5万打記念企画 No.058
そして放課後。
部活がミーティングのみであっさり終わった真田と補習でちょっと残っていた紀伊梨は、2人で合流して音楽室へ向かっていた。
紀伊梨が最初真田に相談に来た際、本当は紫希にも同時に相談しようと思っていた。
というか、紀伊梨の周りで一番お茶に詳しいのは紫希なのだ。本人が詳しいというより、母親がお茶屋でパートしているから一番ブレインに近い。
けれど昼に会えなかったので、これから音楽室で会った時に話をしてみようと思っていた。
のだが。
「ねーわ。いやねーわ絶対に嫌だわそんなん。」
「いーや!ぜってー美味いっていう、特にお前みたいな辛党は!」
「む?何だあいつらは。」
「あ、千百合っちー!ブンブーン・・・って、およ?」
あれか。この空気はもしかして。
「喧嘩ちう?」
「ああ紀伊梨。いや、そこまででもないけどさ。」
「何を騒いでいるのだ。廊下だぞ。」
「こいつが分からずやなんだよ。」
「あんたの舌が変。」
「おかしくねえよ!」
「えー、何々ー?何がそんなにおかしいのー?」
「おい、目的を見失うな!おいお前達、春日を見なかったか。そもそも彼奴に聞きたいことがあって来たのだ。」
「紫希日直の仕事長引いて、今職員室。」
「ま、もうすぐ帰ってくるんじゃねえ?」
「そういえばあんたは何で此処に居んのよ。」
「え?時間空いたし今日ジャッカル忙しいから、暇だったらカフェ行こうかと思って。」
「一人で行け。紫希の舌までおかしくすんな。」
「しねえよ!」
「ただいま戻りまし・・・皆?」
「あー!紫希ぴょんだー!」
日直から戻ってきた紫希は目を丸くした。
教室を後にしたときは千百合だけだったのに、今3人増えている。
「お疲れ様です、皆・・・」
「ああ。春日、実は聞きたいことがーーー」
「ちょっと待って、こっちが先。」
「え?は、はい、何ですか、」
「なあ!チャイに胡椒って入れるよな?」
真田と紀伊梨さえも予想しえなかった単語に一瞬ぎょっとした。
チャイ、が何なのかあまり明るくないけど、紅茶の類なのはわかる。
それに胡椒って。
あからさまに嫌そうな顔の千百合に対して、紫希は目をパチクリさせた。
「・・・ああ!胡椒、美味しいですよね。」
「お!よっしゃ、わかってんじゃん♪」
「「ええええ!?」」
「なんだと・・・胡椒をかけるのか!紅茶だろう、チャイというのは・・・」
「あ、あの、そんなに沢山はかけないですよ!所謂塩胡椒でもないですし・・・あの、ミルのブラックペッパーをちょっぴりガリガリってするんです。」
「ほえー!それ美味しいのー?」
「美味いって、やってみろい。」
「信じらんない・・・」
「チャイは、元々インドの紅茶ですから。インドは香辛料が有名ですよね?原産地が同じですから、元々お互い親和性が高いんだと思います。」
「はあ・・・・」
「え!ねーねー、チャイってインドのお茶なの?」
「はい、そうですよ。」
「えー!紀伊梨ちゃん中国のお茶だと思ってたー!」
「お前まさか、チャイナだからチャイとか思ってねえよな?」
「思ってた!」
「たわけが・・・」
「え、真田っちも知ってたの!?嘘だー、知らなかったよー!」
「知らなかったとしてもそういう発想にはならん!」
「ま、まあまあ・・・」
「えー、でもさでもさー!じゃあ紀伊梨ちゃん、烏龍茶って日本のお茶だと思ってたけど違うのー?」
「あ、違います。」
「違うの!?」
「当たり前だろう!」
「いや、そこは烏龍っていう言葉の時点で分かれよ。」
「めちゃめちゃ中国茶だよなー。」
「えー、でも中国とか遠いじゃーん!困るじゃーん!」
「「何が?」」
話の成り行きを一切知らない千百合と丸井は、烏龍茶が中国茶だとなぜ困るのかさっぱりわからない。
「今紀伊梨ちゃんは!烏龍茶っぽくなろーとしているのです!」
「そこからしてもうわけわかんねえよ。」
「将来の夢は?って聞かれて新幹線って答えてる幼児みたい。」
「幼児に失礼だっての。」
「あ、ごめん。」
「ちょっとー!そんなに馬鹿にしなくても良いじゃんかー!」
「まあまあ・・・」
「正確に話さんからだ!実は、烏龍茶が似合う人間になるにはどうすれば良いかという事について相談に乗っていてな。」
「烏龍茶が似合う・・・ですか?」
「烏龍茶に向かって、似合うとか似合わないとかなくない。」
「さっちゃんとミッキーがさー!紀伊梨って烏龍茶のCM似合わなさそーって・・・」
「そっちか。」
「あー、分かる気もする。」
「ううん・・・ですけど、お茶が似合うという事と烏龍茶が似合う事では、結構ハードルの高さが違う気が・・・」
「そうだ。烏龍茶らしさ、ということについてどう考えるべきか、意見を聞きたい。」
(良くこんなあほな問答に付き合うわ。)
(こういうとこ、真田も大概面倒見良いよな。)
それこそ適当にいなせば良いのに・・・とか千百合辺りは思うが、適当にいなすなどという言葉は真田の辞書にはない。
「烏龍茶らしさ・・・」
「ねーねー、何かないかなー!」
「そうですね・・・烏龍茶は中国茶ですから、こう、あちらの作法を調べたりとか・・・」
「あ。」
「「「「え?」」」」
千百合はふと思い立ち、スマホを手に取った。
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