5周年記念企画:First date


「はあ・・・・」

切原は、ベンチで横になりながら紀伊梨を待っていた。
部活無いと思っていたら、とんだ運動をする羽目になった。

まあ楽しかったけど。

(何か想像と違うよなー。アイドルって皆ああなわけ?五十嵐さんが特別?)

その答えは永遠に出ないだろうと思われた。
比べられるほどアイドルと関わる機会なんてないだろう。

そもそも、今こうして関わってるのだってー−−

「・・・・・・!?」

がば!と切原は体を起こした。

そうだった。
忘れてた。

自分は、楽しいと思ってはいけない。
もっと一緒に居たいなんて、思っちゃいけないのだ。

そんなことを思わないから、こうして相手に選ばれているんだから。

なんという矛盾。

(・・・え、待て待て待てよ!とりあえず、今デート止めようって言われてないって事は、まだ俺が楽しいと思ってることがバレてないからで、続けるんだったら俺はつまんなそうにしてないといけないわけでー−−え、合ってるかあ?何かこんがらがってきー−−)

「切原君!」

紀伊梨の声に肩をびくつかせて、切原は振り向いた。

「はい!あ、ジュースサン、キュ・・・・」

切原は言葉を途切らせた。

紀伊梨の表情がおかしい。

「え?どうしたんすか?」
「・・・ジュース。」
「あ、どうも・・・じゃなくて!一体どうしたん、」


「・・・あのね!デート、お終いにしよっか!」


切原はもらったばっかりのアクエリを落とした。

「・・・・え、」
「ごめんね!いやー、すっかり忘れてて!」
「・・・何を?仕事があったとかって話っすか?」
「ううん。切原君が楽しくないの、すっかり忘れてたの!」
「・・・・は??」
「切原君、私に興味ないもんね!でもずっと付き合ってくれてたもんね、ごめんね・・・」

紀伊梨の予定では、もうあと少しだけ一緒に居るつもりだった。
別れ際は連絡先の交換もしようと思っていた。
遊園地のチケットだって、別にどうしても使わないといけないというわけじゃない。あれは小道具で、本題はデートだから。

でも、切原はそもそも五十嵐紀伊梨に興味がない事を思い出したら、急速にデートを続けるのが辛くなった。

紀伊梨はある意味、今とても目的を全うしていた。
素敵な人だなと思ってる相手から、どうでも良いと思われている心境がやっとわかった。

今回の曲は止めにしようかとまで考えていた。
今だって辛いのに、思い出して何度も辛くなるような趣味は紀伊梨にはなかった。別にさして重要なものでもないと思っていた遊園地のチケットさえ、今は財布に入れておくのが嫌になりつつあった。

「これ!これもあげる!あのねー、つかおーと思ってたんだけど結局時間なくなっちゃったから・・・ほい!遊園地のチケット!2枚あるよ!誰かと行ってね!」
「・・・・・・・」
「はい、どーぞ!・・・・えーと、今日はありがとうね!ちょっとだけだったけど、紀伊梨ちゃんー−−」

「何すかそれ?」

冷えた声と真逆の、高い体温の切原の右手が紀伊梨の左手を捕まえた。

「えー−−」
「用事が終わったら、じゃあさよならバイバイってか!」
「ち、違うよ!そーじゃないけど、」
「それ以外何があるんだよ!!」

紀伊梨は怯えていた。

体を掴まれた状態で怒鳴られるのもそうだが、切原が好きだからこそその相手が猛烈に怒っているというのが怖かった。

「大体あんた勝手なんだよ!いきなり人のこと捕まえてデートだのなんだの、あげくに終わったらこんな場所でお別れって、俺のこと馬鹿にしてるだろ!」
「し、してないよ!そーじゃなくて、」
「俺の話聞けって言ってんだよ!俺はー−−俺・・・・あああああもう!もう良い!知るかもう!くそ!」

切原はもはや、何から怒れば良いのかわからなかった。

紀伊梨の心境を知らない切原は、人の意識を惹きつけておきながら無関心を強要する紀伊梨に腹が立って腹が立ってしょうがない。


何にも自分の自由にならない。


本当はもっと一緒に居たいし、いちいち心にもない冷たいことなんか言いたくない。転びそうになったら助けてあげたいし、同じものを楽しんで笑いたい。

何にも満足にさせてもらえなかったのに、私に興味ないよねと念押しされたあげくにごめんねありがとさようならだと。
いい加減にしろ。何がチケットだ馬鹿が。

「だってー−−」
「今から遊園地行くからな!」
「へ?」
「まだ後閉園まで1時間あんだろ!電車乗って、ちゃっちゃっと入って観覧車乗るんだよ!俺が決めたからな!もうさんざんあんたのわがまま聞いたんだから、今度は俺の番!ほら、急いで急いで!」
「あ、お、お、お!待って待ってー!」

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