタバの新作奢ってね☆』

「えっ!」

つっこむ前に、無情にも美梨はあっさり通話を切った。

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