100話記念企画 No.053
忍足が食堂でなく部室に置いておくと言ったのは、大した意味があったわけじゃない。
ただ食堂と違って部室は責任者の所在も明確だし、多少は部員の自由にして良いことを知っていた。だから、部室に置いておこうと思ったのだ。
そうでなくても人の出入りは激しいし、外は暑いとはいえ部室はクーラー効いててちょっと肌寒いくらいだし、まあすぐ無くなるだろうと思って。
甘かった。
(減らへん・・・)
誰でもご自由にお使いください。
メモまで貼ってあるのに殆ど誰も手を付けようとしない氷砂糖を、昼休みの部室で忍足は見つめた。
「忍足君っ!ごめんね、ちょっと遅れちゃっ・・・忍足君っ?」
「ああ、可憐ちゃん。お疲れさん。」
「うんっ。どうしたのっ?」
「いや、ちょっとな。どうでもええことなんやけど、これ。」
「・・・?ああっ!それ、綺麗だよねっ!」
「それはええねんけど、誰も使ってくれへんねん。俺が持ってきてんけど。」
「えっ!?そうだったのっ!?跡部君か茉奈花ちゃんだって、ずっと思ってたっ。」
「姉貴が懸賞で当ててん。家に置いとっても誰も使わへんさかい持ってきてんけど、ここでも誰も使わへんのは誤算やったな。」
「ああ、うん・・・私も使った事ないなあっ。紅茶には砂糖欲しいけど、そもそも紅茶飲んでる余裕なんてない事が多いしっ。」
「ああ、確かにそうやな。飲める環境やからて言うて、飲んでる人が多いとは限らへんわ。」
ここの部室には、ジュースサーバーがある。
誰でも紙コップとワンタッチで、紅茶もコーヒーも飲める。(勿論他の飲み物も色々。)
ただ出入りしている部員は結構ばたばたしていたり、飲み物欲しいにしても暑かったり部活後で汗かいてたりすると、わざわざここで調達しないで自販機のペットボトルで冷たいものをがーっと飲む事の方が多い。そのため、ここのジュースサーバーはそもそも稼働率がそんなに高いわけではないのだ。
確かに言われてみれば忍足自身も左程使わないのだが、他の人はもうちょっと使ってるんだろうとイメージで勝手に思っていた。
「まあ、しゃあないな。せやったら、生徒会にでも差し入れにしとこか。もう開いてる奴だけは廃棄なりなんなりにして・・・」
「あっ!じゃあ、私ちょっと使ってみて良いかなっ?実はちょっと使いたかったんだけど、高級そうで遠慮しちゃってて・・・えへへっ。」
「ああ、ええで。どんどん使うたって。」
未開封のでも遠慮せんと開けて。
そう言われたのでお言葉に甘え、可憐は幾つもあるフレーバーを遠慮なく選ぶことにした。
「じゃあ・・・これっ!レモン!」
「ええで。俺も貰うわ。」
「あれっ?忍足君って、砂糖入れるっけっ?」
「普段はストレートやけど。まあ、偶には。」
そういえば、持ってきて勧めているくせに自分ではまだ一回も使っていない。
有名店のだから味は良い筈だと姉は言っていたが、果たして。
「・・・・あ。」
「あっ、美味しいっ!美味しいよ、一気にレモンティーみたいになるねっ!」
確かに、悪くはない。
悪くはないが。
(普段使いすんのんにはやっぱり・・・)
「ちょっと甘ない?いや、砂糖やから当然やねんけど。」
「えっ?そうかなっ?私このくらいが好きだなっ!」
「そうなん?」
美味しそうに飲む可憐。
別にまずいとは言わないし偶には良いかと思うけど、自分はここまで好きにはなれそうもない。
やっぱり家に置いておかなくて正解だった。可憐みたいな人に使ってもらった方が、砂糖も本望だろう。
「可憐ちゃん、家でも砂糖入れてるん?」
「うんっ。ストレートは滅多に飲まないかなあっ。」
「そうなんや。」
「あ・・・・」
「?」
「・・・忍足君、今私に呆れてませんかっ!」
「なんで?どの辺が?」
唐突極まりすぎててキョトン顔の忍足に対して、可憐はぷーっと膨れている。
「何かこう・・・砂糖入れないと飲まないとか、子供っぽいみたいなっ。」
「そんなん思うてへんて。」
「そうかなあ・・・」
「ほんまやで。」
「そうっ?」
「えらい疑うな。」
「だって、跡部君はすーぐそうやって子供扱いしてくるんだもんっ!」
「ははは!」
そりゃあ跡部はしょうがない。
可憐がどうの以前に、跡部からしたら学園全体で自分より子供っぽいと思う生徒の方が多いくらいであろう。
「子供っぽいとは思わへんけど。」
「?」
「女の子らしゅうて可愛いとは思うで。」
そう言うと、可憐は赤くなった顔を隠すように紅茶を煽るように飲んだ。
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