5万打記念企画 No.056


「曲。」
「なんだか久しぶりだね。立海に来てからは初めてじゃないかい?」
「うん!どんなのが良いすか!」

千百合は中庭で、花壇に水やりする幸村を手伝っていた。
話をしつつも手は止めない。手を止めるほどの事じゃないと思っている。

「別に任せる。」
「千百合っちいっつもそれじゃんかー!」
「だって別に希望とかないし。実際、出来たもんに文句言った事ないでしょ私。」
「そーだけどー!むー・・・じゃあ先にゆっきー!ゆっきーどーお?」
「俺も何でも良いけれど。大抵の希望はもう叶えられてるしね。」
「やはり、もうお前達の曲は相当数あるのだな。」
「うん。ちゃんと数えてないけど、10はあるんじゃないかな。」

それだけあればもう十分な気もするが、どれだけあっても良いというのが紀伊梨の思考。

「えー・・・何か言ってよ何かー!」
「あはは!ううん・・・そうだなあ、じゃあ・・・何か、夏を感じられる曲が良いかな。」
「夏!おー、夏・・・どういう夏にしよっかなー!」
「夏にどういうとかあるわけ。」
「あるよー!明るい感じでも良いけどー、ちょっときゅっとなる感じの静かめな感じも良いよねー!」
「へえ。紀伊梨ってそういうのの違いわかるんだ。」
「むー!しつれーな!分かるよそのくらいわー!」

とは言いつつどうしよーかなーとも紀伊梨は考え始めた。

幼馴染達には何度も曲を作っているけど、それ以上に季節ネタは何度も作っている。
どうせ作るなら今までやった事ないテイストでやりたいという気持ちもあるが、幸村っぽい曲で夏のイメージでとなると結局絞られてきてしまう。

しかし、夏のイメージという枷を外してもさして解決にはならない。
結局幸村っぽい曲はもう出尽くしたというのが根本的な原因なので。

さっき紫希の曲は丸井に意見を伺うことで面白い曲を考え付けたが。

「・・・千百合っちー。」
「あん?」
「何かこー、千百合っち的にゆっきーっぽい曲って「知らない。分からない。私そういうの色々思いつくタイプじゃない。」うー!」

そう。
それはもうやった事あるのだ。
おまけに千百合はこういった芸術方面の事・・・0から1を生み出すようなクリエイティブな方向の事は結構不得手である。

後単純に恥ずかしい。自分の中の幸村像を人に向かってぺらぺらプレゼンするという行為が。

「じゃーゆっきー!ゆっきー、千百合っちの曲何か!何か無いっすか!」
「ううん、俺はどっちかというと人から千百合へのイメージを聞きたいからね。色んな意味で、何も知らずに楽しみにしていたいんだけど。」
「うもーーーー!」

幸村にとっては、千百合の曲というのはファッションショーみたいなものになりつつあった。
こういうのが良いなと希望を伝える段階は昔にもう通り越し、今はどんな服着て出てくるかを待つようになった。どんな服でも千百合が素敵なのには変わりないから、どう素敵になるのかを楽しみにしていたい気持ち。

「んがぐぐぐぐ・・・」
「ここで苦戦するとは意外だったな。」
「もう全員分回ったのかい?」
「ああ、凡そはな。後は兄の方の黒崎で最後だ。」
「へー。他の奴らのメモってる?見せて。」
「ちょっとー!千百合っちは自分のとかゆっきーのをさー!うぬぬぬぬ・・・お?」

紀伊梨はふと目の前の光景に意識を奪われた。

そもそも幸村と千百合は花に水やりしているのである。
こうして会話していても基本的に手は作業を続けていて、持っているじょうろからシャアア・・・と水が出ている。

2人分のじょうろから出る水の線は、持ち主の手元が動く方に忠実に動く。
止まっていると同じように止まり、移動されると軌跡が描かれてそっちに行く。

「・・・・そーだそれしよ!」
「「え?」」
「うんうん、おしゃおしゃ!それで行こうそれで!けてーい!」
「え、何。どうするつもり。」
「あのねー、ゆっきーのは夏っぽいすかっとした感じにするっしょ?」
「うん。」
「んで、千百合っちのはちょっと静かな感じにするっしょ?」
「はあ。」

「で!二個重ねて綺麗に聞こえるよーにもしとくの!」

重なった水の軌跡を見て閃いた。
そうだ、これはやった事なかった。
面白そう。いや絶対面白い。

ぱああと顔を輝かせている紀伊梨だが、千百合は勿論言いたいことでいっぱいである。

「ちょっと、」
「待て。」
「なんで「あんたが止めるのよとお前は言う。しかし、俺はお前を止めて居るというより、ここで止められるのは五十嵐が気の毒だと言いたいんだ。」
「なんで!」
「何故も何も、何でも良いと最初に言ったのはお前だ。任せたと言っておいて舵を切ったらやっぱりそれはなしと言い出されたら、幾ら何でも気の毒だろう。」
「・・・・・・・」

わかる。
それはわかる、いかな千百合でも。
でもまさか、こっちの方向に話が転がっていくと思わなくてだな。

「千百合、俺からもお願い出来ないかな。」
「・・・何を?」
「俺は凄く楽しみなんだ。そういう曲を書いてもらった事はなかったから。思いつきもしなかったしね。」

幸村はこの提案にうきうきである。
自分の曲と千百合の曲と重ねられるようにしておいてくれるなんて、ちょっと聞いただけでも嬉しくてわくわくしている。

が、反面こういうのを可愛い恋人が苦手としているのも知っている。
そして、その恋人が嫌だと思っているのを推し進めるのもまた本意ではない。

ただ、千百合がどの程度嫌がっているのかはこの場合割と微妙な所だと幸村は踏んでいた。
ちょっとした成り行きで是にも否にも転ぶくらいの五分五分さだろう。その上で自分はとても良いと思ってます、と言うのは振れている天秤を突くような賭けだけど。

「しかし幸村。」
「うん?」
「黒崎には気の毒だが、この場合あまり交渉の余地はない。五十嵐はやると言ったらそれで進めてしまーー「させない。」・・・・・」
「五十嵐は確かにやると言ったらやるけれど、俺もさせないと言ったら絶対にさせない。何が何でもね。」
「・・・そうだったな。」

忘れていた。
紀伊梨以上にこの男はやると言ったら必ずそうするのだ。

そして不思議な事に、人間というのは押されると反発するし引かれると追いたくなる。
幸村がこうして是も否もなく絶対に自分を守ると言ってくれると、千百合も不思議と受け入れる方向に心理的に振れていく。

「・・・あんまりポップな感じはやめて。」
「え、なんでー?良いけど。」
「何か、出来上がりが怖いから。」
「???ポップスの何が怖いのー?」
「ポップスで良いけど、可愛さ特化型にしないで良いからって言ってんの。」
「へいほー。」

千百合には嬉しい事に、紀伊梨も今回はそういうのは避けようと思っていた。
ガンガンメモを進める紀伊梨を、千百合は水やりに戻りつつちらちらと見てしまう。

「ばらしても聞けるようにしてくれるんだろう?」
「うん!纏める時は重ねとこーかなーと思ってるけど!5分ちょいだしー、あーんま時間ないよねー・・・っと!」
((ん、))

今、5分ちょいと言った。
5分ちょいというと、大体平均的なJpop1曲分の長さ。

「待って。」
「んお?」
「纏めるって、私の曲と精市の曲をちゃんと纏める時って事?」
「それもだけど、他の皆の奴も入れるお!」

千百合はやっと紀伊梨のやりたい事が分かった。
最終的には、一曲にしたいのだ。人数分を。

「よっしゃー!後はなっちんに聞いたらOKかなー!じゃーね千百合っち!ゆっきー!」

そう言って手を振る紀伊梨の背を2人は見送る。

「・・・10人分を越す数の曲を1つにする気なのかな。」
「どうするんだろ。」
「メドレー形式じゃないかい?そうはいってもせわしなくはなるだろうけど。」
「歌詞つかないと思うしね。ごった煮になるんじゃない。」
「「・・・・・」」

いや、紀伊梨の性格上ソロ曲もちゃんと作った上で纏めたverを作るのだと分かっているけど。
それにしてもどうなるのか想像がつかなくて、2人はちょっと無言になった。

5/6


[*prev] [next#]

[page select]

[しおり一覧]


番外編Topへ
TOPへ