100話記念企画 No.059



「寮?」
「うん!きっと楽しーよね!」

目を丸くする幸村。

幸村は、新しいメニューの意見を聞きに丸井を訪ねてB組に来ただけだった。
そこへ思いがけず紀伊梨から寮の話を振られたのだが。

「・・・俺は、左程魅力的だとは思わないかな。」
「え、なんでー?」
「やっぱり、現実的に考えると少しね。寮生活となると何かと自由度は低くなるよ。外出なんかもそうだし、消灯も決まってるだろうし、食べ物だってメニューに贅沢は言えないだろうし。それこそ今、五十嵐はゲームがやりたい放題とか考えているだろうけど、持ち込みをそもそも制限されたりしたらどうにもならない。」
「厳しくない!?え、寮ってそーなの!?」
「それはそうだよ。そもそも全寮制の目的は、学業にしろスポーツにしろそれに専念出来るようにするものなんだから。」
「まあな。遊ぶためにやるもんじゃねえし。」

勿論、寮ならではの楽しいことだってそりゃあないではないだろう。
しかし、それは言うなればおまけの部分なのだ。本題は何かに打ち込むために余計な時間を削れるだけ削る事なのであって、紀伊梨はその辺が抜けている。お泊り会楽しそうくらいにしか想像出来ていない。

「幸村君も全寮制考えた事あるんだっけ?」
「検討はした事があるかな。勿論全寮制云々を差し引いて行きたいと思えれば、寮だからっていう理由で二の足は踏まなかったけど、結局立海の方が魅力的だったから。」
「・・・もし立海が全寮制でも、幸村君は立海来たわけ?」
「勿論。」
「えー、でもそれじゃ千百合っちと離れちゃうかもよー?」

ビードロズ達は皆幸村に引っ張られる形で進路を決めた。
が、実際問題はやはり親にそれで良いかどうか聞かねばならなかった。
幸いな事に全員の親が立海で良いと言ってはくれたが、もしも全寮制であったならそれはGOを出しかねるという親が居てもおかしくはない。
特に黒崎家の父、雄一は我が子を溺愛しているので、多分一番最後まで渋るだろう事が予想される。

幸村もそれは重々分かっていて小さく苦笑した。

「それでも俺は行ったと思うよ。」
「マジで?」
「やっぱり、それとこれとは別の話だから。同じ学校じゃないと付き合えないわけじゃないけど、その学校に行かないと出来ないテニスはあるわけだからね。」
「それはそうだけどさー!もーちょっとこー、何てゆーかさ!寂しいなーと思ってくれてもさ!」
「そりゃあ寂しいよ。最終的にはテニスを優先するっていうだけで、俺だってもしそうなったら平気だとは自分でも思わないさ。下手をしたら、朝から晩まで顔を見られない生活が数か月単位で続くんだから。」
「え、何それ嫌!」
「嫌っていっても、これも全寮制の現実だからね。放課後遊ぶといっても時間的には厳しいし、お昼を一緒に食べたりとか校内ライブを見たりとか学校行事に一緒に参加したりとか、そういう事は学校が違うと一気に難しくなるから。そういう意味では寮じゃない立海に皆と一緒に来れて、本当にほっとしてるよ。」
「紀伊梨ちゃんも!紀伊梨ちゃんも今ほっとした!ちょー怖いよ、何その話!」

もう止めよ!この話止めよ!と、態度を180度変える紀伊梨を笑いながら、丸井は頭の片隅でぼんやり考える。

もし全寮制だったら?
寮だという事で、今自分を取り巻いている友人たちの何人かが出会えない人になっていたら?

座学は得意でも体育が天敵のあの子は、全寮制の体育特化型学校になんて行く気になっただろうか。
それこそいつか聞いた紀伊梨の両親のように、行った所でついていけないだろうから辞めなさいと家族からの反対に遭った可能性は高い。

そうして出会うことなく、偶に幸村の話に出る友達の友達の1人くらいの存在として日々をお互い過ごしていく。
もし全寮制ならそういう未来があったのかもしれない。

(・・・つまんなそ。)

少なくとも今よりはつまらないと思う。
例えテニス的な環境は少々向上したとしてもだ。少なくとも少々程度では、差し引きで補填にならない。

「んお?ブンブン何か言った?」
「何も?」
「そ?」



仮定の怖い話を想像してほっとしているB組とは裏腹に、C組では仮定の話がすっかり真実味を帯びた噂となって紫希を脅かしていた。

「・・・・・・」
「そんなに気になるんだったらもう聞いたら?」

スマホの丸井への個人LINE画面を開いて、そのまま見つめ続ける紫希に千百合は声をかけた。

聞きたいのは紫希だって山々である。山々であるが。

「ですけど、検討段階ならあれこれ聞くのは良くないと・・・」
「そりゃ確かに、良いことだとか褒められた事だとはとても言えないけどさ。そんな突っ込まなくても、軽く話振ってみるくらいの事は許されるでしょ。」
「でも考え事のお邪魔になってはいけませんし、まして私なんて関係ないのに・・・」

自分で言っていて、紫希はまた少し気持ちが沈んだ。

関係ない。
そりゃあ確かに自分は、丸井が進路だとかそういう事を考えるにあたって、全く何の影響も及ぼさない他人だと頭で分かってはいるが。

(また変な事考えてるな。)

長い付き合いなので、千百合には紫希の考えてることなんて大体分かる。特にこういう時は、手に取るように分かる。
どうせ自分には何も言う権利なんてないとか思ってるのだろう。

「・・・あ。真田!」
「む?黒崎千百合か。お前が呼ぶとは珍しいな、何かあったか?」
「あんたさ、丸井の転校の噂知ってる?」
「転校だと?丸井が?」
「そう。全寮制のとこに行くのを考えてるとか考えてないとかいうのを、ちらっと聞いたんだけど。」
「あの、千百合ちゃん・・・」
「良いでしょ別に。本人の邪魔はしてないわけだし。」
「それは・・・そうですけど・・・」

ふむ、と真田はちょっと思案する。
とはいっても、そもそも存在していない転校の話なんて、真田に限らず誰に聞いても知ってるわけもなく。

「少なくとも俺は知らん。」
「何かちょっとでも知らないの?」
「ああ、全くの初耳だ。丸井と仲の良い桑原か、或いは幸村辺りなら相談に乗っているのやもしれんが。」
「そうですか・・・」
「しかし、気になるのなら本人に聞けば良いだろう。わざわざ俺に聞かずとも良いのではないか?」
「検討の邪魔したくないんだって。」
「その程度の事を伺ったからと言って考えが揺らぐようなら、それは丸井の側がたるんどる!お前達が気にする必要はない。」
「だって。」
「え、えええええ・・・・」

そう言われても、性格上じゃあそうしますねとすぐ切り替えられる紫希でもなく。

結局何も聞けないまま、中休みはあっさり終わったのだった。


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