5万打記念企画 No.058
次の日の昼休み。
紀伊梨は真田に呼ばれて、家庭科室に居た。
「・・・ねー真田っちさんや。」
「何だ。」
「あのさー、そこに椅子があるのに、どーして紀伊梨ちゃん床に座んなきゃいけにゃいの?」
「座布団はあるだろう、文句を言うな!」
「あるけどさー!」
そう、紀伊梨は何故か家庭科室の奥の方にある床のスペースに、真田が持参した座布団を敷いてそこに座らされていた。
向かいにもう一つお座布。多分真田の分。
「それから正座をしておけ。」
「ほいふー。」
「む?・・・正座に抵抗はないのか。意外だな。」
「あー、正座嫌がる人居るよねー。紀伊梨ちゃんも好きじゃないけど、出来ないわけじゃないかんね!」
「ほう。感心な事だ、見直してやろう。」
「真田っちも正座得意ー?」
「無論だ。」
此処で若干、ほんの僅かではあるが得意げな響きが混じるのが真田の中1っぽい可愛げである。紀伊梨は気づかないが。
「そもそも、正座は正しい姿勢を保っていれば、そうそう足が痺れるなどという事はない。立てないだの保たないだのというのは、きちんとした姿勢で座れていないからだ。」
「あー!それそれ、それゆっきーも言ってたー!」
「従って、誰であっても正座というのは・・・む。そろそろか。」
「ねー、さっきから真田っち何やってるのー?」
さっきから紀伊梨はずっと床の座布団に座っているが、真田はコンロを点けたりなんやりして、何かしている。
何か。何してるのかは、低い目線のせいでついた角度のおかげでほぼ見えないが。
「待て!もう幾らもかからず・・・よし。これで良いだろう。座っていろ、持っていく。」
「お?何々?・・・え?」
「烏龍茶だ。」
真田は「烏龍茶っぽい」とは何か?というあやふやなテーマを大真面目に考えた結果、何はさておき先ずちゃんと飲もうという所に結論が落ち着いたのだった。
「おー・・・ねー、これ机で飲んじゃダメなのー?」
「欧米の茶ではないのだからして、机を使って飲むのは道理に合わんだろう。本来は膳があれば尚良いのかも知らんが、まあ床の方が趣旨に近い事は間違いない。」
「へー!」
ここで。
幸村だったら、まあ学校で作れる雰囲気なんてたかがしれてるのだし、お茶そのものがちゃんと出来てるんだったらその他はまあまあ、無理せず。そう思って、机と椅子で飲むだろう。
柳だったらその逆。徹底しようと思えば出来るし、持ち前の頭の回転を使って生徒会への言い訳も軽やかに思いつくので、もっと色々探して持ってくるだろう。膳と毛氈くらいは平気な顔で用意する。
そこへ行くと真田はある意味一番生真面目ゆえに中途半端というか、学校でやって良いことの限界を見極めてそれに従いながら最大限寄せていくため、こうしてなんだか微妙な光景を生んでしまうのだった。
家庭科室に座布団しいて淹れたて烏龍茶を飲むなんて、こんな事でもなければ一生しないに違いなかった。
「これって烏龍茶ー?」
「ああ、家にあるものを持ってきた。」
「ふーん・・・あち!」
「焦って飲むな!というよりもだな、そもそもお前は茶の飲み方が分かっとらん!」
「えー!?っていうか飲み方って何さー!」
「そのままの話だ!お前に向かって作法を知っておけとまでは言わんが、元々茶というものは一気に飲み干すようなものではないのだ!もっと少しづつ味わって、余裕のある態度で飲まんか!」
「えー!」
「お前が烏龍茶らしさなどと言い出したのだろう!」
「むー!そうだけどー!」
ゆっくり飲むのが烏龍茶らしいのか。
そうか。そうか?
お茶というと大体ペットボトルのお茶とか、冷蔵庫に常備されている水出し麦茶しか馴染みがない紀伊梨は、いまいちピンとこない。
ああでも。
確かに幸村や紫希は、紅茶をゆっくり飲んでいるっけ。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・う、く。」
「よし。」
自分なりに大分ゆっくり一口飲んでみたが、成程。こうか。
「どお?どお?今の烏龍茶っぽかった?」
「・・・予想していたより、そうと感じられんな。」
「えー!」
「騒ぐな!事実なのだ、仕方がないだろう!どう言うか・・・茶を飲んでいるという空気には近くなったが、殊更烏龍茶を感じられるかというと疑問という事だ。」
「えー!うーん、でもどーすれば良いのさー!」
「むむむ・・・・」
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