100話記念企画 No.033




「ああでも、それって偶に聞くよねー。」
「えっ?」

滝にこの話を何気なく振ると、滝はサラッとそう返してきた。

「聞いたことない?歴史の授業なんかでさ、敵への奇襲は暁が良いなんて。人間って、実は深夜より早朝の方がぼーっとしてるものなんだよねー。」
「そうなのっ?」
「そう。だから、向日君の言うことは結構当たってると思うよ。」
「そうなんだっ!」

じゃあ余計ハードルが上がっちゃうなあ・・・と思い、回収に来た空のドリンクボトルを抱えて可憐は溜息を吐いた。

「あはは!まあまあでも、やり難いっていうだけで別に土台無理だとかそういう話じゃないから。」
「そうかもだけどっ。」

でも、そもそも可憐は別に人より朝強いとかそういうわけじゃないのだ。
体力自慢だとかそういうわけでもない。
毎日部活でへろへろになって帰ってきて、寝る時はいつもすぐぐっすりモードなのに、突然早起きしろって言われても。

「ううん・・・あ!そうだ、どうせなら蛇の道は蛇って事で、彼に聞いてみたら?」
「彼っ?」
「ほら、うちの部には居るだろう?睡眠のプロ。」

あ。





というわけで、可憐は様子見がてら睡眠のプロの元に聞きに来たのだが。

「芥川くーん・・・」
「zzzzzz・・・・」

ですよね、知ってた。

最早誰からも突っ込まれずすやすやと眠りこけている氷帝テニス部の睡眠のプロは、その道を極めすぎて逆に参考にならない気がする。

「芥川君っ!起きて、練習だよっ!」
「zzzzzz・・・」
「はあ・・・・・」

一度可憐は不思議に思ったことがある。
こんなに日中寝てて、夜どうしてるのだろうかと。
自分だったら、こんなにがっつり昼寝したらまず間違いなく夜は寝付けない。

しかし、もしかして此奴寝坊助というより昼夜逆転してるのでは?という考えを抱いた一部部員の推測は、向日と宍戸によってあっさり打ち砕かれた。
いや、此奴は夜でもぐっすり寝てる。放っておかれたら、真面目に24時間の内20時間くらい寝てると思う。
と返されて、全部員が全てを諦めたのは5月の事だったか。

「ねえ芥川く・・・あいたっ!」
「・・・んあ?ん〜・・・・あ、桐生ちゃん。おはよ〜・・・ふああ・・・」
「お、おはよう・・・!」

いつもベンチに蹴躓いて、痛い思いと引き換えに芥川が起きる。
これもいつものパターンであった。
可憐的には回避しようと思っているのに、絶対毎日こうなってしまう。不思議不思議。

「まだ練習中?」
「そうだよっ!ほら、起きてっ!偶にはストロークの15分でもしようよっ!」
「ふぁ〜い・・・」

うつらうつら頭を揺らしながらのろのろ歩く芥川。
よく転ばないものだと、可憐は内心ちょっと尊敬している。

「・・・芥川君って、家でも寝てるんだよねっ?」
「A?そうだよ?俺家のお布団好きなんだあ〜、ふかふかで気持ちEし。」
「朝すっきり起きたりしないのっ?」
「A?朝は皆眠いでしょ?」
「ああ、うん・・・そうなんだけど・・・」

そうなんだけど、それは日中普通に起きて活動してる人の話なのであってさ。

「芥川君って、どーしても早起きしないといけない時ってどうしてるのっ?」
「起こしてもらう!お母さんとか、亮とか岳人に!最近は跡部が乗っけてってくれるかな〜?」
「そ、そうじゃなくてっ!自力でないとダメだとしたらっ?」
「A〜・・・・?う〜〜〜〜ん・・・・」

この長考加減が、いかにそれが困難でやってみた事ないかを知らせる指標である。
いつの日かこの男が本当にそれをやる日がくるんだろうか・・・と思う可憐だが、実はその日は一歩一歩ひたひたと近づいてきてはいる。

「・・・・俺なら〜。」
「うんっ。」
「・・・寝ないっ!うんっ!」
「えええええっ!?」
「だってだって〜!俺、途中で寝ちゃったら、もうぜーったい起きないC!だから、もし早起きするんだったら、前の日の晩ご飯に起きた時から後はもうそのまま寝ないで、頑張って次の日まで起きてるくらいでないと!」
「そ、それは普通より難しいよっ!」

晩御飯以降とか、普通の人なら絶対眠い時間にぶっ通しで起きてるなんて、そんな事芥川がやったら爆発するかもしれない。可憐は割と本気で心配になる。

「駄目だよそんなのっ!ちょっとは寝なくちゃっ!」
「無理〜!そうじゃないと起きられなE〜!」
「それでもそれは駄目だよっ!頑張って芥川君、寝てっ!」
「無理!起きてる!」

尚可憐はこの会話が遠耳で聞かれており、部活後に芥川と中身でも入れ替わったのかと聞かれることになる。




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