5万打記念企画 No.035
「・・・・・・え、」
紫希は床にへたり込んでいた。
視界が真っ暗。
後、息が苦しい。
待って。
何が起きたんだっけ。
「おい、大丈夫?」
至近距離から声が聞こえる。
「・・・丸井、君・・・?」
視界が明るくなった。
後、息も苦しくなくなった。
それでわかった事がある。
自分は今、丸井の腕の中に居るのだという事。
そして、自分と丸井は更に大量の本に囲まれて、胸の高さまで埋まってるのだということ。
「・・・え、え?何がどうなって・・・」
「あーあ、こりゃ元に戻すのに一日仕事だろい。」
元に戻す、という単語で紫希は段々混乱が収まってきた。
そうだ。
資料が落ちてきて、それを棚で踏んでしまって、棚が傾いて。
それからガンガンガンガン!と大きな音を立てて、倒れた棚が別の棚を倒して、ドミノみたいに軒並み倒れて。そしてそのせいで資料という資料が全部棚から出てきて頭上から降り注いできた。
だから今、周りが本だらけなのだ。
夥しい量。当然だ、資料室なんて部屋は狭く蔵書の数は半端じゃないんだし。
「遭難だな、ここまで来ると。」
確かに。
本に埋まってて身動き取れないし、入口が遠くて外に出られないし、下手に動くとまた何処かが連動して余計に危ないかもしれないし。
そこまで考えて、紫希ははたと気づいた。
「・・・・!丸井君!」
「うお、びっくりした!え、何?」
「大丈夫ですか!?」
「何が、」
「お怪我していませんか!?どこか痛いところとか、捻ったりぶつけたり切ったりとか、」
「ちょ、待て待て待てって、」
近い。
近い近い近い。
元々近かったのに、紫希は今丸井のシャツを掴んでいるから余計に近い。
しかし紫希はそれに気づかない。
それどころじゃないのだ、丸井の安否を確認しないと。
「足は動きますか!?腕もーーー」
「落ち着けーーー大丈夫だから!」
「・・・本当ですか?」
「本当だってば、ピンピンしてっから。」
「はああああ・・・」
「どうしたんだよ、急に?そんな血相変えてーーー」
「血相が変わって当たり前です!丸井君はプレイヤーなんです、怪我なんてしたら大事ですよ!」
紫希はスポーツをしないけど、スポーツ選手にとって怪我がいかに重いロスなのかは知っている。幸村が日々体調管理に気を使っているのを見ればわかる。
それがこんなつまらない場面で要らない怪我なんてしてみろ、気の毒なんて言葉ではとても済まされない。
自分は別に利き手さえ無事なら詩は書けるけど、テニスはそういうわけにいかない。
「本当に大丈夫ですか?無理なさってませんか?」
「お前じゃねえんだし、大丈夫大丈夫。」
「なら良いんですけれど・・・」
「・・・それよりさ。」
「はい?」
「お前的に、この姿勢は大丈夫なわけ?」
「姿勢・・・・!」
一番の懸念が無くなった紫希はやっと気づいた。
抱きついている。
「す・・・すいません!ごめんなさい、すいません、離れますから、」
「どこへ?」
「え、」
そうだった。
これ以上体を離せないのだ、周りが本で埋まってるから。
というか、今更だけど。
「・・・どう、やって、出たら良いんでしょうか・・・?」
「自力じゃ無理だろい、こんなんじゃ。本踏みまくって良いって言うなら別だけど、流石にな。」
「気が咎めますよね・・・」
「ってわけで、遭難した時の第一手段だな。」
「第一手段・・・」
「救助要請♪」
もう自分のペースを取り戻しつつある丸井は、スマホを取り出して笑ってLINE画面を開く。
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