100話記念企画 No.044




もっとも、この作戦はすぐに一部破綻することになった。
何故かというと・・・まあ端的に言うと、可憐も忍足も身内からの攻撃に結構弱かったのだ。

「おっ!あるぜあるぜ!」
「わあっ!凄いねっ!」

中休み中、可憐は中庭その1(複数ある)に来ていた。
向日と。

持ち前の勢いで忍足をゲロさせた向日と一緒に。

「これだけあるんだったら、結構持って行ってもバレないんじゃねーか?」
「そうかもしれないけど、でも念には念をだよっ!こっそりね、こっそりっ!」
「へいへい。」

そう、結局作戦の「秘密裏に」の部分は瞬く間に崩壊した。
可憐も可憐で網代に零してしまったので忍足を責める気はないが、何にせよこれで仲間?は2人から一気に倍の4人になったのである。

「何か黒いのもあるけどこれは?腐ってんのか?」
「あっ、それはそういう品種なんだってっ!食べられるから、大丈夫だよっ!」
「へー。」
「後、取ったら一旦はここに入れてねっ!瓶を持って来たし、部室の冷蔵庫借りて置かせて貰うからっ!」
「置いとけんのか?幾ら冷蔵庫っつっても夏だけど大丈夫かよ?」
「うんっ!冷蔵庫で4日くらいは大丈夫っ!逆にそれ以上は悪くなっちゃうから、どうにか4日で集めないとっ。」
「おー!何か詳しいなお前!」
「えへへっ!忍足君に手伝って貰って、ちょっと調べたんだよねっ!」

何せ、自生のものを食そうというのだ。
妙な手抜かりがあって食あたりでもしたら洒落にならない、という忍足の考えから、可憐達は保存期間から方法からジュースの作り方から、全部全部調べてからこうして採取を開始した。

こういう所忍足は流石しっかりしてるなあと思いつつ。
反面、自分で思いつけない辺りがドジに繋がるのだなあと若干の情けなさも覚えつつ。

「全部は取らねーんだよな?」
「うんっ!やっぱりあの・・・大きな声で言えないけど、バレるとまずい事してるっていうか・・・」
「まあ堂々とは出来ねーよな。褒められた事でもねーし。」

だから、ちょっと誰かがつまみ食いしたんだなー程度の減らし方でないといけない。
とは言いつつ、思っていたより沢山生ってるのでそんな少なくて困るような事態にはならなさそうなのが嬉しい誤算だった。

「よいしょ、よいしょ・・・」
「ん。ん。ん・・・」
「向日君っ?」
「・・・これってこのままでも食えるよな?」
「えっ!あ、うんいけるけどっ!でも一応洗わないと、忍足君もそう言ってたしっ!」
「いかにも侑士が言いそうだなー、大丈夫だって!ちょっとだけ、これ一個だけだから・・・と!」

ポーンと放り投げて口に入れる向日。
まあ確かに、いきなり救急車にみたいな事態にはならないとは思うが。

「・・・・」
「・・・どうっ?」
「・・・酸っぱい!」
「あ、やっぱり・・・?」
「くーっ!甘くねーとは思ってたけど、思ってた以上に酸っぱいぞこれ!こんなんでジュースとか出来んのか?」
「ジュ、ジュースにする時は砂糖を入れるからっ!」
「そんな事言ったって、これじゃ普通に普通くらいの甘さにするまでにどれだけ砂糖入れる事になるのかーーーー」

「そりゃあそうだ、それ用に植えてるわけじゃねえからな。」

ぴた。

と2人の動きが止まる。
もしやこの声は。学園を統べる支配者様のお声では。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

「こそこそ何をやってんのかと思ったら、まさか植木のつまみ食いとはな。」

言い逃れできない。
この瓶に採取して溜まっているのが見えてる以上、ちょっと一粒摘まんでみただけ・・・なんて言い逃れは通じない。

「えーと・・・あのよ、その・・・」
「・・・ごめんなさいっ!」

跡部ははあ、と溜息を吐いた。

「漏れ聞こえてきたが、ジュースだと?」
「はい・・・」
「はあ・・・あのな。そういう事は一言言えば、今日は無理でも明日か明後日中には食堂のジュースバーに、」
「違う!」

ちゃうねん、そうやないねん。
こういう感覚をわかってくれない王様に、向日は思わず大声になってしまう。

「あのな!俺達の飲みてーのはそーいうジュースじゃねーの!」
「・・・・?ジュースはジュースだろ?」
「そーなんだけど!そうじゃなくて!そーいう風にさ、いつでも食堂に行けば手に入る代物になっちまったら意味がなくなるんだよ!それはもう、俺達の欲しがってるム/ーミ/ンのジュースじゃねーの!」
「ム/ーミ/ンの?ジュース?」

はて・・・?な顔になる跡部。
いや、跡部も別にム/ーミ/ン知らないわけではない。流石に。
ただ、跡部にとってはジュースとム/ーミ/ンに関連性が見いだせないのだ。

「あっ、あのねっ!ム/ーミ/ンのアニメに木苺のジュースが出てくるのを昔テレビで見て、飲みたいなあって思っててっ!」
「そう!そのジュースが良いんだよ!木苺のジュースだったら何でも良いわけじゃねーの!ちゃんとム/ーミ/ンでそうしてるみてーに、自分達である場所探して手で摘んで、自分達で潰したりとか砂糖入れたりとかして作らねえと、あのジュースにはなんねーんだよ!」

厳密に言うと若干ズレてる。
気がするのは可憐も向日も分かっているし、そもそも向日はム/ーミ/ンで本当にそんな風に作ってたのかさえ知らないし。
ただ、この感覚を分かってもらうには今の言い方が手っ取り早い。筈。

「だから、ジュースバーに追加とかはしなくて良いの!」
「そ、そうそうっ!けどちょっと・・・今だけは見逃してくれないかなあ、なんて・・・だ、ダメだっていうならもうこれ以上やらないからっ!摘んじゃった分はもう返せないけど、ちゃんと食べるしっ!」
「・・・・・・・」

跡部は何やら考えていたが、やがて納得したようなしてないような顔で口を開いた。

「・・・まあ良い。正直あまりピンとは来ねえが、取り寄せたジュースじゃ代わりにならないことは良くわかった。」
「そっか!」
(正直そこをわかってくれただけでも良かったよっ!)
「で?そのジュースとやらは、その瓶に入ってる程度で足りるのか?」
「あ、いや、それは・・・」
「これじゃ足りないから、本当は色んな所からちょっとづつ貰うつもりで・・・この場所ももう、後ちょっとだけ貰ったら辞めようと思ってたんだけどっ。」

(おい!何もそこまで、)
(だ、だってもうばれちゃったもんっ!隠してもしょうがないよっ!)

ひそひそ声でいざこざする2人を見て、跡部は溜息を吐いた。

「・・・まあ良い。バレないようにやれ。」
「「え?」」
「それから、本当に一か所につき取る量は調整しろよ。くれぐれも景観を損ねるな、良いな。」
「は、はーい・・・」
「ほ、本当に良いのかよ?後からダメとか言いっこなしだぜ?」
「誰が言うかよ。ただし、今言ったことはくれぐれも守れよ。他の誰かに見咎められたら、そこでストップだ、良いな。」
「「はーい。」」

言うだけ言って去っていく跡部。

ほっと胸をなで下ろして、こそこそ採取をもう少し続ける2人をちらりと振り向きざまに見て、跡部は何かを思い出した。
なんだっけ、遠い昔に見たことあるぞああいうの。
ずっと小さいころ、イギリスの中庭で・・・。

(ああ、そういえば昔庭に入ってきた野良猫があんな風だったな。)

何匹か連れだって。
人間の目を盗んでこそこそおやつを食べにきて、それを自分は見つけつつ追い払うまでもないから見ていたっけ。

そっくりだなあ、と思うと急に友人二人が猫に見えてきて、跡部はちょっと笑った。


ガサ。


「?」

突如聞こえた草の音に、跡部は辺りを見回した。
特に変わった所はない。

(・・・気のせいか?)

本当に猫でも居たんだろうか。




2/6


[*prev] [next#]

[page select]

[しおり一覧]


番外編Topへ
TOPへ