100話記念企画 No.012


「はーーー!美味しー!」
「そうか、そりゃあ良かったナリ。」

ファンシーな店の奥に通されて、カフェモカを目の前に置かれる仁王。
目の前の紀伊梨はミルクチョコレートフラペチーノと、チョコバナナココアパンケーキでご満悦である。

「ん?どったのニオニオ?一口要る?」
「いや良い。自分で食べんしゃい。」
「そーお?前から思ってたけどさー、ニオニオって男の子なのにあんま食べないよねー?」
「まあ確かに、他の奴らと比べて食う方とは言えんの。」
「だよね!」
「ただ、それはそれとしてお前さんと丸井は明らかに食べすぎじゃ。」
「えー!?そんな事ないよ、ブンブンのが食べてるよー!偶に比べっこするけど、紀伊梨ちゃん勝てないもん!」
「そもそもタイマン張れとる事がおかしいじゃろ。」

丸井は男子で運動部だが、紀伊梨は女子でバンドガールなのだ。別にバンドガールがきつくないとは言わないが、そんなに根詰めてがつがつ練習してるわけでもないのに、食べてるものがどこに仕舞われて消えて行ってるのか仁王は不思議で仕方がない。

「そっかなー?」
「ついでに、量もじゃが趣向も理解出来ん。」
「しゅこ?」
「好みの話じゃ。チョコ系の食い物と一緒に飲むのにチョコレートドリンクなんかよく頼めるもんじゃき。」
「えー?美味しいじゃーん!」
「味が被るじゃろ。」
「被っても良いんだよー!チョコ美味しいもん!」
「お前さん、そんなにチョコレートが好きだったんか?」
「お菓子は全部好き!でもチョコレートが食べたい気分だったの!です!楽しみにしてたから!」
「・・・・・・」

それを言われるとごめんなさいとしか言いようもない。

「しかし、チョコレートを大量には胸やけせんか?」
「紀伊梨ちゃんした事ないなー。今日じゃなくてもたまーにチョコ沢山食べたーい!とか、生クリーム沢山食べたーい!って思ってやっちゃう時あるけど、胸やけしませんお!」
「健康優良児じゃな。」

絶対自分は同じことをしたら体調が狂う。
そう思いながらカフェモカを一口吸うと、思っていたより飲みやすくて仁王はちょっと内心でビックリした。一番ビターにした甲斐があったというもの。これなら美味しく飲める。

「寧ろ、皆どーして夏になったらチョコレート食べるの辞めちゃうのー?って思うんだよね!チョコはいつ食べても美味しいですよっ!」
「溶けるからじゃろうな。それに、喉が乾いてる時に濃いものは喉を通りにくいもんじゃろ。」
「そうかもだけどー!」
「俺はチョコレートは偶にくらいでええぜよ。」
「・・・ニオニオってもしかしてバレンタイン嫌い?」
「嫌いっちゅうほどでもないが、好きでもないナリ。」
「チョコ欲しくないのー?」
「義理ならまあ多少は欲しいかの。そんなに量は要らん。本命はもっと要らん。」
「なんでー!?本命チョコ欲しくないの!?好きですって言ってくれてるんだよ!?」
「面倒じゃろ、好きでもない奴から寄ってこられても。」

紀伊梨だってモテる方なんだから気持ちわかるでしょ・・・とはとても言えない。
紀伊梨は女子な上に馬鹿が入ってるので、フるということに対して左程デメリットを覚えていないのだ。ごめんねとは思うけど、初恋がまだなのでその分相手の苦しさを思いやるにも限界があるし、そもそも女子から男子を断る方が後腐れしにくい。

これが逆転すると一気に面倒になる。
泣かれるし食い下がられるし、挙句の果てには酷いなんでよとか逆ギレまでかまされる場合だってある。基本そんな事にはならないとは知りつつ、やっぱり10回に1回はそういうのがあったりなかったりすると、次第にうんざりしてくるものだ。

「ほえー・・・義理チョコは良いの?」
「義理チョコは貰ったら終いじゃろ。要らんと思うたら他の奴にやってもええしな。」
「それ!そのさー、貰った奴を他の子に要らなーい!ってあげるのが紀伊梨ちゃんわかんないんだよねー!食べたくないのー?誰かと一緒に食べるんだったら分け分けしたら良いんだよ?」
「さっきも言ったが、俺にとってチョコは摘まむもんなんじゃ。腹を膨らますためにバカスカ食うもんじゃないからの。」

大体、分け分けとか言いつつ一口要る?とか一切聞かないでもくもくとココアパンケーキ食べ進めている紀伊梨とは、根本的に嗜好が違うんだと思い知る。
いつか紀伊梨にイリュージョンする日が来たとしても、この部分は多分一生真似出来ない。

「お前さんはもしかしたら、死ぬまでブラックコーヒーの美味さは分からんかもしれんの。」
「む!そんな事ないよー!多分!だってだって、最近紀伊梨ちゃんは一つ苦手を克服したんですよっ!」
「ニンジンでも食べられるようになったんか?」
「前から食べられますけどー!じゃなくて、最近ミントチョコを食べられるようになったの・・・あ!」
「?」
「良いこと考えた!此処出たら、次はミントチョコ行こ!」
「おい待て。」

咥えていたストローをさっと離した。

今なんて言った?「次は」ミントチョコ?

「次っちゅうのはなんじゃ、次っちゅうのは。次も何も、もうこれで終わりーーー」
「えー?でもゆっきーも皆も、今日はニオニオが一日付き合ってくれるって言ってたお?」
「は・・・・」
「あ!奢りはここのお店だけでしょ?知ってる知ってる!ちゃんと覚えてますよっ!」

知らない。自分は知らないぞそんな事。

と言った所で、もう遅い。
こうなってしまったら、振り切って逃げようにもお得意の大音量で名指しでおんおん泣き叫ばれてお仕舞だ。無視して逃げることも不可能じゃないけど、これでも友達とは思ってるので流石に気が引ける。し、次の日学校で絶対いつものメンツからなんやかんやつつかれる。

まさかこんな所ではめられるとは思わなかったが、大真面目に誰が何の恨みで・・・とか考え出すとキリがないので辞めた。思い当たる節が多すぎる。

「・・・もうこれ以上は出さんからの。」
「ほいほい!」
「後、なるべく涼しい所にしてくれ。」
「ほーい!」

ああ、2時間仕事が一日仕事になった。
はーあ、と息を吐いて、仁王はまたストローを咥えなおした。

「あ!一口!一口ちょーだい!」
「遅かったのう、もう飲み終わりじゃき。」
「えー!」



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