5万打記念企画 No.015

それから紀伊梨は、行ける時にはまめに焼却炉に行き、何度となくハートやその他落書きを色々な材料で書いた。
そしてその度に誰かが必ず手を加えるのだった。

紀伊梨の落書きが放置される事もあった。
徐に星を書いたところ、それは消されることなくそのままだった。
ただ、ハートやリボンなど女子っぽいモチーフは書いた端から全て消された。
それから、最初に書かれた顔の口元も手を加えると必ず修正された。どうやらあっかんべーの口でないとあちらさん(誰かは知らないけど)は不満らしかった。

この頃にはもう4月も末であり、妙な付き合いながらなんだか文通的な楽しさを見出すようになっていた紀伊梨は、この日も焼却炉に向かった。

と。

「ん?お!なっちんだー!」
「ん?ああ、おすw」

いつものコンクリートの前に誰か立っている。と、思ったらそれは棗だった。
紀伊梨が近づくと、棗は軽く手を挙げていつものような顔でへらっと笑った。

「どったの?なっちんも落書きに参加したいの?」
「ん?」
「ん?」
「・・・いや別にw」
「そなの?えー、楽しいと思うけどなー!」

そう言いつつ、紀伊梨はカラーの油性ペンを取り出した。

「油性ペンは落ちるぞw」
「そーだけど、ここ!ここのお星さまは消された事ないかんね!ちょーっとデコレーションするくらいは大丈夫っしょー・・・どれどれ、えーと?」

そうそう、今日はこのお星さまに尾をつけて流星にしようと思っていたんだ。
どうせなら夢可愛くしようと思ってパステルカラーを取り揃えてきたので、いつものようにじゃかじゃか取り出して冷たいコンクリートに塗りだすと、棗が後ろでうわあ・・・と呟いたのが聞こえた。

「うん!良い感じだよー!ユニコーンも書いちゃおっかなー?」
「もうその辺にしといてやれよw消すのも大変だぞw」
「む!まだ消されるって決まってないじゃんかー!」
「消されるだろ今までの傾向的にw察しろよw」
「わかんないよ!もしかしたら紀伊梨ちゃんの絵を見て、可愛いー!ってなって、そのままにしといてくれるかも!」
「絶対ねえわw」

笑う棗を無視して、紀伊梨は作業を進める。
冷たくて、でも打ちっぱなしだからつるっとした表面にペンを走らせるのももう慣れた。

コンクリートにお絵かきとかちょっと不良っぽいねと皆に話を振ったら、千百合はどうせなら不良っぽい絵を書いたら消されないんじゃないかと提案してきたっけ。まあ自分は消されるとわかっていても可愛い絵を書きたいから断ったけど。

「・・・・!そーだ!良いこと考えた!」
「嫌な予感がするんですがw」
「何それー!ってゆーか、まだ何にも言ってないじゃん!ぜーったいいい考えだもん!」
「何だよそれはw」
「あのね、ここにお手紙書くの!何年何組の誰さんですかー、って!そしたら友達になれるよね!」

そうだ。
今までここに言葉が書かれたことがなかったからその発想からしてなかったが、別に絵しか書けないなんて決まりはないんだ。

名案!な顔で語る紀伊梨に、棗はちょっと目を見開き。

そして紀伊梨の言葉を咀嚼した後、微妙な顔で苦笑した。

「辞めといたらw」
「えー、なんでー!?」
「こうさ。」

棗は紀伊梨の隣に来て、コンクリート塀に手をついた。

「こんなさ、誰も来ないような焼却炉までわざわざ通って、コンクリにあっかんべの落書きするような奴じゃんw」
「?だから?」
「相当変な奴だってわかるでしょw多分そんなド直球なやり方で仲良くなろうとしても躱されるよw」
「えー!そんなー!」
「でもそうだと思うよwそれでも良いわけw」
「・・・・むー!しょーがないなー!」

書こうとして蓋まで開けていたペンを、紀伊梨は口を尖らせながらしまった。

納得しきったわけじゃないけど、こういう時に棗の言うことは大体当たる。だから、紀伊梨は従うことにした。

紀伊梨はこのコンクリートに絵を書きあうのが好きだった。結局消されたりしても、それでも好きだった。何かちょっと、文通に似た楽しみを見出していた。

同時にこの縁が、切ろうと思ったらいとも容易く切れるものである事も本能でわかっていた。
この、打ちっぱなしの古いコンクリートの塊一つ。
泣いても笑っても、たったこれっきり。

それがなくなるかもしれないのなら、辞めよう。惜しいけど。

「あ!」
「今度は何だよw」
「じゃあじゃあ、紀伊梨ちゃんの自己紹介はどーお?」
「・・・っていうとあれかw私は1年B組五十嵐紀伊梨です、って書いとくって事かw」
「そー!それだったら大丈夫だよね!どお?」
「まあそれは好きにしたらwあんまり意味があるとも思えんけどw」
「そんな事ないですー!ってゆーか、何か、きょーのなっちん紀伊梨ちゃんにきつくない!?」
「気のせい気のせいw」
「絶対気のせいじゃないよー!もー!」

言いながら、紀伊梨はまたコンクリートに手をついて、ペンを走らせだす。

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