5万打記念企画 No.055
「坊ちゃんか、懐かしいな。」
「知ってるっ?読んだことあるっ?」
「読んだことあるいうか、結構好きで何週かしたわ。」
「へえええ・・・・」
流石に読書好きは違うなと可憐は思った。
跡部からまた低レベルな話をとか言われそうだが、可憐からしてみたら中学生で古典文学を嗜む時点で読書家だ。
「でも、所謂古典を読むんやったら坊ちゃんは結構おすすめやで。」
「そうなのっ?」
「比較的短いし、話わかりやすいしな。登場人物がなんちゅうか・・・漫画的いうか、キャラが立ってるさかい。」
「へええっ!」
「しかし、読む時のコツなあ・・・」
「何かあるっ?」
「・・・慣れ。」
「あ、うう・・・」
「って言うたら元も子もあらへんから。」
「で、でもそれ以外あるっ?」
「バックボーンを知る。て言うのんは結構有効やで。」
「そ、そういうものっ・・・?」
バックボーンと言われても、そもそも知識も何もない可憐にはどうしたら良いものか見当がつかない。
?な顔をする可憐に、忍足はちょっとおかしそうに言った。
「可憐ちゃん、ちょっとは読んだんやろ?」
「あ、うんっ!本当にちょっとだけっ!何か、お父さんが死んで、お兄さんからお金を貰った辺りまでっ。」
「どう思った?」
「どう・・・」
「何でもええねんで。内容についてでも、そうやない部分でも。」
「・・・・・・・」
「正直に言うてええねんで。これ読んでてどないしたらええねんて思わへんかった?」
「どうしてわかるのっ!?」
「くくく・・・」
忍足はおかしそうに笑った。
「基本的に坊ちゃんは今の漫画とか映画とは構成が逆やねん。初めに主人公を見せといて、後から回想とかで過去を見せて深堀りしていくんやのうて、一番最初からキャラクターの事を話してまうねんな。ほんで、現在に至りますっちゅうところから本題のスタートやから、助長やなと感じるのんもそれはそれでええねんで。今まだ半分、登場人物紹介やから。」
「そうなのっ!?」
「せやで。それから、坊ちゃんていうより夏目漱石の話になってまうけど、こっから先の話で坊ちゃんがつく職業ていうのんが、昔漱石が着いてた職業やねんな。」
「えっ、小説家になるのっ?」
「まあその辺はネタバレになるさかい、読んでったらええわ。話戻すけど、自分の事をある程度踏まえて書いてるいうか、こういう人が書いてんなあて思いながら読むと親しみがわいて読みやすいで。」
「へえ・・・」
作者への理解を深めて読みやすくなるというのは、可憐にはない発想だった。
「親しみなんて思いつかなかったなあっ。っていうか、夏目漱石に親しみっていう発想がそもそもなかったっていうか・・・」
「可憐ちゃん、こういう文学系はあんまり読まへん?」
「あ、うんっ!恥ずかしいんだけど、あんまりどころか全然読んだことないっていうかっ。」
「やったら、ちょっとイメージが先行しすぎてるのんかもしれへん。」
「イメージ・・・」
「純文学はお堅くて難しい・・・とか思うてへん?」
「思ってるっ!だって、実際読みにくいし・・・」
「まあ慣れへん文体はそれだけで疲れてまうけどな。でも、そんな事あらへんで。別に普通の事書いてるだけ・・・そうやな、特に坊ちゃんの場合は、人の日記でも読んでるみたいな感覚で読んでもええと思うわ。」
「えええっ!?」
そんなんで良いのか、おい。
という気持ちが顔に書いてあるような可憐に、忍足はおかしそうにまた微笑んだ。
「大丈夫やで。書いてるのんも書かれてるのんも人間なんやから、もっと身近なもんやと思うて気軽に読んだら。」
そういうもんなんだろうか。
手の中の「坊ちゃん」が別に返事などしてくれるわけでもなかった。
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