5万打記念企画 No.045
とは言っても、マットなんてそもそも拘らないタイプの千百合は、マットはそうそうに手近なもので決めてしまった。
次。布団だ。
「精市の布団ってどうなの。また色々細かく決まってんの。」
「いや、布団は基本的に何でもいいってさ。だから、気楽に決めるよ。」
「へえ、そうなんだ。」
「千百合はどういうのが良い?」
「私別に何でも・・・まああんまり厚すぎず薄すぎず。」
「ああ、そうか。千百合は季節で布団を変えないんだったね。」
「うん、怠いし。」
季節で適宜布団を変える人も世の中には多いが、千百合はオールシーズン同じ布団派である。暑かったり寒かったりしたらエアコンと加湿器を付ければ良い。
布団から出た時に寒い思いをして、出たくないなといちいち思うのも面倒だし。
「精市は?」
「俺は羽毛かな。」
「夏暑くない?」
「俺は、夏はブランケットだよ。」
「ああ、そういえば持ってたっけ。水色と黄色のチェック模様のやつ。」
「ふふふっ。そう、それ。でも冬に寒色は寒そうだから、羽毛布団のカバーは赤にしようか。」
「はー。」
そういうのも考えるのか。色に煩い幸村らしいといえばらしいが。
「やっぱ赤とかってあったかそうなの。」
「うん。赤とかオレンジ、ピンク・・・所謂暖色って言われる色は温かみを感じさせるって、心理学でも有名なんだよ。まあそうはいっても、ピンクは流石にちょっと女の子っぽ過ぎるから、なるべく赤が良いかな。」
「・・・・・ふうん。」
いやまあ。本人が赤がいいというのならそれが良いのだが。
だが千百合としては、いつも涼しい顔で何でもこなしている幸村に、赤はいうほど似合ってないような気がせんでもない。特に、今本人が目の前で選んでいる真っ赤っか系統の、原色に近い赤は。
「・・・お。ねえ。」
「うん?」
「これは?」
千百合が選んだのは、赤と言っても暗めというか、やや茶色がかった濃い赤の布団カバーだった。
よくよく見るとうっすらもっと濃い赤の縦のストライプが入っている。布団の上の方にもちょっとだけフリンジが付いている辺り買う人というか部屋を選ぶが、まあ幸村の部屋なら心配あるまい。
「わあ・・・うん、良いね。これにするよ、部屋にも合うし。」
「この辺ちょっと、洗濯大変そうだけど。」
「それくらいは許容範囲だよ。ふふっ!良かった、良いのが見つかって。有難う、大切にするよ。」
「いや、別にそこまで・・・」
何かまるで、自分が金を払ってプレゼントするかのような喜びようである。
いちいち大げさな、と思いつつ、別に本気で鬱陶しいわけじゃなくてただ恥ずかしいだけなんだけど。
「千百合のは?決まった?」
「ううん。」
「そう。どういうのが良いとか、希望は?ああでも、季節問わず使うのならあんまり季節感が強くないのが良いね。」
「別にどんなのでも・・・ベッド黒だから黒はあれだけど、白の無地とかで良いよ。」
「・・・ううん。」
「ダメかな。」
「ちょっと無色無地は・・・味気なさ過ぎるというか、材質とかに気を使わないと一気にビジネスホテルのベッドみたいになるよ。ベッドの枠もすごくシャープで飾り気がないから、余計にね。」
「・・・・・・」
ちょっと想像してみた。
確かにそうかもしれない。
「とは言っても、流石にベッドが黒で布団も黒一色だと印象が重すぎるね。」
「他の色?」
「そうだね、紺とか暗めの色・・・若しくは、同じ白とか黒でも柄があれば。」
「ああ、なるほど。柄か・・・柄?」
「あはは。そうだね、千百合は柄を選ぶのとかは苦手だよね。」
「何でも良いからね。」
それこそ、フリルとかそういうのでなければなんでも。
そう思って適当に見ていたが、意外とこれが難しい。やっぱり彩度があると若干浮く感じがするからモノトーンの柄物で行きたいのに、なかなかいい柄物が見つからない。
(グレーはちょっとなあ・・・何かぼんやりしたベッドになりそうな気がするし。)
「・・・あ。」
千百合の目に留まったのは、黒い生地に白で小さい星が点々と描かれているカバーだった。
確かに柄物ではあるがそれでもかなりシンプル寄りだし、ほぼ黒じゃんと言われたらそれはその通りだと思う。
「・・・・・」
「あれにする?」
「え?」
「サイズはどうかな。合うと良いんだけど。」
「え、ちょっと待ってよ。」
「うん?」
「ダメなんじゃないの、それ。だって黒だし。」
幸村はそれを聞いて、キョトン・・・とした顔をした後、いつもの微笑みに変わった。
「そうだね、確かに黒だからさっき言った通り重くはなるね。」
「でしょ。」
「でも、それよりも千百合が気に入るかの方が優先だよ。」
「・・・それでいいわけ?」
「あはは!勿論だよ、使うのは千百合なんだから。それが一番大事に決まってるさ・・・はい。」
「・・・・・」
「どうぞ。俺も千百合らしいし可愛いし、よく似合うと思うよ。」
布団カバーを受け取る。
黒のバックに小さい星の柄。
「気に入った?」
「・・・うん。」
「なら良かった。」
その時、前方からうふふふっ!と女性の笑い声が聞こえた。
「ん?」
前を向くと、ベッドを挟んで向こう側にカップルが居て、その女性側が千百合に向けて笑ってるのだった。
もっとも、千百合が顔を上げた途端、あ・・・と言って気まずそうに男の手を引いて向こうに行ってしまったが。
「・・・・何あれ。」
「ああ、あの2人はさっきから居たよ。俺達のことを見てた。」
「マジ?何で?」
「推測だけど、あの2人は同じ部屋にこれから住む予定で、家具を買いに来てるんだよ。それで、俺達にエンパシーを感じたんじゃないかと思う。」
「エンパシーって何だっけ?」
「共感というか・・・正確には違うけど、分かりやすく言うとこの場合は仲間意識みたいな感じかな。」
「仲間・・・?」
仲間って、誰と誰が?
こっちとあっちが?仲間?
「・・・・・え、」
「あんな風に仲良く選びたいね、って言ってたから。」
(・・・・〜〜〜〜〜!)
やっぱり仲間ってそういう意味か。
同じ家具選びするカップル同士だね、って言いたいのかそうなのか。
「・・・・・」
「流石に俺達の年じゃ、一緒に住むためとは思われないだろうけどね。」
「当たり前でーーー」
「一緒に住む!?」
考えうる限りで最悪のタイミングで、良く聞き知った声がホームセンターに響いた。
あ、と隣の幸村は平気そうな感じだけど。
「千百合!お前そんな、お父さんは許さないぞ!その年で駆け落ちなんかーーー」
「やかましいんだよ、誰もそんな話してねえわ!」
「こんにちは、おじさん。」
「こんにちは幸村君!礼儀正しいのはおおいに結構だがな、いくらスーパーマンの君といえど中一じゃ2人で暮らすなんて限界がーーー」
「だから違うっつってんだろ、話聞け!その耳は飾りか!」
絶対絶対、帰宅したら母に告げ口して蹴り飛ばしてもらう。
千百合は固く心に誓った。
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