100話記念企画 No.021

「そーいえば桑ちゃんは?」
「ん?」
「桑ちゃんはどーしてテニス始めたのー?」
「ああ、俺か?俺はまあ・・・きっかけとしては成り行きだな。」
「なりゆき?」
「なんとなくって事だ。深い意味が最初からあったわけじゃなかった。なんとなく面白そうだなって理由でテニスをやってみたいと思って、ブラジルでテニススクールに通って。」
「へー!ブラジルってテニススクールあるんだー!」
「はははっ!そりゃああるさ。正直、通ってて楽しいばっかりってわけでもなかったけど。」
「そなの?あー、でもお稽古とかってお金とか時間もかかるしって言うよねー!」
「それもあるけど・・・やっぱり、俺は生まれがな。」
「・・・ほ?どゆ事?」
「ハーフっていうのは、色々何かと不利なんだよ。特に向こうじゃな。」

それは勿論、ブラジルでは比較的メジャーとはいえ日系のハーフという好奇の目もあった。
しかし、それ以上にきつかったのはハーフ故に覆しがたい形で現れた体格の差であった。

テニスの世界では体が小さくて得することは少なく、損することは非常に多い。
一般的なハーフでないブラジル人の同級生と比べて、体格や筋力に劣りがちだった桑原はそれ故に辛酸を舐めた事も一度や二度ではなかった。

「・・・そーなの?」
「ああ。多分、説明してもそんなにピンとこないと思うし、不幸自慢みたくなるから詳しく話してもって感じだけどな。でも、スクールを辞めようって思った事はなかったな。」
「楽しかったから?」
「そうだな。色々思い通りにいかなくても、テニスが好きだったから。」

始めたきっかけはなんとなくだったけど、そこからのめり込んでいくまでは本当に自分でも早かったと思う。

それこそ魔法にかけられたようにテニスの魅力に引き込まれて、嫌な事があってもどうしても諦められなくて。捨てられなくて、辞められなくて。
ここが劣ってるとか、こうだから駄目だとか、果ては海外に引っ越して永住するぞと言われても、テニスからはどうしても離れる気になれなかった。

「まあ、そのおかげでラッキーだった所もあるんだけどな。」
「お?」
「もし、テニスをどこかで辞めてたら。それで日本に来てたとしたら、多分俺はブン太と親友にはならなかったと思うんだ。」

テニスという魔法は、桑原に生きがいともう一つ。異国の地での親友を与えてくれた。

はっきり言って幾ら気丈に乗り切ろうと思っても、海外に引っ越して馴染んで堂々と過ごせというのは簡単じゃない。しかも、桑原のように真面目で比較的細かい神経をしてるものにとっては猶更だった。楽にふてぶてしく過ごせと言ったって限界がある。

そんな中で学校でも家でもない所にあるテニスという居場所は心の支えになったし、同じものに打ち込む仲間も引き寄せてくれた。
それこそ、とてもふてぶてしく好き放題生きているタイプの者を。

口には滅多に出さないが、良い方向に大雑把で楽天家な丸井が友人として側に居てくれた事は本当に幸運だったと桑原は思っている。
余計な事とか細かい事とか不安とか、そういう事を考えないようになってくる。というか、考えるのが段々あほらしくなってくる。

そうして色々悩むのが面倒になってきた頃には、桑原はもうすっかり日本に馴染みつつあるのだった。

「それこそ、ブン太とテニスしてなかったら立海にも来なかっただろうし。そうなると、五十嵐達とも友達にならないままだっただろうな。」
「え!何ですかそのもしも話は!怖いんだけど!ってゆーか嫌!」
「いやだからもしもっていう話で、もうそんな事は起こらないわけだから・・・」
「もしも話でも怖い話はやめよーよ!あ!紀伊梨ちゃんこないだこーゆー時の言葉覚えたよ!あのねー、あのねー、あのー・・・えーとお、あのー、なんとかがない、みたいな・・・」
「なんだそれ・・・」
「なんだっけー、何がないんだっけー、あのー・・・あ!思い出した、エンギでもないってゆーんだよ!エンギって何かは忘れたけども!」
「何か・・・何もかも色々違う気がするぜ。」

そう言って苦笑する桑原は、予鈴が鳴るまでリコーダーの事を忘れていた。


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