100話記念企画 No.033

暁の頃。

現代でいうと、明朝。明け方。
やっと空の色が変わりだすような時間帯のこと。

「早朝かあ・・・」

起きられるだろうか。
ちょっと難しいかもしれない。

放課後の部活で、可憐は小さくため息を吐いた。

「宍戸君、タオルッ。」
「おう、さんきゅ。」
「・・・・・」
「ん?」
「・・・宍戸君って、朝得意っ?」
「は?朝?」

いきなり何の話か目を丸くする宍戸。
ただまあ。
得意か不得意かと言われると。

「別に苦手じゃないぜ。犬の散歩とかもあるし。」
「あ、そっかっ!」
「つうか、お前のとこも犬は居るんだろ?」
「あはは・・・うちは、時間的にお母さんとお父さんが今散歩役だからっ。で、朝ってどうやったら早起き出来るのっ?」
「んー・・・そうだな・・・やっぱり基本は早寝だよな!」

宍戸は基本的に要らない夜更かしはしない。
勿論夜更かししたい年頃ではあるので人並みにはするが、それでも深夜とかまでは縺れ込まない。寝たくなったらあっさり寝ること。これを習慣付けることで、宍戸は大分朝に強くなった。

「それから、寝る前のジョギングとか。」
「ジョギングっ!?寝る前にっ!?」
「直前じゃないぜ、風呂の前とかな。運動して腹ごなしして、風呂でさっぱりしてそのまま寝る。これですとんと深く眠れるから、朝はさっと起きられる事が多いな。」
「なるほど・・・」
「まあでも、お前は女子だからな。あんまり夜に外は危ないし、この手は使えねえかもな。」
「た、確かにっ!」
「というか、何かあんのか?いきなり早起きしたいとか。」
「うん、ちょっとねっ!」

可憐は惑星の話をした。
見るには暁頃が良いという事も。
しかし、それを聞いて宍戸はちょっと渋い顔をした。

「難しいんじゃねえか?」
「そう思うっ?」
「だってよ、今7月だぜ?それで暁の頃って、時間に直したら結構な早起きになっちまう。最近じゃ、6時にはもうばっちり明るいからな。」

暁の頃、というのは何時という明確な決まりがあるわけではない。
空が白んできた頃という意味合いなので、同じ「暁」であっても、夏と冬とでは暁に該当する時間が違うのだ。

それこそ真冬辺りなら、天気などによっては6時になってもまだ「暁」にならないという事態もあり得るが、夏はその逆。太陽は早々に顔を出す季節で、それに伴って暁の時間は段々早くなる。

「5時・・・いや、下手すると4時台・・・」
「よ、4時・・・自信なくなってきちゃったっ・・・」
「桐生!俺にもタオル・・・あれ?どうした、2人で変な顔して?」
「あっ、向日君っ!」

ごめんね、と謝りつつタオルを渡しつつしていると、宍戸が向日の方に向き直った。

「岳人、早起きってどうやってる?」
「は?いつもしてんじゃん、朝練で。」
「もっと早い時間だよ。4時半とか。いや、外出る支度の時間考えたら4時過ぎか?」
「4時過ぎ!?そんな時間に起きて何するんだよ!」
「あのー・・・ほら、あれだよ。天体観測的な事だよ。」
「天体観測?亮が?」
「此奴が。暁の頃だってよ。」
「暁っていつだよ?」
「明け方の事ですっ!それで、最近明け方っていうと5時前になっちゃうかなあってっ。」
「えー・・・・早起きか。」

向日はそんなに朝強い方じゃない。
弱いわけじゃないが、まあ普通。夜更かしの習慣もそこそこある。

自分ならどうやって起きるか。

「・・・どれくらい起きてーのかにもよるけど。」
「うんっ。」
「俺なら、人に頼んどくな。姉貴にとか、おやつでも譲って。」
「人に頼む・・・」
「要はあれだろ?目覚ましで起きる自信がないって事だろ?そういう時は、誰かに布団剥がして貰うに限るんだよ!」

目覚ましかければそれで済むのなら、誰だってそうしているだろう。
しかし実際は、目覚ましで起きたって結局心が負けてもう一回寝に入る。それがいけないのだ。

「モーニングコールとかも良いよな。」
「そーそー!そういう感じ!ただ、誰がやってくれんだよっていう問題が次は出てくるけど、親に頼んどいたらどうだ?別に毎日ってわけじゃねーんだし。」
「う、ううん、親かあっ・・・」
「駄目って言われそうか?」
「じゃ、じゃないんだけどっ!」

そうじゃないんだけど、父、健二は仕事の疲労があるので多分頼んでも起きられない。
そうなると母、遥に頼むことになるが、遥はいかにも可憐の母らしく、うっかりさんなのである。
起きることそのものには問題なくても、起きないといけない事を忘れてうっかり寝過ごすとか十分あり得る。

妹の美梨とペットのショコラにはそんな事は望まない。
あの2人(?)はぎりぎりまで寝ていたいタイプだ。

「しかしわざわざその時間に星か。もっと暗い時に夜更かしして見た方が早いんじゃねー?」
「暁頃限定らしいぜ?そういう星なんだってよ。」
「マジかよ、よりによって・・・」

異様な夜更かしより異様な早起きの方がやりづらいぞ、と言った向日の言葉は、なんとなく共感できる気がした。



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