5万打記念企画 No.054


「ふう・・・」

その日から3日後の日曜日。
紫希は課題を終わらせていた。

地域情報誌に寄稿するのは、別に丸井のクラスだけというわけじゃない。
紫希のクラスだって普通に同じ課題が出ているし、他所もそうだろう。
だもんで紫希は、この日の昼過ぎに「湘南の歴史」というテーマで課題を終えたところだった。

(・・・そういえば、丸井君は結局課題の方をどうなさったんでしょう?)

お菓子で書いてるのかな。
そう思うと紫希はまたあの笑顔を思い出して、一人で笑みが零れてしまう。

と、丁度その時、LINEがなった。
今正に考えていた、丸井から。


『今、暇?』

『空いてたら課題付き合ってくんねえ?』

『こないだの、地域情報誌に載せるっていうやつ』

今日の予定が特になかった紫希は未だにちょっと感じる緊張からちょっとだけ迷って・・・そして上着を手に取った。





「ええと・・・」

駅前で待ち合わせ。

そう言われて駅前まで来てみたが、なかなか人が多くてすぐには見つからない。

「ええと、ええと・・・」
「よ!」
「あ!ああ、丸井君。すみません、お待たせしまして。」
「別に待ってねえよ、俺から呼んだんだし。じゃ、行くか!」
「どこへですか?」

そう。
呼ばれたけど、呼ばれてどうするのか紫希は知らないのだ。
丸井はくるっと回って、スマホを見せて笑った。

「ここ♪」

そう言って新しく出来たハワイアンカフェのサイトを見せてくる丸井は、やっぱり良い笑顔だった。




「結局、お菓子になさったんですか?」
「んーん?考え中。考え中だけどまあ、ほら?腹が減っては戦は出来ぬって言うだろい?」

言うけど、別に戦前じゃなくたっていつだって食うことにご執心じゃないか。と、あのスキンヘッドの友人がこの場に居たら言っただろう。

「暫くは机に向かって、ちゃーんと考えてもみたんだけどよ。」
「ああでも、そういう時ってありますよね。考えても考えても、いまいち何も浮かんでこなくって・・・」
「え、春日も?」
「え?ええ、そうですけど・・・」
「へえ!てっきり机に張り付いて考える方かと思ってたぜ。」
「そうですね、基本はそうです。でも、どうしても駄目な時は駄目で・・・そういう時は、こうして外に出たりとか、本を読んだりお菓子を作ったり・・・」
「わかるわかる。閃きとかって、やっぱ気分転換と糖分が要るよな。」
「はい。」

糖分は別に要らないよね。
人によってはそう返すのだろうが、生憎紫希も甘党なので別に突っ込みが入ることはなかった。そもそも、こうして2人してパンケーキセットを頼んでいる時点で。

「ま、後の事は後の事って事で、今は食おうぜ?」
「はい。」
「ついでにそっち、一口もらえねえ?」
「ふふっ、良いですよ。」
「よっしゃ、サンキュ♪」
「ちょっと待って下さいね。ええと・・・・」
「・・・・・・」
「こうして、こう・・・はい、丸井君・・・丸井君?」
「お前さあ。」
「はい?」
「前も思ったけど、すげえナチュラルに一番良い所人にやるよな。」

林間合宿でカレーをねだった時もそうだったが、紫希は一口くれと言われると、惜しみなくメインの部分を出してくる。
今だって丸井の分のフォークを受け取って、そこのストロベリーソースのかかった部分をつついてくれればそれで良いのに、ホイップ乗せて添えてあるストロベリーとブルーベリーとラズベリーと、おっとしまったアイスも忘れないで、とトッピングの全部乗せを普通の顔してやっている。

「大丈夫ですよ?私も食べていますから。」
「そうだけど、頼んでんのはお前なんだから、一番メインの所は自分で食べたくならねえ?」
「それもそうですけど・・・でも、やっぱり端じゃなくて良い部分を食べて貰わないと、どれだけ美味しいか伝わらないと思うんです。ですから、どうぞ。」

そう言って、紫希は本当になんでもない当たり前のような顔をして、預かったフォークを返してくる。

「・・・そっか!じゃ、遠慮なく。」
「はい、どうぞ。」
「ん・・・お!美味い!けど割と酸っぱいっつうか、何か不思議な味すんな。」
「ああ、確か、ソースにお酢が入っていた気がします。メニューの説明に・・・」
「・・・・・」
「・・・丸井君?」
「・・・ライムも入ってる気がする。」
「えっ?で、でも、書いてませんけど・・・入ってるんでしょうか?」
「ま、隠し味かもな。わかんねえ?もっかい食ってみろい。」
「・・・・・ごめんなさい、わからないです・・・」
「そう?こっちはコーヒー入ってっけど、それはわかるか・・・ほい。」
「え、」
「あーん。」
「い、いえ良いです、良いですよ!」
「まあまあ、遠慮すんなって♪ほら、美味いところ食べてくんねえと、伝わんねえんだろい?」
「そうですけーーーむ!」
「どう?」
「・・・・!本当です、コーヒーの味がします!」
「お、今度はわかった?」

丸井がくれたチョコレートソース掛けマカダミアナッツ味は甘くて美味しくて、テーマを何にするのかという本題を忘れそうになりながら紫希は笑った。





「・・・先輩、あそこのテーブル、めっちゃゆっくり食べますね。」
「カップルは食うのが鈍いって相場は決まってるんだよ。回転率低いの、諦めろ。」
「うぃーす。」


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