5万打記念企画 No.057



「それで未だに食べられないワケ?」
「うん・・・」

昼休みになってもクッキーはそのままだった。
封すら開けられていない。

「食べたら良いじゃん、セッカクくれたのにさー!」
「だ、だってっ!食べるとなくなっちゃうしっ!」
「まあ消え物だもんね〜。得体が知れないと食べにくいよね〜。」
「得体がしれないって・・・まあ確かに、後から返してって言われても、食べたら返せないもんね。」

そうなのだ。
可憐はどうしても、これは本当に食べていいものなのか?という疑念が付きまとって、どうも開ける気になれない。

もう直接聞いちゃおうかな、と可憐が思い始めた丁度その時、教室を滝が訪ねてきた。

「桐生さん、お疲れ様。」
「あっ、滝君お疲れ様っ!今日のデータかなっ?」
「うん、そう。ごめんね、遅くなっちゃって。それから重ねて申し訳ないんだけど、桐生さんに頼みたい事が・・・あれっ?」
「えっ?」
「そのクッキー可愛いね。桐生さんが作ったの?凄いねー。」
「あっ、ううんっ!これは今朝家庭科室で、」
「今朝の家庭科室?って事は、あのジンクスかな?」
「え?」
「ん?」

会話に入ってなかった伊丹達が、顔をあからさまに滝の方に向けた。
これは新情報。

「・・・ジンクスってなあにっ?」
「あれ、知らなかった?最近噂になってるんだけどうちの家庭科室のどれかで、誰にも居ると知られずに一時間過ごして、ぴったり一時間後に外に出られたら、コンプレックスが解消出来るんだよ。」

家庭科室のどれか・・・氷帝には今家庭科室が4つあるわけだが、そのうちのおそらく何処でも良いので何処か。
で、誰にも所在を知られずに1時間過ごす。
更に、1時間経ったら教室の外へ出る。

と、コンプレックスが解消出来る。

「「「「・・・・・」」」」
「でも、ただ1時間ぼーっとしてるのって暇でしょ?だから結構中で色々作って時間潰してる人も多いみたいで。一度出たら戻っちゃいけないってわけじゃないしね。皆頑張るよねー。」
「・・・滝君。」
「ん?」
「誰にも知られずにって何処から何処までかな・・・」
「え?どこからって・・・何処からも何も、家庭科室に入ってから出るまでだと思うけど?」
「出るって、何処から出た事になると思う・・・?」
「ええ?細かいねー、ううん・・・厳密に言うならやっぱり、両足が家庭科室から出きった時?じゃないかな。」
「可憐・・・」
「うん・・・」

そうだった。
忍足は出ようとしていた。
出ようとしていた所を、可憐が前を通りがかったもんだから引っ込んだのだ。
可憐が居なければ、忍足はあの時家庭科室から出た状態だっただろう。

どうしよう。
合わせようと頑張っていた辻褄がこんな形で合うなんて。

「あ、謝んなきゃ・・・」
「え?」
「私謝んないとっ!私のせいでごめんねって、」

気のせいの可能性もあると思い伊丹達には言わなかったが、あの忍足の「出来ないものだな」という言葉。
あれは何だったんだろうと思っていたが、滝の話を踏まえると筋が通る。

ジンクスだ。
最後の家庭科室から出るというステップをして、完遂できなかったなあというぼやきだったのだとすると、これ以上ないくらい辻褄が合う。合わせようと頑張る必要も無い程。

「わ、私行ってくるっ!」
「いや、マッタマッタ!ちょっとストップ!」
「可憐、ちょっと落ち着きなって!」
「落ち着いてなんかいられないよっ!だって私のせいで、」
「でもさ〜、ぶっちゃけ謝られた所で取り返しはつかないんだし〜?」

榎本の言葉はぐっさりと突き刺さった。

確かに。
これ以上ないくらいえげつなく、かつ現実的な意見である。

「い、いや・・・それもダイジョウブだって!ほら、今度は協力してあげれば、」
「『誰にも知られない』が条件でしょ?」
「あ・・・・」
「協力とか言ってる時点でバレバレもバレバレって感じ〜?っていうか、こうなると寧ろ謝るのもびみょ〜だよね〜。貴方のコンプ解消の邪魔してごめんなさいとか、言われる方が惨めじゃ〜ん?」
「朝香、朝香ソノ辺で・・・!」
「可憐・・・」
「・・・・・・・」

確かにそうだと思う。
自分なら例えジンクスが上手くいかなくても、謝られたいかと言われると気が進まない。
コンプレックスを持ってるなんて人に知られたくないし、それをジンクス使う程度に気にしているとは猶更知られたくない。プライドが傷つく。

「じゃ、ジャア友達と喧嘩がどうのっていうのは・・・」
「何かその喧嘩絡みでコンプ刺激されちゃったとかじゃない〜?それでそうと言いたくなくて胡麻化したとか〜。」
「・・・確かに言いそう。嘘は言ってないよ嘘は、みたいな言い回しするタイプだと思うし。」
「・・・・・・・」
「で、でもさ!マダ他の可能性0になったわけじゃ、」
「え〜、他に何か通る説明ある〜?」
「それもそうだけど・・・・」

「・・・何か、悪いこと言っちゃったかな?」

滝の呟きは小さすぎて誰の耳にも届かなかった。

何の気なしに振った話だったのだが、まさかこんな変な空気になるなんて。
さりとてごめんねと謝るのも何か違う気がするし。

「・・・あの、俺お邪魔みたいだからもう行くね?」
「ああうん・・・・って、あっ!滝君ごめんっ、頼みたいことっていうのは、」
「ああ、大した事じゃないんだけどねー。これ。」

そう言って滝は、文庫本を差し出した。
タイトルに「君と見る三日月」と書いてある。

「忍足に返しておいて欲しいんだ。俺、今日家の用事で部活休んじゃうから、会えないんだよねー。どう?頼めるかな?」
「あ、う、うん・・・大丈夫・・・」
「・・・本当に大丈夫?」
「うん・・・」

(((あーあ・・・)))

今忍足のためにこそ滝の前で忍足の名前を出せなかったが、それすらも裏目に出る始末。
可憐は泣きそうになった。
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