5万打記念企画 No.065
LINEで幸村から「昼休みに時間が欲しい」という一報が、スケジュールとと共に千百合のスマホに入った。
なので千百合が言われた通り中庭に行くと、幸村はいつになく神妙な面持ちで座って待っていた。これも珍しい。大抵微笑みながら本でも読んで待っているのに。
「お疲れ。」
「ああ、お疲れ様。ごめんね、急に呼び出してしまって。」
「良いけど。」
それは良いけど、幸村が急に人を呼んだりする時は必ず理由がある。
それを早く聞かせてほしい。
「というか、何その箱。」
「ああいや、これも関係あるんだけどね。実はその、千百合に折り入って頼みがあって。」
「え、珍しい。何。」
「・・・・実は、
絵のモデルになってほしいんだ。ダメかな。」
「鏡面。」
「そう、まだ描いた事がなくって。いつか本腰を入れて描いてみたいと思ってたんだけど、今までタイミングが難しくてね。」
幸村が好きなもの。
テニス。
千百合。
お花。
この辺は有名だが、実はこの男、美術もこれらと同じくらい好きである。
だから部屋にはキャンバス保存スペースがあるし、趣味で絵を描いてるのも知っている。というか、幼馴染組は皆見たことがあるし、描いてるのを覗き込むような事も度々あった。
もう夏に差し掛かり、中学にも馴染んできたし、今までやりたかったけど手が回らなかった事ーーー即ち美術の趣味も、そろそろ手をつけようかと幸村は先日から考えていた。
そして最初に幸村が描きたいと思ったのが、描きたい描きたいと思いつつ、小学校で手が付けられなかったテーマ。それが鏡面体であった。
「でも描くの難しいんじゃないの。」
「難しいよ。だから最初から、中学に上がったらにしようって決めていたんだ。」
並んで弁当をつつきながらそう話す幸村は、とっても良い笑顔。
すんごく楽しそう。鼻歌でも歌いだしそうな勢い。
「・・・で?」
「ああ、そうそう。それでね、鏡面と言っても色々モデルがあるだろう?だから何をどうしようかってずっと悩んでたんだけど、それが今朝一気に解決して。」
「・・・それが私。」
「そう。」
元々鏡面の対象として、幸村はフルートを内心で候補の一つに挙げてはいた。
でも他にも候補はあったし、いずれにしても何か決め手にかけるなあ・・・と思って決めあぐねていた。
そこで今朝、フルートを鳴らしている千百合を見たのである。
「もうこれしかないと思ったよ。ピンとくるっていう感覚は何事にも偶にあるけど、こんなに強く感じるのも久しぶりだったし。」
「・・・そう?」
「そう。もう描きたくて描きたくて堪らなくって。でも千百合はこういうのに興味がないし、モデルとかがそんなに好きじゃない事も知っているからね。丁重に頼むために落ち着かないといけないと思って、朝は止めたんだよ。」
「ああ、何か紫希が言ってた。待ってたのに土壇場で帰ったとか。」
「そうなんだ。ふふ、恥ずかしいけどもう浮かれちゃってさ。上手く頼む自信がなくて。」
幸村がここまで浮ついているのも珍しい・・・と思う人も世の中沢山居るだろうが、実は千百合にはそこそこまれにみる光景である。特にデートで展覧会に付き合う時なんか。
それでも今一段と嬉しそうなのは、やっぱりあれだろうか。
「じゃあ、これから暫くの間よろしくね。」
「・・・・ん。」
こんな嬉しそうな幸村に向かってNOと言えず、引き受けちゃったからだろうか。
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