5万打記念企画 No.051
仁王、棗と空ぶって、2人が次に行く当てとして目指したのは柳の元だった。
そもそも聞く人間としては最有力候補だったのに、真田が居るから結局紀伊梨は怒られそうな気配を感知して後に回したのだ。
「・・・・うお〜〜う。」
「居ますね。」
真田はまだ柳と話し中だった。
「では、行きますか。」
「え、行くの?怒られにゃい?」
「そこはそれ、物は言いようですよ。」
柳生はこういうのが得意である。まあ、だから仁王のパートナーが出来るのだが。
「真田君、柳君。」
「む?柳生に、五十嵐か。」
「珍しい組み合わせだな。」
「やほー!」
「お話し中にすみません、実は柳君に少々お尋ねしたい事がありまして。」
「俺に?」
「そーそー!あのねあのね、これ拾ったんだー!で、誰のか知ってるかなって思って!」
紀伊梨が手の上のマッチ箱を見せると、柳はほう、と小さく言い、真田は眉をひそめた。
「これはなんだ?」
「マッチ箱!です!」
「中身は入っているのか?」
「うん!ほら。」
紀伊梨が開けて見せると、真田はますます顔を顰める。
「たるんどる!どこのどいつかは知らんが、学校に関係のない物を持ち込むな!まして火だと!?喫煙か悪戯か、どちらにせよ悪質だ!」
こうなると思った。
柳生は苦笑した。真田はこういう性格だ。
「柳、持ち主など探さずとも良い!こんなものは没収してーーー」
「まあまあ真田君、落ち着いて下さい。こうは考えられませんか?これは勉強の為に持ち込まれた物だと。」
「む?」
「よく見てください。中身はまあ、どこにでもあるマッチでしかありませんが、この箱。年代物のアンティークです。持ち主は骨董に興味があり、友人との会話の種に今日だけ持ち込んで落とした・・・という事も考えられませんか?」
「・・・確かに、箱そのものの造形は認めるが。」
ほらね、と柳生は内心で呟いた。
そもそも、真田自身が日本の骨董が好きなのだ。この方向から攻められると、態度がどうしても軟化してしまうのはわかりきったこと。
「それに、もしも本当に火遊びや喫煙目的なのであれば、探し出して生徒会として本人と話をした方が良いとも考えているんです。仮にそうであれば、没収したとしても自分のものだと名乗り出ないで事が終わってしまうでしょうから。」
「・・・そうだな。それはその通りだ。わかった、お前がそこまで言うのなら没収は撤回しよう。」
「分かって頂けて。」
「ふむ・・・」
「どーお、やなぎー?」
真田が柳生に言いくるめられている傍ら、柳はずっとマッチ箱を検分していた。
「・・・そうだな、少なくとも柳生の言う通り、骨董として質の良い品ではある。」
「ほーほー!」
「となると、自然裕福な者かもしくは大人である可能性が高い。」
「へー!」
「しかしそれよりは、マッチという物の特性から詰めて行った方が早いだろうな。」
「・・・ほ?どゆ事?」
「そもそも、マッチと言う物は、身も蓋もない言い方をすると前時代的なんだ。古いと言い換えてもいい。喫煙にしろ火遊びにしろ、マッチでなければいけない理由など昨今ほぼどこにも無いと言って良いが、それにも関わらず持ち主が敢えてマッチを使おうとする理由はなんなのか?それがわかれば、一気に持ち主に近づく筈だ。」
「そうですね・・・」
柳生はため息を吐いた。
柳の言う事は非常に最もだと思う。
柳生もずっとそれを考えていた。
喫煙目的ならば、ライターにしないのは何故だ?
火遊びなら、チャッカマンで良いんじゃないのか?
まさかマッチなんて寿命の短いものを、ライト目的で携帯してるわけもなかろう。
何故マッチなのか。
それは柳生もつらつら考えていて、でも結局未だによくわからない重要な点であった。
「マッチじゃないと駄目な理由なんてあるー?」
「ですから今それを、」
「そーじゃなくてさー、単純にマッチが好きなんだよきっと!」
単純にマッチが好きってなんだよ。
そもそも、マッチが好きってなんだよ。犬が好きですとかお菓子が好きですは意味として通るけど、マッチが好きって趣味嗜好としてはニッチ過ぎやしないか。
紀伊梨に言われてから柳生は考えていた。
マッチが好きなんてほぼないだろと思わなくもないが、紀伊梨の勘はそこそこの精度な事を柳生は知っていたので、ないだろと切って捨てるのはちょっと躊躇われた。
(しかし、マッチが好き・・・いえ。仮に本当にマッチが好きなのだとしても、学校でそのマッチ好きを披露するような人など、)
「あ!」
「はい?」
「ゆっきーと千百合っちだー!おーい、2人ともー!」
廊下を連れだって歩く2人に、実に無遠慮に声をかける紀伊梨。
「紀伊梨。柳生。」
「やあ。」
「すみません、お邪魔してしまいまして。すぐ済みますので。」
「「済む?」」
「あのねー、紀伊梨ちゃん達今落とし物の人探ししてるの!」
「持ち主探しです。」
柳生はまめだなあ。と千百合も幸村も思った。
「落とし物の持ち主探しって、それ何でそんな事してんの?職員室預けたら良いじゃん。」
「だってー!落とした人はすぐ欲しいと思うんだもーん!何か大事そうだし!」
「大事なら尚更でしょ。勝手に取りに来るわ普通。」
「まあ、個人的に持ち主に興味もありまして。物も少々変わっているので、どんな方が何目的で持ち込んだのか、知りたくもあるんです。」
「へえ。柳生がそこまで言うなんて、俺も気になるね。その落し物はどれだい?」
「これ!」
紀伊梨が差し出したそれを見て、千百合は?な顔だが幸村は割と露骨におおっという顔になる。
「何これ。」
「マッチ箱だよ。」
「マッチ?マジ?」
「少なくとも箱はそれ用だね。中身もマッチかい?」
「うん!ほら!」
「お詳しいですね、幸村君。」
「実は、少し前に偶々これと同じ品を見かけたんだよ。」
「え!?」
「ああ、勘違いしないで。持ち主を知っているわけじゃないんだ。真田と一緒に覗いた骨董店で、これが売られていてね。マッチ箱だっていうのもその時聞いたんだけど・・・」
幸村は手に取ってくるくると回しながら眺めた。
「・・・もしかして、まさにこれかも知れないね。」
「え。精市が見かけたのが、って事?」
「そう。お世辞にもこれは真新しいとは言えないし、これの持ち主は俺が見かけた後に、なんらかの形で手に入れたのかもしれない。」
「おー!じゃあじゃあ、落とした人はこっとう?に興味があるんだね!」
「とも限りませんが。」
「そうだね。親が購入したものを何かの理由で持ち込んだ、っていうパターンも考えられるし。」
「というかさ。
そもそもこれを落とした奴は、なんでこんなもの学校に持って来てんのよ。マッチでしょ?」
それな。
柳生は深く頷いた。
「箱を人に見せたいから・・・という発想もないではないんですが。」
「それでも、元々空だった箱にマッチを入れたのは持ち主だろうから、マッチに用事があってこれを使ってる人が少なくとも持ち主の身近に居るわけだね。」
「だから、マッチが好きなんじゃないのー?」
「マッチが好きって何よ。何そのニッチ趣向。」
「まあ、人の趣味は色々だから。俺は良いと思うよ?レトロというとなんだけど、趣があって。はい。」
幸村はマッチ箱を紀伊梨に返した。
「見つかると良いね。」
「まあ、誰なんだかわかったら教えて。」
「ほいほーい!」
「お邪魔してすみませんでした。それでは。」
紀伊梨と柳生が去っていくのを見ながら、幸村はポツリと言った。
「マッチが好き、か。」
「マッチが好きって何よ。好きだからって持ち歩くわけ?」
「そう。火を使う機会がある時に、敢えてマッチを使うっていう風になるんじゃないかな。大人なら葉巻に火を点ける時なんかに使いそうな気はするけど。」
「まあ・・・っていうか、基本火を持ち歩く理由って喫煙目的よね。」
「そうだね。後は何かを燃やす時だけど、学校では考えづらいし、日常的に何かを燃やすっていうのもなかなか特殊な状況だと思うよ。」
「日常的に火・・・」
「まあ、学校にある日常の火っていうと、せいぜいガスコンロが点きづらい時に補助で火を近づけるくらいかな。」
「チャッカマンで良くね。」
「そうなんだ。結局、マッチでそこまでするのかっていう所に集約されるね。」
世の中には色んな人が居る。本当に。
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