100話記念企画 No.063


それから数日経った日。
千百合はミネラルを噛み砕き続け、なんだかんだ一日も欠かした事はなかった。

今日も学食に紫希と訪れて、その時に弁当と一緒にミネラルを持っていた。

「じゃあ私、買ってきます。すみませんお待たせしてしまって・・・」
「いや、良いよ別に。」
「有難うございます。先に食べておいて下さい。」

別に待つのに、と思いながら弁当を広げていると、真向かいに取ってある紫希の席の更に向こう側で、少し大きめの声が上がった。

「うわやばい!マジだマジマジ!」

(ん?)

目を向けると、2年のスリッパを履いた女子が何やら雑誌を囲んで盛り上がっていた。

「載ってる載ってるー!」
「きゃー、すごい!」
「やば!志穂、マジ美人じゃん!」

(ああ、雑誌に載ってんのかあの人が。)

輪の中心に居る、一際目を引く誰が見ても美人と分かる美人。
多分あの人が志穂さんとやらで、雑誌に掲載されている事で盛り上がっているのだろう。

ここまではふうん、としか思っていなかった。
別に自分に関係ないし、どうでも良いし。

その直後の一言さえ無ければ。


「志穂さあ、幸村君にアタックしないの?」


顔を左程上げないで、目だけが僅かに見開いた。

大仰に反応しないのは、千百合の長年の知恵。
オーバーに反応すればするほど、自分に自分が釣られて余計に考えがオーバーになる。

「そうだよ、しちゃったら?」
「ええ?うーん、でも幸村君はもう彼女居るって有名だし。」

志穂さんとやらの声は涼やかだった。
自分と全然違う、大人っぽい声。

「でも噂でしょ?」
「噂じゃないっぽいけどね。」
「どっちにしても別に良くない?黒崎さんだっけ、そんなに可愛い子だって噂は聞こえて来ないしさー。それと違って志穂は美人なのは間違いないんだし!」
「目には止まると思うよー。」
「そう?そうかなあ?」

そうかなじゃねえんだよ。
何人の恋人取る話で盛り上がってるんだ。

と、そういう思考が芽生えてくるのがもう嫌。
取るの取らないのの話じゃない、決めるのは幸村。

自分が決めることじゃない。
別に強制力があるわけでもないし。

「千百合ちゃん、ごめんなさいお待たせし・・・千百合ちゃん?」
「ねえ紫希。」
「はい?」
「ちょっと、黙って後ろ見てくんない。」
「?はい。」

紫希は自分の後方を振り返った。

2年の先輩だ。
皆大人っぽい。
そして凄い美人が中に一人。

「手始めにテニス部行ってみない?そんで話しかける!」
「そうそう、志穂いっつも出待ちはしてないじゃん。」
「ついね。幸村君、競争率高いから。」

「え、」

思わず声が出た、という風に呟く紫希。
これで大体の事はわかってくれるだろう。
この友人は察しが良いから。

「もうこっち向いて良いよ。」
「千百合ちゃん、」
「めっちゃ美人よね、あの人。」
「いえ、あの、」
「美人でしょ。」
「そ・・・そう、ですけど・・・」

ああ、今の自分嫌な奴。
紫希にそれを認めさせてどうするつもりなんだろう。

「私、飯は後にする。」
「え、」
「5限と6限の間に食べるから。屋上行きたい。」
「あ、なら私もーーー」

「おーい、紫希ぴょーん!千百合っちー!」

紀伊梨の大きい声に、周りに居た者がざっとこっちを見た。

その中には志穂さんとやらの視線もあった。

目が合った時が、千百合のその場での限界であった。
もう無理。
今この場に居たくありませんメーターが振り切れた感じがした。

「屋上行ってくる。」
「あ!あの、千百合ちゃん、」
「あれ?千百合っち、どこ行くの?千百合っちー!おーい!」

声が背中から追いかけてくるけれど、心の中でごめんねと謝りながら無視した。
後から説明しよう。
それを許してくれることに甘えてる自覚はあるけど、取りあえずこの場にもう居たくない。

ポケットがカサカサ言ってることに気づかないまま、千百合は食堂を後にした。


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