5万打記念企画 No.056


「しかしその場合予算がですね、」
「予算の話をするのならば、そもそもーーー」

柳生のクラスを尋ねると、あっちで真田君とお堅い話してるよと言われた。
近づいてみたら、本当にお堅い話をしていて、恐れ入ると紀伊梨は感じた。耳がいいからさっきから会話は聞こえているが、内容は全然わからない。

「時間的に余裕が足りないのは別問題としてーーーおや?」
「む?柳。それに五十嵐か。」
「どうしました、五十嵐さん。遠い目をなさっておいでですが。」
「今脳に入った文章を耳から出す作業をしているんだ。少し待ってやってくれ。」
「1学期においての各部活動の成果から考えられる確保練習時間と設備予算の相互因果関係ががががが・・・・」

一言一句漏らさず聞けているのに意味が掴めていないその状況は、全然知らない外国語のリスニングをしている状態に近い。リスン&リピートが限界。

「・・・・は!あり?えーと、お話終わった?」
「終わってはいませんが、一先ずはそちらが先でよろしいですよ。」
「俺達に何の用だ?」
「あのねー、曲を!作りたい!です!」
「?知らんが、好きに作れば良いだろう。」
「じゃなくてー!皆の曲を作りたいの!」
「お前達個人の曲を作りたいから、意見が欲しいらしい。採用されるかはさておき。」
「ほほう。」

きらり。
と、そのよく磨かれている眼鏡が光ったかどうかは知らないが。

「それならば、ぜひ作って頂きたいテイストが。」
「あるのか?」
「はいはい!なんでしょーか!」
「特撮の主題歌に相応しい曲が希望なのですが、可能でしょうか?」

今度は紀伊梨の頭からシピーン!と音がなったのが聞こえた。ような気がした。
柳にとって、「ような気がした」というのは凄く凄く珍しい事なのだが。

「・・・やーぎゅはー。」
「はい?」
「マイナーコードで纏めていくのが良いと思うんだよね!」
「バラード調・・・という事ですか?」
「んーん!ガンガンの激しめで良いんだけどー、あんまり最初から最後まで明るめにすると、何かちょっと違うかなーって気が!します!元気よく!でもちょっと悲しい部分も入れる感じでどすか!」
「ああ・・・良いですね、非常に好みです。」
「おっしゃー!じゃーそんな感じでー、音も色々入れちゃおっかー!何かシュピーン!とかさ、キーンみたいな・・・ボカーン!よりやーぎゅはそっちのが良い気がするんだよねー!」
「そうなりますと、イメージとしてーーーー」

(今までで一番スムーズだな。)

お互いの向かいたい方向がとてもよく噛み合っているらしく、トントン拍子に話が転がっていく柳生。

対して、それを複雑な顔で見ている真田は。

「・・・・・・・」
「思いつかないか。」
「む・・・いや、思いつかないわけではないが・・・」
「なんだ、何か考えがあるのか。それなら言えば良い。五十嵐のことだ、馬鹿にしたり無下に扱ったりなどはしない筈だ。」
「ああいや、それはそうだが・・・何分明るくないものでな。要望として正しいのかどうか・・・」

良いよ良いよ気軽に言いなよと言われても、本当に良いの?と思ってしまうのが生真面目な真田の生真面目な所。
要望を言っても、そんな漠然とした事言われても困るとか、逆に細かすぎるとかやりにくいとか言われるんじゃないか。とか考えてしまうのだ。

柳から言わせてみると、真田はまだ五十嵐紀伊梨という人間を掴んでいない。

「真田っちはー?」
「む!」
「どんなのがいっすかー?」
「む・・・そうだな。あまり明るい曲調よりも・・・」
「どーん!ずおおおお!みたいなのがいっすか!」
「五十嵐さんの、真田君へのイメージがとてもよく分かりますね。」

つまり、紀伊梨の中で真田はこうなのである。
兎に角いつも強くて大きくて煩い。別に飛びぬけた巨漢とかそういうわけでもないのに、体中から迸る圧。

紀伊梨はそれをしばしば怖いと思うが、同時に何か父親的な安心感も覚えている。
紀伊梨自身の父親はそう怖い方ではないので、あくまでイメージとして。

「そううるさく無くて良いんだが。」
「え、そーお?ダダダダダーン!みたいな感じで行こっかなーと思ってたんだけどー。」
「そういうものよりも、その・・・上手く言えんが、大きさよりも奥行きをだなーーー」
「えー!紀伊梨ちゃん、真田っちの曲はズゴゴゴゴ・・・ゴアアァーーーン!でいきたいよー!」
「何のために聞きに来たのだ!人に意見を聞いたのなら取り入れんかあ!」

そうやって怒鳴っちゃうから煩いイメージから離れられないんだよ。
そう思って苦笑しつつ、そうと口には絶対出さない柳と柳生。この辺がこの二人の、まあ言うなれば大人な所。

「意外に、私と同じようなテイストでも真田君ははまると思うのですが。」
「特撮をイメージさせるような曲か。確かに、真田は特撮に明るくはないが、本人が特撮のヒーローに近い性格だからな。」

正義感の塊で、曲がったことが大嫌い。
事に当たっては正面突破正面突破&正面突破。
主人公に向いてる性格だよね、と言われればそれはそう。それにしてはちょっと怒りっぽいけど。

「そこに明鏡止水の精神性をだな、」
「めーきょーしすいって何ですかー!分かる言葉で言ってよー!」
「そのくらい知っておかんか!幾つになったのだ幾つに!」

「しかし纏まらなさそうですね。」
「いや、そうでもない。」
「?そうですか?」
「五十嵐の中ではもう、ああして会話している間に段々固まってきている筈だ。まあおそらく、真田の希望とは乖離しているだろうが。」
「どうなるのか楽しみですね。」
「ああ、完成度はいずれにしろ高いだろう。楽しみにする価値は十分ある。」

真田が聞いていれば、俺は楽しみに出来んと返していただろう。
しかし今その真田は紀伊梨に国語の指導をするのに忙しくて、返事するどころではなかった。

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