100話記念企画 No.012




一応と思って言うだけは言ってみたが、やっぱり紀伊梨は変装するなと言ってきた。
だもんで、非常に不本意ながら今日は仁王は顔を晒して駅前に居る。今日も暑い。

「あ!居た!ニオニオ、やっほー!」
「おう。」

この暑いのに紀伊梨は今日も元気である。人より暑さに弱い自分は余計に。

「おっでかっけ♪おっでかっけ♪うっれしっいなー♪」
「そうか。」
「あり?どったのニオニオ、テンション低いですぞっ!」
「まあ色々とな。今日は気温も高いき。」

本当は気温の他にもっと大きな原因が色々あるけど、まあもう言うまい。今回は自業自得だし。

「ニオニオって夏嫌いなタイプー?」
「好きとは言えんな。暑いのも眩しいのも人が多いのもそんなに得意じゃないんじゃ。」
「へー!紀伊梨ちゃんそっちのが好きだなー!なんか寒いと体動かしにくいんだよねー!指先固いし!」
「ほう。そういうところはいっぱしのギタリストじゃな。」
「いっぱし?」
「後で春日にでも聞きんしゃい。」
「えー!やだー!今教えてー!」
「暑い、離れてくれ。」

ただでさえ紀伊梨は体温が高いのである。この上しがみつかれたら溜まったもんじゃない。ああ暑苦しい。
紀伊梨を引きずるようにして、仁王はチョコレートフラペチーノの店を目指した。




店は並んでいた。
熱中症対策として、店側もパラソルを設置したりミストをかけたりしているが、まあ意味がそこまであるかというと、この暑さでは。

「いらっしゃいませ!お持ち帰りでしょうか、店内で召し上がられますか?」
「えーと、お持ち帰りーーー」
「イートイン。」
「え?」
「中にする。」
「かしこまりました!それでは中でお名前をお書きになって、お待ちくださいませ!」

紀伊梨はメニューを渡されて、中に通されてちょっと拍子抜けした。

「良いのー?」
「何がじゃ?」
「だってニオニオイートイン嫌だって言ってたじゃーん!」

そう、そもそもイートインとテイクアウト両方出来るこの店舗で、紀伊梨はイートインをしたがった。そして、仁王はそれを却下する側だったのだ。
紀伊梨としてはファンシーな店舗が可愛かったから中を見たかったしゆっくりお喋りを楽しみながら飲みたかったし、仁王としてはそのどちらも惹かれなかったのでテイクアウトでさっさと済まそうとしていたのだが。

「暑い。」
「そんなにー?でもいうほど汗かいてないよー?」
「汗はかいとらんが暑いんじゃ。」

結局、仁王は暑さに負けた。
涼みたかった。冷たいもの飲みたかった。
ここは結構駅からも離れている。小休止なしで行ってとんぼ返りして帰宅して・・・のルートを辿るのは厳しかった。

「そーお?まあいいや、紀伊梨ちゃんはこっちのが良いし!えーと、何にしよっかなー!あ!ニオニオも見るー?」

ずい、とメニューごと体を寄せてくる紀伊梨に、そこかしこからちょいちょいヒソヒソ声が漏れ聞こえてくる。
美男美女だ良いなー、とかはまあ置いておくとして、俺もあんな可愛い彼女欲しいなーとか言って連れの女の子に足踏まれている男の発言とかについては、なんなら変わってやっても良いよと思ってる。割とマジで。

「・・・ああ、アイスコーヒーがあるんか。助かるナリ。」
「え!」
「ん?」
「ここに来といてチョコ頼まないの!?チョコドリンクがここのメインですよっ!」
「俺はあくまで付き添いじゃき。チョコレートで失敗したからチョコレートで詫びとるだけじゃ、俺が好きなわけじゃないぜよ。」
「そーだけどー!勿体ないじゃん、せめてカフェモカとかにしようよー!」
「濃いのを飲む気分じゃないんじゃ。」

そもそもチョコドリンク店に来ておいて、という感覚は仁王の中にもないではないけど、そもそも仁王はそんな言うほど甘党でもない。特にこんな、暑くて喉が乾いてる時はとてもチョコレートゴクゴク飲む気になれない。

「そんなー!ちょっとで良いから飲もうよー!」
「お前さんが飲むわけでもないじゃろ、どうしてそこまで勧めてくるんじゃ。」
「だって折角一緒に来てるんだもーん!それなのに全然別々の事するなんて寂しいじゃーん!」
「言うほど別々か?」
「良いのー!寂しいのー!あ!じゃあじゃあ紀伊梨ちゃんのを一口あげるから、味をそれで覚えてよ!ね!そーしよそーしよ!」
「そこまでせんでもええじゃろ。」
「もー!・・・あ!」
「?」
「ちょっと待ってお!えーと、えーと・・・えー・・・」
「・・・何じゃ?」
「待ってね待ってね!この辺まで出かかってるんだよねー、えーとお・・・・あ!そうそう思い出した!」
「何をじゃ。」
「これは埋め合わせなんですよ!ニオニオは今日は紀伊梨ちゃんの言うことを聞きなさい!」
「は?」
「って、困ったことがあったら言ったらいいよって!ゆっきーとなっちんが言ってた!」

もしかして自分はその2人に嫌われてるんだろうか。
何かしたっけ。いや、してるけども。いやでも、棗は兎も角幸村に何かした記憶って殆どないぞ。

「だから一口ね!絶対ね!で、ニオニオはカフェモカにしてね!」
「待て、どうしてそうなる。」
「えー?だって紀伊梨ちゃんも一口欲しいけど、紀伊梨ちゃん甘くないアイスコーヒーは!飲めません!」
「・・・・・・」
「カフェモカならオッケー!」

当分紀伊梨に悪戯はするまい。
いや寧ろ、ちょっと手の込んだ悪戯をしようか。
仁王は今、真剣に悩んでいる。



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