5万打記念企画 No.055



そんなわけで坊ちゃんを読み進めることに決めた可憐だったが、そもそも土台可憐は日々暇な方とは言い難い。
朝練行って授業に出て放課後はまた遅くまで部活して、帰ってきたら宿題や復習や・・・とかやっていたら、とてもじゃないが本を読む隙間は殆どない。
初めは電車で読めば良いとか軽く考えていたが、やってみると毎日部活と授業でへとへとになっている身で乗り物に揺られて読書というのは眠くて眠くて、うとうとしている間に手からずるりと本が抜け落ちてからそれは辞めた。
借り物なのに汚したりとか、よくよく考えたら自分はドジなので置き忘れとかするかもしれないし。

という次第になり、読む気はあるのに全然読み進められないまま数日経過した頃、昼休みに可憐は伊丹と一緒に購買に行った。
パンを買ってジュースも買って、ついでにちょっと罪悪感(主に体重的な意味で)にかられながらデザートのお菓子を買って、教室に戻ろうと歩いていると。

「あ。」
「えっ?」
「あれ、忍足君じゃない?」

伊丹の言う通りだった。
中央ホールのソファに忍足が座っていた。

忍足は何か読んでいて、そしてその忍足を何やら遠巻きに数人の男子が眺めている。

「あいつら誰なんだろ・・・可憐知ってる?」
「ううん、知らないっ!」
「ふうん・・・なんかあれだね、あいつら挙動が女子っぽいね。」

伊丹の言うことは結構当たっていた。
遠巻きに誰かを伺って、何事かひそひそ話して・・・忍足も気づいてるらしく偶に視線を上げると、いや何でもないですよ?と言わんばかりに余所見を始める。

女子だったらああ忍足に片思いでもしてんのかなあとでも思うところだが、男子だとそれは考えにくい。なんなんだろうか。

「ううん・・・まあ何でも良いかなっ。おーい、忍足くんっ!」
「忍足君、お疲れ。」
「ああ、可憐ちゃんと伊丹さん。」
「忍足君こんな所で読書っ?」
「いやまあ、ついでやけどな。跡部がなんや話したいことがあるらしいねんけど、合流する前に生徒会に捕まったらしいから、適当に時間潰そうと思うて。」
「ふうん、跡部君も多忙ね。」

話しながら忍足が本を閉じた。
表紙が見える。

「あっ、坊ちゃん!」
「坊ちゃん?」
「ああ、せやねん。話してたら懐かしゅうなって。」

なんて言って忍足が傍らに置いたそれは、確かに端の方がところどころ丸まっていて、使い込み・・・というか、購入されて結構経ってるのがわかった。

「そういえば可憐、読んでるの?」
「あう・・・実は、読む時間が・・・電車だと寝ちゃうしっ!」
「まあ忙しいからな。」
「忍足君は逆にいつ読んでるの?電車で寝ないで頑張る、みたいな?」
「せやなあ。それから、こういう隙間時間とか。文庫やから持ち歩くのんにそんなにかさばらへんし。ただ、可憐ちゃんには進めへんわ。やっぱり初回はなるべく通しで読まへんと、どこまで話進んだか忘れがちになるさかい。」
「あー確かに、知ってる話をぶつ切りで読むのと知らない話でそれするのとじゃ、状況が違うよね。」
「他に言うたらーーーー」

「おい、忍足!」

少し離れたところから、跡部が声を張り上げた。
軽く手を上げている。生徒会の用事は終わったらしい。

「堪忍な、行かな。」
「ううんっ!そんなの全然良いよっ!跡部君によろしくねっ!」

去っていく忍足の背中に可憐と伊丹は軽く手を振った。

「本当に居るんだね、文学を日常的に読む中学生男子が。」
「あははっ!でも、氷帝は比較的多いんじゃないかなっ?」
「確かにねー。私達庶民組だからってだけか。」

なんて言いながら教室を再び目指そうとした時だった。

「あ・・・あの!」
「ん?」
「何っ?」

振り向くと、さっきの忍足をちらちら伺っていた男子達だった。

「あのー・・・君達、忍足の友達?」
「「友達・・・・」」

可憐と伊丹は顔を見合わせる。
「私は、知り合いかな?友達の友達って感じ?」
「私は友達かなっ!でもそれ以上に、同じ部活だからチームメイト感があるけどっ!」
「ああ確かにね。仲間感みたいなもんがね。」
「そ、そう・・・」
「で?あんたらは誰?何?」
「ああいや・・・」
「俺その・・・同じ委員会なんだけどさ。」
「けどっ?」
「・・・あの!ぶっちゃけて言うけど、忍足ってどうやって付き合えば良いの!?」

は?と伊丹が思わずという感じで声を出した。
可憐も声にこそ出さなかったが、意見は同じ。

「どうって、この場合何がどう?」
「こいつさ、仲良くなりたいんだって。」
「でもなんか、憧れみたいなもんがあるらしくてさ。」
「話しかけて、此奴あほだなとか思われたらどうしよう・・・」
「そんな事思わないよっ!?大丈夫だよっ!」
「でも怖いんだもん!何かさ、忍足自身何かこう・・・出来る男じゃん!スマートでさあ、勉強も運動も出来てさあ!」
「あーーー、ちょっとわからんでもない。」
「瑠璃っ!?」
「いや何かこうさ、軽い冗談とか話題とか気軽に振りづらいみたいな印象はあるよ。あくまで印象であって、今は違うけどさ。」
「そうなんだよ〜・・・隙がなさすぎなんだよ〜・・・そこが同じ男ながらかっこいいと思うんだけど、反面俺みたいな凡人が話しかけて良いのかとか考えちまうしさ〜・・・」
「そう・・・そうっ?そう、かなあっ?」

可憐は首を傾げた。


3/5


[*prev] [next#]

[page select]

[しおり一覧]


番外編Topへ
TOPへ