5万打記念企画 No.045


結局マットは、時間かかるから直ぐには返事が出来ないと言われ。
なので待っている間、2人は今度は千百合のベッドを見ることにした。

「千百合はどんなのが良い?」
「いや、さっきも言ったけど、私基本別に何でも。」
「そう?・・・あ。」
「?」
「ああ、いや。あのベッド、いかにもおじさんが選びそうだと思って。」
「・・・・・・・」

そう言って幸村が指差したのは、天蓋付きのレースカーテンが閉められるタイプのベッドだった。
紀伊梨が柳生引き込み作戦の時に言ってた、所謂お姫様(っぽい)ベッドである。

「あははっ!大丈夫だよ、さっきも言ったけどちゃんと俺も止めるから。」
「私、あれは無理。絶対無理。」
「そうかな?千百合の好みじゃないのはわかってるけど、俺は別に千百合があれで眠ってても構わないけど。」
「私が構うわ。もう、あの中で寝てるのが自分っていう絵面が無理。そういうのは紫希か紀伊梨に任せとけば良いのよ。」
「ふふふっ!でも俺は、一度くらいは見てみたいけどね。ああいうベッドで千百合が眠っているところ。」
「勘弁して。」

心の叫びである。
それは真面目に勘弁してほしい、二重の意味で。
自分の心理的にもきついけど、それを幸村に見られると思うと更にきつい。恥ずかしくて死んじゃう。

「それじゃあ、こっちのとか?それから、そっちはどうかな?」
「ああ、この2つだったらどっちでも良いわ。部屋でも浮かないし。」
「こっちの木目調のは?」
「それはちょっとそぐわないかな。やっぱ白か黒が良いや、主張しないし。」
「そうだね、千百合の部屋はシンプルですっきりしてるから。」
「・・・・・・」
「うん?」
「いや。物は言いようだなあと思って。」

シンプルですっきりしてると言えば聞こえは良いが、自分の部屋は言うなれば飾り気がないのである。
ベッド、机、チェスト、折り畳み式ミニテーブルに本棚にラグ、以上でおしまい。

紀伊梨みたいにゲーム繋いでいたりぬいぐるみがわんさか置いてあったりしないし、紫希みたいに花とか絵とか小物を飾ったりもしない。
なくて困るもの以外は置かない、それが千百合の部屋である。

「基本、要るもの以外は全部捨てちゃうからな、私。」
「え?」
「え?」
「・・・何?」
「・・・いや。」

今何か変な事言っただろうか。
なんだかびっくりしたような声だったけど、そんな驚くようなくだりなかったと思うんだけど。

「何にびっくりしてんの。」
「その、千百合が要るもの以外捨てるっていうから。逆に言うと、部屋にあるものは要るから置いてあるんだろう?」
「はあ。それが何?」
「あはは!ううん、何でもないよ。」

(何、今度は急に機嫌よくなって。)

しかし、幸村が何でもないという時はえてして突っ込まない方が身のためである事を千百合は知っていたので、もうこれ以上その話はしない事にした。

そしてそれは正解だった。
もし問い詰めたら、幸村は千百合の部屋の本棚の最下段に、自分が載ってるテニス関連雑誌を置いてあるのに気づいてると言っただろう。
千百合は恥ずかしい事を指摘されないで済んだのである。
これから段々そういう書籍が溜まっていくであろうを見越して、父親の書斎にそれ用の本棚一個置かせて貰ったらどうか、という相談を母親と最近しているので猶更恥ずかしい。

「話を戻そうか。このベッドにする?」
「ううん、でもちょっと縦小さいな。もうでかいの買っちゃったらって話になってるんだよね、高校とかまでずっと使う前提で。」
「ああ、そうなんだね。という事は大人サイズでシングルで・・・あ。千百合、あれはどうかな?あの、黒いフレームのベッド。」

幸村が指さしたそれは、千百合の要望通りの黒いベッドだった。
木で出来ていて、若干重めの印象も受けるが、元々千百合は可愛い雰囲気よりこういうメンズっぽい方が好きである。

「ほら、棚もあるしね。」
「ああ、良いじゃ・・・棚?」
「此処の部分。物が置けるようになってるだろう?ふふっ、覚えてないかな?前に俺の部屋に来た時、千百合は羨ましいって言ってたよ。自分のベッドは枕元に目覚ましとか携帯を置くスペースがないから、不便なんだって。」
「・・・!」

記憶が蘇った。
確かに、言った気がする。言われてみれば。

「よく覚えてるわ、私自分でもそんな事言ったの忘れてたのに。」
「それはだって、好きな人の言った事なんだから。」
「・・・・・・・」
「予算はどうかな?そんなに高くはないけど、やっぱりパイプベッドと比べるとちょっと割高になるね。幾らまでって言われてる?」
「・・・いや、これで大丈夫。」
「そう?じゃあはい、カード。」
「・・・・・・」

(可愛いなあ。)

たったこれしきの言葉を、千百合は恥ずかしがって黙りこくってしまうのだ。
もっと言いたい気持ちもあるけど、会話を楽しもうと思うなら追撃してはいけない。このジレンマが幸村はいつも甘くて楽しい。

「それから、マットはあっちだから行こうか。布団も要るだろう?選んでしまおうよ。俺も布団が要るしね。」
「・・・・うん。」
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