5万打記念企画 No.065


「千百合っち、モデルのお仕事どおすか!どおすか!」
「ぶっちゃけて良い?」
「およ?」
「すげえ疲れる。」
「あ、あはは・・・じっとしてるのって、疲れますよね。」
「わっかるー!紀伊梨ちゃんもじっとしてるの苦手ー!」
「お前は授業中でもじっとしてらんないくらいだろw」

中休み、千百合は中庭の木陰でベンチに座りながら、ぐったりうなだれていた。

「だって退屈なんだもーん!千百合っちも退屈じゃないのー?」
「いや、退屈はしない。実は意外と。」
「そうなんですか?」
「私も最初は暇だろうなって思ってたんだけどさ。」

ところがどっこい、なかなかこれが暇じゃないのだ。
忙しいとかそういう意味ではなくて、目の前にあるキャンバスから幸村が時々顔を覗かせるのが暇じゃない原因。
基本幸村は千百合に対して厳しい顔を向けないが、モデルとして千百合を見る時はすごく真剣な目をしている。
うん・・・とか小さく聞こえてくると、ああ今上手い事いってるのかなあと思う。
厳しい目つきで何度も見てきたり、ふうとため息が聞こえてきたりすると、ああ何か思い通りいってないんだなと思う。
それがなんというか、面白い。笑えるとかそういう意味じゃなくて、自分の恋人はこういう顔もするんだなあみたいな新鮮な驚きがある。
だから思ったより耐えれてる、というのが千百合の今の時点での感想だった。

「で、その絵とやらは何時出来るんすかw」
「出来たとしてお前には見せない。」
「ひでえw」
「でも、そんなすぐには出来ないんじゃないでしょうか?幸村君自身、そんなに絵ばっかりに時間を割いてもいられませんし・・・」
「まあちょっとづつではある。秋くらいなんじゃない。」
「えー!秋まで待つのー!もっと早く出来ないかなー!早く見たいなー!」
「まあ、私も疲労っていう意味では早めの方が楽ではあるけどさ。」





うん、そう言ったね。
確かに言ったよ、早い方が楽だって。
疲れるとも言った、それは事実だ。全面的に認めるし、否定もしない。

けど。
でも。
だけど。

「・・・・・」
「そうです千百合ちゃん、今日の小テストなんですけど・・・千百合ちゃん?」

「およ?およ?どったの千百合っちー!」
「何どうしたのw固まっちゃって・・・おお?おお・・・」

次の日の朝の靴箱。
千百合の上履きの上に鎮座する一枚の手紙。

見るからに女子が書いたのであろう、ハリネズミがそこかしこにポイントになっている可愛らしい手紙。女子から女子へのラブレター、なんて可能性はあるにはあるかもしれないが、やっぱり極めて低いと言わざるを得ず。

「・・・・・」
「なんてー?」
「あの、悪い事ならあんまり気になさらない方が・・・」
「・・・モデル止めろってさ。」
「あ、そっちw」

拝啓、から始まる、内容にそぐわず丁寧な文章でしたためられていたのは、千百合のモデルに関する事だった。
誰かは知らないが、これを書いた女子はどうやら先日中庭に居たらしい。そして千百合の疲れた発言を聞いたのだ。

そうやって愚痴言うくらいなら代わります。
私ならいつまででも付き合えます。
疲れたんでしょう?どうぞどうぞお休み下さい。私に任せて。
どうしてこんなにやる気のある私が選ばれなくて、疲れた疲れたばっかり言ってる貴方がモデルになるんでしょうね。

まあ要約すると、ざっとこんな所。

まあ千百合とてこの手の手紙は初めてではないけど、実は中学になってからは初回だった。
此処しばらく貰ってなかったし、それに。

ぶっちゃけちょっと、痛いところを突かれたと一瞬、今思った。

疲れたって言ったのは事実だし。
誰にも譲りたくないくせに不満を漏らすって、確かに都合が良いのかもしれない・・・とか珍しく考え込んでしまう千百合の耳に、紀伊梨のあー、という何か呑気な声が聞こえてきた。

「駄目なんだよにー。何かちょーっと分かる気もするけどー。駄目なものは駄目なんですよー。」
「そうなんですよね、お気の毒ですけど・・・」
「まあ幸村は此奴が疲れた辞めたいって言ったら引くだろうからw目の付け所としてはーーー」

「「そうじゃなくて。」」

珍しく紫希と紀伊梨がハモった。

「・・・え、何。どういう事。」
「ゆっきーはさー、千百合っちにモデルを頼んでるわけじゃん?だから頼まれてない人にモデルは出来ないよ!」
「いやだからそこがミソでさ、要は此奴の口からこの人を代わりにしてって言えば、」
「代わりにはしないと思います。中断になるだけですよ。」
「いやまあ・・・・精市ならそうするだろうけど」
「「だからそうじゃなくて!」」
「「何、どういう事?」」

ハモッた会話が朝の下足箱に響く。


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