100話記念企画 No.087



というわけで、非常に珍しく図書室へ向かうべく3人で歩いていると、C組を通る際に廊下と教室を隔てる窓越しに千百合と桑原が話し込んでいた。

「だからこの段落から・・・あれ?「ウ」も正解になるな、それだと。」
「だろ?」

「千百合っちー!桑ちゃーん!」

「ん?」
「よ。柳、丁度良かった。桑原があんたに用事。」
「俺か?」
「あ、でも良いぜ!何かそっちも用事があるなら・・・」
「いや良い。用というほどの事じゃない。」
「そうか?いや、実はこの前の国語の課題が分からなくて・・・一度クラスに行ったんだけど、居なくてな。」
「ああ、悪かった。職員室に行ってそのまま五十嵐に課題を渡しに行っていたんだ。」
「あれ?そういやお前課題は?」
「いやー、何の事かなー!紀伊梨ちゃんは全然わかんないなー!」
「心配しなくていい、丸井。俺は覚えている。」
「あ、そう?」
「忘れて良いよ、もー!」
「まあ何にせよ、これで私お役御免ね。」
「ああ、有難うな。」

千百合が見ていたプリントを桑原に返した。

「ジャッカルはなんで黒崎に聞いてんの?」
「あ、いや。そもそもは春日を頼って来たんだけどな。」
「今日紫希、図書室に入り浸りたい日らしいから今居ないの。」
「おー!偶然ですなあ、これから紀伊梨ちゃん達も図書室行くんだよ!」
「「・・・図書室?」」

この面子で?図書室?柳はわかるけど後の2人は何しに?
言わずともそうありありと顔に書いてある2人に、丸井はまあそうだろうなと思いつつちょっと笑った。

「ちょっと人魚姫読みに?」
「人魚姫?」
「何でまた。」
「色々あってな。」
「そーそー!ねー千百合っち、もし人魚になったらどーする?」
「はあ?」
「千百合っちが人魚姫でー、王子様に恋したらどーする?」
「私人間。」
「もしの話ー!」
「もしって言われても。」

絶対にあり得ようもない「もし」に思いを巡らせる千百合。
人魚になったら。

「・・・え、どうもしない。」
「えー!何かするっしょ、何かー!」
「しない。面倒だもん。」
「面倒・・・」
「面倒じゃん。大体さ、私あの人魚姫の思考回路って昔からわけわかんないと思っててさ。」
「え、そーお?」
「だってさ、王子が好きになったのは別に勝手にすれば良いけど、普通そのためにあそこまでする?足とかは自分の事としても、もう家族とか友達とか全員と一気に縁切れるかもしれないわけでしょ?一目ぼれしたとしてもなくない?」
「ああ、まあ・・・そう?か?それもそうかもな。」
「ま、確かにそりゃ一理あるけど。」

それでもあのバックボーンを聞くと人魚がそうしたのは必然というか、人魚の振る舞いとしては変でもアンデルセンの振る舞いとしては通るので、千百合の意見が大分違って聞こえる。
知ってる知らないって大きいんだなあと丸井は他人事のように思った。

「おまけにさあ。まだ王子が人魚を何かしら助けてくれたとかならわからんでもないけど、王子って何かしてくれた?助けたのも何もかも全部人魚側からじゃない?あんな何もしてくれない奴の事、よくそこまで思う気になれるわって感じ。もてなしてくれるのも足生えた後じゃん。」
「それも正論だな。」
「んー・・・じゃあさ、じゃあさ!王子様がゆっきーだったらどーお?」
「はあ?」

千百合はちょっと考えてみた。
考えてみたが。

「・・・え、いや。やっぱりそこまではしない。」
「えー!?」
「え、だって片思い状態でしょ?知り合いですらないんでしょ?しかも性格よく知ってるとかでもなくて、ほぼ見た目で好きなわけでしょ?やっぱりその段階ならそこまでしないわ。誰相手でも。」
「じゃあさじゃあさ、両想いってことにして・・・あり?」
「両想いなら悩む必要なくね。」
「だな・・・」
「でもさー!頑張らないとゆっきーがほらあの、人間のお姫様に取られるかもしれませんよ!」
「お前それ、自分で言ってて本気にしてねえだろい。」
「幸村に限ってあり得ないな、恋人が居るのに他の女性を傍に置くような真似は。」

そもそもだが、千百合は実は若干ではあるが人魚にリアル似ている所がある。
口はあるけど基本的に何も言わないから、行動を見て察した方が早いところとか。
その千百合と上手くいってるのだから、王子が幸村で両想いだったらとか最早考えるだけ時間の無駄であろう。

「ジャッカルどう?」
「俺かよ!?おい待て、俺は男だぞ?」
「いいじゃーん!桑ちゃんは男の人魚で、王子様じゃなくてお姫様って事にすれば良いよ!」
「えええ?うーん・・・」

ちょっと考えてみる。
人魚だったら?で、一目ぼれしたお姫様が居て?

「・・・でも、俺も足を生やすまでしないかもしれないな。」
「えー!?そんなー!なんでー!?」
「いやだって、そもそも人魚と人間ってそんな関わったらいけないんだろ?そういう決まりって何かしら理由があるもんだし、姫側だって人魚に寄ってこられても困るだろうし。・・・好きなら困らせたくないしな。」
「えー!」

「常識人。」
「ま、ジャッカルならそうだろうけどな。」
「ああ、らしいな。困らせたくないという辺りが。」

そうかもしれないが、紀伊梨は膨れっ面である。
面白くない。誰も陸にほぼ上がろうとしないじゃないかよ。

「良いもん良いもん!紫希ぴょんに陸に上がって貰うもん!」
「強制的に何てことさせんのよ、バッドエンドじゃん。」
「どうにかしてハッピーエンドにするもーん!」

「趣旨が変わってきたな。」
「ま、いつもの事じゃん?」
「まあ楽しそうにしてるから・・・ああ柳、悪いけど図書室に行く前にここだけ。」
「ああそうだったな。ここは・・・」



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