100話記念企画 No.059

昼休みになっても誤解はまだ続いていた。
今日紀伊梨とお昼を一緒にする予定だったならその場で一気に誤解だと分かった筈だったが、この日はそうでなかった。
だから紫希は、沈みがちな気持ちでもそもそ弁当をつつく羽目になった。

「・・・・・」
「・・・ねえ、紫希ちゃん?」
「!は、はいなんですか!?ごめんなさい、聞いてなくて・・・」
「上の空だわねえ。」
「いや、何か他人事みたく言ってるけど、話題持ち込んだの桃美だからね。」
「ぐ!い、いやそれを言われるとー、そのー・・・」
「いえ、でも・・・桃美ちゃんから聞けて良かったです。」
「どこが良いのよ。」
「だって、桃美ちゃんから聞けなかったら、きっとずっと知らないままでしたから。知らないままで、ある日突然「転校する事に決めたから」って言われたり、して・・・」
「まあ、確かに。そういう意味では。」
「ほ、ほらー!私は悪くない・・・あ、いや、ちょーっとは悪いかも、だけどー・・・」

(桃美、今日は何か勢い弱いね。)
(いや、こんなに暗くなられると思ってなくて・・・)

確かに友達がいきなり転校というのは、大きな話題かつ喜ばしいとは一概に言えない話である。
だからおろおろするかなとは思っていたが想像以上にどんよりされてしまって、江野としては、こうなると分かっていたらもしかしたら伏せてたかもしれないと思うレベルである。

因みに実際江野が何日か様子を見て伏せていれば、文字通り噂でしかなかった事が分かっただろう。タイミングというのは悪い時にはつくづく悪いものである。

「あれ。」
「千百合ちゃん?」
「あ、いや。母さん、今日弁当にコロッケのソース入れ忘れたなと思って。」
「コロッケのソース・・・」

この状況でコロッケのソースの事を考える余裕のある千百合に、江野と堀江は若干脱力する。この温度差は何なんだろうか。

(ねえ、千百合は気にならないわけ?)
(私、丸井が転校してもそこまで言うほどは気にならないもん。普通に寂しいけど、普通にって感じ。)
(でも、丸井君は気にならなくても丸井君を気にしてる紫希ちゃんは気にならないの?)

千百合はちらりと前で弁当を食べる紫希を見やった。

そりゃあ親友なんだから、沈んだ姿を見たいとかは思わないしなるべく元気であって欲しいとは思う。
思うけど。

(ねえ、どうなのよ?)
(あんまり?)
(あんまり!?)

多分そろそろ、紫希は何かしら行動を起こすだろう。

この大人しい親友は、実は何かに悩んだ時ほど最終的に思考を経て行動に移すのだ。
自分が心配したり気遣ったりするのは、その行動の後で良いと千百合は知っていた。



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