5万打記念企画 No.052
大人ねえ。
そもそも大人っぽいどころか、自分はまだ子供も子供の年齢だけど。
ああでも確かに、小学生とかそのころと比べると、純粋な子供らしさのようなものは薄れてきてるのかもしれない。
小学生の頃から既に不愛想で、子供らしくないとは言われてきたけど、それでもあの小さかったころとは何かが違う。
と、思う。何かって何なのかは、自分でもよくわからないけど。
なんてぼんやり考えながらその日帰宅すると、家は静まり返っていた。
「ただいまー・・・あれ?お母さん?」
母、純子は人見知りで引きこもり気味の専業主婦である。
つまり、大凡の場合家に居るのだが。
(買い物?いや、靴あるしな。昼寝か・・・?)
でも、もう夕飯の支度し始めないとまずい時間だと思うのだが。
アラームで起きられなかったのかな、とか思いながら2階の自分の部屋へ向かっていると、夫婦の主寝室から呻き声が聞こえた。
「・・・・お母さん?ちょっと、お母さん。」
「ううう・・・・あれ・・・?千百合・・・?」
勝手に悪いとは思いつつノックなしで部屋に入ると、母は赤い顔をしてベッドでぐったり横たわっていた。
「具合悪いの?」
「そう・・・」
「病院は?」
「行った・・・風邪・・・・ごほ!」
「飲むもの持ってくる。」
「それより、移るから入らないで・・・棗は・・・?」
「兄貴は今日出かけてから帰るって。」
「そう・・・千百合、悪いんだけど夕ご飯頼める・・・?お父さん出張だし、お母さんの分良いから、自分と棗の分・・・」
「わかった。あと、お粥は作るから食べなよ。」
「有難う・・・あと、買い物のお金は・・・」
「買い物とか多分行かなくて良いでしょ。ありもので何かちゃっちゃっと作るよ。」
おかずは多少貧相になるかもしれないが、どうせ自分と棗しか食べないのだし。こんな時におかずの文句とか言ってる場合じゃないし、今日くらい良かろう。明日になってもこうだったら、その時に買い物したら良いのだ。
「じゃあお願い・・・」
「ん。」
「ああ・・・千百合が頼れる子で本当に良かった・・・下手な大人よりずっと大人だし・・・」
「まあ。」
あの父に比べれば誰だって大人だろうと思う。
冷蔵庫を開けると、キャベツと玉ねぎがあった。
肉ないか肉、と探すと豚肉と鶏肉。
(こりゃあもう野菜炒めだな。)
母が野菜炒めのつもりで買っておいたのかはわからないが、まあ良いだろう。
卵もあるし、卵がゆも出来る。
「えーと、野菜炒めのレシピ・・・ん?」
検索していると、電話が入った。
「もしもし。」
『もしもし、幸村です。』
「ちょっと待って、スピーカーにして良い?」
顔から電話を離しても通話出来るなんて、文明の利器は偉大。
ちょっと野菜を切る音がするけど、それは許して貰おう。
『今忙しいかい?後にしようか。』
「いや、良いよ。ただちょっと、作業してるだけで。」
『作業?』
「母さんがちょっと体調崩しちゃって。私が夕飯作るんだよね。」
『大丈夫なのかい?手は要らない?』
「いや良いよ。野菜炒めくらい作れるよ。」
『いや、俺も作れないと思ってるわけじゃないけど。』
千百合はちょっと笑った。
そういう意味じゃない事くらいわかってる。千百合なりのジョークだ。
「大丈夫、ただの風邪だし。今日明日多少家事することになったからって、別にどうって事ないから。」
『そう?』
「そう。そもそも、私そんな肩肘張って働かないからね。今日だって、おかずとか適当に・・・」
『・・・千百合?』
「・・・ううん、何でもない。それより、大本の用事は何よ?」
『ああ!そうだった、忘れるところだったよ。実はフェスの日のスケジュールなんだけど・・・・』
野菜炒めなんて、中1にでもなれば、その気になったら誰でも作れる。(一部例外は居るかもしれないけど。)
逆に言うと、今日は父親が居ないからまあ子供だけだしと思って野菜炒めオンリーで済まそうかとか考えているけど、これが父親も居るとなると量的に賄えるか厳しい。
そしてそうなると、もっと色々味噌汁だのサラダだの煮物だのが必要かなと思うようになり、でも今から車なしで一人で買い物して行って帰ってきて・・・とかいう事になると、もうお粥だけ作って健康人間は外食しようぜとか言いたくなる。
母親は自分を大人だなんて言ってたけど、自分はあまり。
(狼狽えないのが大人っぽい、って事なのかな。)
でもそれって無感動なのとどう違うんだろう。
電話を野菜を切りながら通話しながら、千百合は思った。
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