100話記念企画 No.089
「・・・っていう夢でした・・・」
「何や前のより疲れそうやな。」
「うん、疲れた・・・」
朝練の片づけをしながらぐったりと言う可憐。
なんだか寝た気がしない。悪夢だったとは言わないが、くたびれる夢を見た次の日の朝はなんとなく体がだるい。
「まあ気忙しい夢て偶に見るもんやからな。疲れてる時なんか特に。」
「疲れてる時かあ・・・」
「何や、何かに追われたりしてへん?あれやったら相談乗るで。」
「ううんっ!そんな事ない、と、思うんだけどっ。」
強いて言うなら、ちょっとムーラン・ド・ギャレットの事をちょっと考えすぎたかもしれない。
ダンスホールってどんなだろうと考えて、ちょっと興味あるな、でもドジな自分にダンスとか無理そう・・・みたいな事を考え考え寝落ちたせいでこうなった気がする。
「今日はもうちょっと良い夢見られると良いなあっ。」
「せやな。どうせ見るんやったらええ気分の夢のがええな。」
まあ医学的な話をすると、そもそも夢も見ないような深い眠りをぐっすり取った方が健康には良いのだが、忍足はそういう事は思っても言わない。
科学的にどうかという事より、本人が気分が良いのが何よりと思う主義だから。
「ねえ忍足君っ。」
「ん、ああ堪忍。聞いてなかったわ、ごめんな。どないしたん?」
「何か良い夢見られる方法ないかなあ、と思ってっ。」
「良い夢なあ・・・そうやな、左程準備が要らへんような方法で何か・・・」
「出来れば、手軽に出来ると良いなあっ。」
「・・・やっぱり、何か楽しい事考えながら寝る、とかやろか。」
「楽しい事・・・・」
「直前に考えてた事ていうのんは、やっぱり夢に出やすいさかい。暗いことは考えんと、なるべく見たい夢の事を考えながらええ気分で寝るのがええんちゃうやろか。」
「そっか、成程っ!」
そうは言っても、言うは易く行うは難しなのだが。
この手の事はそうしようと意識すればするほどかえって難しい。
あんまり頑張ってやろうとしないでリラックスしなよ。
とも忍足は言わない。言うと猶更意識の切っ掛けになってしまうから。
「・・・ええ夢見られたらええな。」
「うんっ!頑張るよっ!」
だから頑張るのは良くないって。
忍足は苦笑した。
その夜。
可憐は最後の風車の事をベッドの中で調べていた。
「ええと・・・」
最後の風車は、ムーラン・ド・ギャレット。という名前がそれそのものにちゃんと付いている風車。
実はこの風車だけは現在個人の物になっており、私有地の中にあるため一般の観光客は近づけない。
「そうなのっ?観光名所じゃないんだっ。」
でも確かに、元々モンマルトルの風車は商業目的というより農家の粉ひきの為にあったわけなので、個人所有の風車の方が本来は自然なのだ。段々世の中が農業から離れていった結果商業用のシンボルとしての風車が却って残ってしまっただけで。
(個人の風車・・・個人、かあっ。)
可憐は今日はスマホの明かりを消して、ベッドに潜りながらちょっと思いを馳せた。
風車のある家に住むってどんな気分なんだろうか。
しかも周りの家に風車があるのが当たり前というわけではなく、今や3つしか残ってない内の1つと言われると、なんだか我が家ながら仰々しい気持ちになりそうな。
「・・・って、はっ!いけない、いけないっ!」
可憐は軽く首を振った。
今日は難しい事を考えないと決めたのだった。
なるべく楽しいこと、いい夢見られそうな事を。
(いい夢・・・いい夢・・・何かこう、リラックス出来るような、安心できるような感じ・・・の・・・)
すう、と可憐は穏やかに眠りに入った。
寝落ちじゃない、ちゃんとした寝入りから意識は深く沈む。
沈む。
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