100話記念企画 No.044
また次の日の事だった。
この日も可憐は、中休みを利用して木苺をこっそり失敬していた。
(これ綺麗だなあ、貰っておこうっ!こっちのはまだ小さいからやめておいて・・・)
ここは前庭。
つまり校門の正面である。
正面といっても氷帝は広いので門からは離れていると守衛には見つかりにくい。
おまけに正面門の前なんて、ひとたび授業が始まればほぼ人の行き来なんてないのだ。
たまーにちらほら遅刻・早退の生徒が通るからそれにだけ注意していれば大丈夫。
と思いながら摘んでいたのだが。
「おい。」
「!?は、はいっ!何ですかっ!?何でしょうかっ!?」
やばい、守衛さんか先生か。
と思ったら、知らない男子がいつの間にか真後ろに居た。
「・・・えっとっ?」
「職員室はどこだ。」
「えっ?」
「知らないんだ。教えてくれ。」
この男子が誰なのかは知らないが、今の発言で可憐はある程度の事を推測する事が出来た。
先ず、着ている服。
見慣れない制服である。上はただの白いカッターシャツだが、下のズボンの質感は明らかにどこかの制服。
だが、知らないながらどこかで見たような気もする。ということはつまり、学外且つ近所のどこかの他校の生徒である確率が高い。
加えて、職員室の位置を知らないと言った。
わからない、ではなく知らない。つまり迷ったわけではなく、元々どの辺りか見当がついていない。
(って事は、転校生かなっ?)
それが一番考えやすい。
近所の学生が転校して来て、それなら職員室に山ほど用があろうに、別の学校から来たから6月になっても職員室の位置を土台知らないのだ。
「ええと、何年生っ?ですかっ?」
「何年生。」
「あのっ、うちの職員室大きいからっ!それで学年ごとにざっくり入口が分かれてるから、そっちから入った方が早いしっ!もしくは、尋ねる先生の名前でも良いんですけどっ!」
「学年としては、1年生だが。」
「あっ!そうなんだっ、じゃあ一緒だねっ!」
同い年と分かって、可憐はまた幾分警戒心が解かれた。
ああ良かった。振り向いて一見した時なんだか体格が大きいし髪染めてるし、怖い不良だったらどうしようかと思ったのだが、同い年の職員室の場所知らない転校生だと思えばなんだか急に身近に感じる。
「・・・・・・」
「じゃあ行こうかっ!・・・って、あれっ?」
「・・・いや、なんでもない。それより、それは何だ。」
「それっ?」
「その手に持っている瓶の事だが。」
「あっ、」
そうだった。忘れてた。
まずい、見られた。中にもう既にそこそこの量の木苺も入っているので、もう言い逃れ出来ない。
「あ、あのっ!これはええとっ!」
「・・・・・・」
「その・・・・」
見咎められたら辞めること。
跡部と交わした約束がリフレインする。
ああ万事休すか、と可憐が思った瞬間、彼は少し目線を外して可憐の後方を見た。
「摘んでいるのか。」
「・・・はい・・・」
「食べるのか?」
「ジュ、ジュースにしようかとっ・・・」
「それなら足りないだろう。」
「そ、そうなんだけどこの辺はどっちみちそろそろ・・・って、ええっ!?」
彼はなんでもないような空気ですたすたと植木に近づき、いとも簡単に木苺を摘んでぽいと瓶に入れた。
「な、何してるのっ!?」
「手伝おう。」
「手伝うっ!?」
「摘むんだろう。」
「ああうん、そうなんだけど・・・」
やばい。
自分と考え方が全然違う。植木の実を摘んでいることに対して、悪いことと微塵も思ってない気がビシバシする。
「案内の礼だ。どうせ大した事じゃない。」
「い、いやでも良いよっ!良いですっ!どうせこの辺はここらで辞めにしようと思ってたしっ!」
「・・・そうなのか。よくわからないが、辞めろと言うなら。」
既に摘んでしまっていた二粒目だけ瓶に放り込んで、しゃがむのを辞めるのを見て可憐はほっと胸を撫で下ろした。
「はいっ!じゃあ、ここが職員室だからっ!」
「ああ。」
無事ーーーと言っても道を間違えて、そこそこ遠回りになってしまった事に彼は気づかなかったようだがーーー彼を職員室に送り届けた可憐は、手を振って職員室前で別れた後ホッと安堵した。
ああ良かった。とは言っても、その分木苺摘みの続きは出来なかったが。本当はもう一か所回ろうと思っていたのに。
・・・などと思っていたら、自分が来た方向を指さして知らない女子生徒2人が廊下の壁際できゃっきゃとお喋りするのが聞こえてきた。
「ねえ見た!?今の長身の人!」
「青メッシュの人でしょ!?あれ高等部の基準服だよね、やばくない!?」
「やばーい!やっぱ大人っぽい、かっこいー!」
ぴたり。
と可憐の足が止まる。
高等部?
『学年としては、1年生だが。』
もう職員室の中に消えた彼をバッと振り返った。
(・・・あれって、「高校」1年生って事だったのっ!?)
そうだ、あのズボン。
どこかで見たデザインと思ったら、どこかで見たも何も高等部の方の基準服だ。
同い年どころの騒ぎじゃない、丸3つ上ではないか。
大きいはずだよ、かなり年上だもん。いや、それを差し引いても大きかったけど。
(と・・・途中で訂正してくれれば良いのにっ!どうしよう、凄い失礼で恥ずかしいことしちゃったよっ!)
ああもうどうしよう。唯一の救いは、自分が高等部に行く頃には入れ違いで彼もまた卒業しているだろうから、もう二度と顔を合わせなくて良いことだろうか。
なんて思っている可憐だが、二度と顔を合わせないどころかゆくゆくは毎日顔を合わせる日々が始まることを可憐はまだ知らない。
「先生。」
「ん?ああ、越智!遅かったな。どうした、迷ってたか?ははは!この校舎も今年からがらっと変わっちまったからーーー」
「いえ、木苺を摘んでました。」
「は?」
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