5万打記念企画 No.054


「誌面があっても、コンセプトがないと・・・」
「痛いとこついてきたよな、あのおっさん。」

今まさに困っている事をずばり言い当てられたような気がした2人は、店を後にしてもなんとなくさっきの話が頭に渦巻いて、あまり熱心に他の店を見るテンションじゃなくなってしまった。

足が向くままになんとなく歩き続け、ふと気づくとあまり見たことのない所まで出て、それでもそのまま進んでいくと、嗅ぎなれた独特の匂い。

先に何があるかわかっていても、なんとなく足早になってしまうのは、半分本能かもしれない。

「わあ・・・!」

海だ。

強い日差しに照らされて、きらきらと光をそこら中に振り撒く青い海が、視界いっぱいに広がった。

とはいっても、浜辺ではなくて公園なので、波打ち際とかには行けないけれど。

「へえ、綺麗じゃん?こんな所あったんだな。」
「結構、新しいんじゃないでしょうか?色々、綺麗ですし・・・」
「確かに何か、真新しい感じすんな。そう言われてみれば。」

単純に掃除されてるとかそういう話ではない、材質そのものの綺麗さがそこかしこに見受けられるこの公園は、入口にちゃんと公園の名前が書いてあっても、遊具やなんかがある公園ではない。
ベンチがあって自販機があって街灯が立っていて、それでおしまい。
空き地があったから整備して公園にしてみたよ、な感じしかしない、そんな公園だった。

それでも海があると、それだけでもう見どころとして完成されているもので、2人は階段を降りて石が貼ってある地面を横切り、ぐるりを囲む柵に手をかけた。

この柵の向こうは、もう海である。

「そういえば、これは平気なわけ?高い所、苦手なんだろい?」
「有難うございます、でも大丈夫です。海は・・・例え深くても、あんまり「高い所」っていう感じがしないので。」
「ま、地面じゃなくてもちゃんと足の下あるもんな。」


ざー・・・ん
ざー・・・ん


ただ波の音がする。
周りには誰も居ない。
魚の一匹も跳ねない。

結局。
2人にとっての湘南の町とは、こういう所なのだ。

素朴で、日常の香りに溢れていて・・・敢えて言うと、地味で別に○○の都!とか強いフレーズに当てはめられるようなものなどない。

「ああ・・・」
「ん?」
「いえ、湘南って普通はあっちがピックアップされますよね・・・って、思ったんです。」

紫希の視線の先には、遠くてシルエットだけだが確かにその存在を視認できる島。
そう、江の島。

「大体皆、着目は江の島というか・・・」
「わかる。その次、鎌倉だよな。」
「この辺って、実は湘南なのに人目を引かないですよね。」
「東京なのに23区しか栄えてない、みたいな感じ?」
「神奈川には横浜と江の島しかない、みたいな・・・」
「県外だとそーいう奴も多いんだろうな。」

自分達だって別に他所の県に詳しいわけじゃないから、それは責めやしない。
責めやしないけど。

「別に、目立ったもんがなくたってこの辺は良い所って思うんだけどな。」
「ああ、それならそれを単語にしたらどうですか?」
「・・・どうやって?」
「ええと、ですから・・・この場合、丸井君が「良い所だ」って思う具体的な理由は何か?って事になると思います。例えばですけど、退屈しないっていう理由なら刺激の都、っていう言い方になったり・・・素朴でホッとする、みたいな感じなら安堵の都、とか・・・」
「理由ね、理由・・・・」

そう言われると難しい。
なんとなく、なんだけど今はそれを出すと解決にならないので。

んー・・・とちょっと、ほんの1分ほど悩んでいた丸井だったが。

「・・・気分転換すっか!ちょっと待ってろい。」
「え?どこへ行くんですか?」
「あっち。何か買ってくる。何が良い?」
「わ、私も行きます!」
「奢られといたら良いのに?」
「何が良いんですか・・・」

何も良くない、と心底思いながら紫希は丸井についていき、端に設置されていた自販機に向かった。

すると。

「・・・!」
「ん?何これ・・・お!面白そうじゃん!」

自販機は2台あった。
それは遠目でも見えていた。
更にその内の一つは変わった見た目だな、ローカル自販機の類かな、とは思っていたのだが。

なんとびっくり、近づいてみて初めてわかったが、2台目は飲み物ではない。
パン屑を買えるのだ。かもめの餌用に。

「かもめが来るんでしょうか・・・?」
「来るから売ってるんじゃねえ?まあ来なくても、最悪魚の餌くらいにはなるだろい。」
「逆に、とんびが来そうです・・・」
「あ、それは来るかもな。ちゃんと袋持っとかねえとな・・・と。」

当然のように2人して飲み物と一緒にパン屑も買うと、投げやすいように柵の方へ戻る。

「そー・・・れっ!」

丸井が投げると、ぽーんと綺麗な放物線を描いて、パン屑は海の向こうへ飛んでいく。

「投げちまったけど、これで良いわけ?」
「どうなんでしょう・・・えいっ!」

言いながら、取りあえず紫希も投げてみるが。


ポチョン。


「・・・・・・・」
「ぷっ、ははははは!あははははは!」

超々至近距離にしか届かない。
もう、すぐそこに落ちただけ。

「下手なんです、すいません・・・」
「いや謝らなくて良いけど?もうちょいこうさ、振りかぶっ、て・・・!?」
「わ・・・!」

紫希に見せるように、丸井がパン屑を持って、頭上に振りかざした時だった。
どこからともなく、本当にかもめがやってきて、さっと持っていたパン屑を取った。

「かもめです・・・!」
「すげえ、マジで来んのな。」

というか。
よく見ると、1羽どころか数羽がこの辺りを、いつの間にか旋回している。
まだ貰えると踏んでいるのだろう。

「おし、じゃあちょっと派手に・・・よっ!」

ばさっ!と派手に海に撒くと、かもめは我先にと飛んできた。
上手い具合に空中で啄むものも居るし、落ちたものを拾うものも居る。
青い空と海の間を、眩しいくらいに白い羽で飛び交う様は、とても綺麗だった。

「・・・・・」

それを見ていた紫希は、自分もやってみようかと思ったのだ。
こう、丸井みたいに、持っている袋をばさーっと。

「・・・こう?です、か・・・?」
「そうそう。もうちょい高めにして、」
「この辺ですか?」
「そう。で、大体あの辺めがけてさ、ばーっとーーーー」

振り回すみたいに、と言いかけた時だった。

特にくれるでもなく、ただパン屑を大量にかかげてるだけ(にかもめには見えたのだ)の紫希に、かもめ達はすぐしびれを切らした。
野生の動物はいつもせっかち。

「あ!ちょ、ちょっと待ってーーー」
「あ、おい!」

一羽がビニール袋ごと持っていこうとして。
それはいけない、取られたくないしビニールを海に落としちゃいけない、と紫希が頑張った末に、ビニールはあっさり裂けて破れて、そこら中にパンの欠片が散らばった。
結果。

「きゃあっ!ちょ、ちょっと、待ってくだ、ちょっと、」
「やめろ!やめ、おい、ちょっ、」

2人はかもめに群がられてしまった。
別にかもめだって人間に興味はないのだが、人間の周りに餌があるから仕方がない。
足元に落ちている餌、服や髪に引っかかっている餌をきっちり取ろうと次から次へかもめがやってきて、紫希と丸井は白の中に埋もれてしまった。

さっきから丸井は手を繋いでくれてる。
一緒に逃れようとしてくれているのは紫希にも分かるのだが、いかんせん見えないのだ何も。
ひっきりなしに羽とか鉤爪が飛んできて、つい反射的に目を瞑ってしまうし、視界が遮られまくってどっちに何があってどこへ迎えば良いのか分からないし。
丸井の方も、手を繋ぐ止まりで引けていない辺り、同じ状況なのが伺えた。

「丸、丸井君、丸井くーー」
「〜〜〜〜お、ら!」

丸井が自分の分の最後のパン屑を自販機の方へぶん投げると、かもめは一斉にそっちへ向かった。

瞬く間に視界が晴れて、2人は手を繋いだままその場にへたり込んでいた。
辺りには啄めないくらいの小さいパン粉が散らばっていて、かもめ達は暫く向こうでパンを啄んでいたが、間もなく食い尽くすともう用事はないと言わんばかりに一斉にどこかへ飛んでいった。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

一気に元通りの静けさになった公園。
穏やかな波の音。
うららかな天気。
遠くに聞こえる、誰かの自転車のベル。

平穏な風景に、今自分達2人だけあちこち啄まれてぼろぼろで座っている。
そう思うと。

「・・・ふ、」
「へ?」
「ふふ、ふふふふっ!あは、うふふふっ!あはははは、あはは・・・」
「・・・ふっ、はははははは!ははははは!」

なんだかおかしくっておかしくって、相手が笑うから余計におかしくて、2人は暫くそのまま笑い合っていた。


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