100話記念企画 No.083





それでも小学校2年生に上がる頃になると、次第に千百合ちゃんは・・・というか、全員お互いに慣れきってきて、随分空気が柔らかくなりました。
当初はしょっちゅうだった喧嘩(主に紀伊梨ちゃんと千百合ちゃんの間ですが)も、今ではもうあまり見なくなりました。

この日は雨降りでした。
外へ行けないので、皆でかくれんぼです。


「早くはやくーう!ゆっきーが鬼だー!」
「見つかる見つかるw怖い怖いw」
「ええと、ええと、どこに行きましょう、ええと・・・」


精市君が鬼ですか。この家は広いし子供の隠れるスペースなんて沢山ありますが、上手く隠れないとすぐ見つけられますね。

「・・・・・・」

おや、千百合ちゃん。どうしました?

「・・・・・・」

・・・あの、何か・・・

千百合ちゃんはじいっと私を見上げていたかと思うと、徐にすたすた近づいてきました。

「・・・無理か。」

ああ、私のお腹の中ですか?隠れ場所に?
そうですね流石にちょっと、子供をしまうのは無理がありますね。お役に立てず。

「・・・あ。」

千百合ちゃんはその後、私の隣に目を向けました。
固められているトランク。

そうです、旦那様は今晩より長期出張に出発されるので、その旅支度の荷物が今私の隣に固めておいてあるのです。
千百合ちゃんは荷物と私の隙間に入り込み、手荷物の上に広げて置いてあった旦那様の上着を被って頭を隠しました。
おお、これはなかなかですね。うん、かなり上手に隠れていると思います。


もう良いよー!


おや、紀伊梨ちゃんの声。
鬼が探し始めたようです。見つからないと良いですね。




「・・・・・」

カッコ、カッコ、カッコ・・・私の振り子の音しか聞こえない廊下で、千百合ちゃんはじっとしています。
普段からして割とひっそりした佇まいの千百合ちゃんは、かくれんぼには強いのでしょうきっと。

さっきからもう皆見つかった声がしていますが、精市君はまだ来ません。

「・・・・・」

身じろぎする千百合ちゃん。
姿は隠れていますが、なんとなくわかります。

ちょっと不安なんですよね、かくれんぼで隠れてるのって。
すぐ見つかるとそれは面白くないんですが、かといってずっと見つからないのも怖いんですよ。
特に小さい子供はね。見つからないとなったら見つからない子を放っておいて他の遊び始める、なんていうのもよくある話ですし。

「・・・・・」

大丈夫ですよ千百合ちゃん、皆そんな事しませんて。
まして鬼は精市君ですから、必ず見つけてくれますよ。

・・・とか思っている間に、軽い足音が。

「・・・・・ううん。」

探してる探してる。
千百合ちゃんが身を固くしたのを私は感じました。

とは言っても記憶力のいい精市君です。
旦那様の上着が元の位置と違うことくらいすぐ気づくでしょう。

・・・ほら。

「・・・・・」

声を出さないように笑いながら近づいてくる精市君。
もうこれはばれてますね。とは言っても、千百合ちゃんからは見えないので気づいてないようです。

そろそろと足音を立てないで近づいていく精市君。
そうっと、そうっと上着を手に取って・・・

「・・・わっ!」
「!」

急に明るくなった視界に、千百合ちゃんは珍しくびっくりした顔。
それでもきゃあとかわあとか言わないあたり、とても千百合ちゃんぽいです。

「ふふっ、びっくりした?」
「・・・した。」
「こんな所に居たんだね、俺もびっくりしたよ。廊下なんて誰も隠れられないと思ってたから。」
「うん。ちょっと待った。」

千百合ちゃんがそう言うと、幸村君は大きな目をまんまるにしました。
こんなこと言われるとは思ってなかったのでしょう。

文句たらたらとかそういうわけじゃない、というのは顔を見ればわかるんでしょうね。
そうですよ精市君。千百合ちゃんは別に責めてません。

ただ、ちょっと寂しかっただけ。

「・・・ごめんね、待たせて。」
「うん。」
「・・・・・」
「何?」
「・・・ううん。」

精市君はちょっとおかしな顔をしていました。
嬉しいような。
なんだかくすぐったいような。
自分でもよくわからないような。

そんな顔でした。




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