100話記念企画 No.063
「え?え?え?紫希ぴょん、千百合っちどーしたのー!?何か怒ってる!?紀伊梨ちゃん何かした!?」
「いえ、紀伊梨ちゃんが悪いわけじゃないです、ないですけど、何て言ったら良いか・・・」
紫希だって、推測がついてるだけで一部始終を把握してるわけじゃない。
多分こうなんだろうな、程度の事しか話せない。
どうしたものかな、何から言えば良いのか、それとも追いかけるのが先決か、なんて迷っていると、紫希が行動を起こすより先に向こうが動いた。
「うわ、やば・・・」
「え?何?」
「あの子が幸村君の彼女じゃん?多分。」
「え、マジで!聞かれてたかな。」
「いや聞いてたでしょ間違いなく。」
「え、どうしよどうしよ、幸村君にチクられるかな、」
(チクられ・・・)
チクるのチクらないの、こっちが悪いみたいな言い方はどうなんだ。
そもそも彼女持ちにアタックかけようとしていたのはそっちなのに。
「お?お?」
「ま、待ってください紀伊梨ちゃん、」
「なんでー?」
「あの人達に物申してもどうにもならないですよ、別に強制力が、あるわけ、じゃ・・・」
そう。
強制力なんて元々どこにもない。
なれば、次にしないといけない事は決まっている。
「じゃーゆっきーですな!えっとー、ゆっきーゆっきー、ゆっきーはどこに行ったかなー?」
「ちょ、ちょっと!」
LINEの画面を起動して、幸村の個人LINEを探し始める紀伊梨。
それを制止しようとあちら側の何人かが腰を浮かすが、紫希が間に入る。
「あ、あの、言いませんから、」
「嘘吐けよ!」
「今チクるためにそいつがLINE探してんじゃんか!」
「その為に探してるわけじゃないですから・・・!」
もし幸村にこんな事言ったとして、それが一体何になろう。
こんなの、氷山の一角でしかない。
ある意味ではこのグループは、自分達の事を特別視しているのだと思う。
こんなこと言ってたと知られて、幸村から特別嫌われたらどうしようとか思っているのだ。
とんでもない。
こんな事でいちいち敵視していたら、一体何人を相手に警戒しなければいけないのか見当もつかない。
同じような立場、同じような魂胆の者なんて山ほど居る。
この人達は若干他より口が滑りやすかっただけ、ただそれだけ。
そんな捌いても捌いても次々出てくるような存在に、いちいちかかずらっていられない。
それよりも、千百合のフォローの方が先決だ。
これは紫希と紀伊梨の方が長年で得た経験の一つ。
「もー!うるちゃいなー、LINE出来ないじゃんかー!」
「うるさいのはそっちでしょ!」
「つーかそれをすんなって言ってんのに!」
「ちょっとスマホ貸してよ!」
「待って下さい、乱暴は止めて、」
「おい、どうした!」
ざわつき出していた空気を裂いて通ってくる声。
教師よりも恐ろしい声である。
「真田君!」
「あー、真田っちだー!」
(真田・・・)
(真田だ・・・)
真田が曲がったことを許せない人間なのは、テニス部の事を知っていたら自然に耳に入ってくることである。
況や、幸村のファンをや。
大体今の立海で幸村の事を知ったら、芋づる式に真田や柳やビードロズの事までなんとなくわかるようにはなる。
分が悪い事を良く知っている2年生たちは、俄かに悪くなった形勢に縮こまり始めた。
「五十嵐、お前が騒いでいたのか?」
「違うよー!紀伊梨ちゃん、ゆっきーにLINEしたかっただけだもーん!そしたら、そこのおねーさん達が何かチクるなとかスマホ貸せとかさー!」
「そうなのか、春日。」
「ええと・・・はい。あの、なんというか勘違いというか、」
「勘違いだと?」
「あの、私達別に告げ口みたいな事をするつもりはないんです、でもしないと言っても信じて貰えなくて・・・」
「?」
「ええと、その・・・」
何から言おう。
端から言わないと分かりづらいだろうが、端から言うと今度は千百合が嫌がるだろう。それはしたくないし。
「・・・先輩方。」
「!」
「は、はい!」
「こう言ってますが、そちらの言い分はどうなんですか。」
「いや、あの・・・」
「どうっていうか・・・」
何から言うにも、言えない事しか言ってない。
誰かこの状況から一度逃がしてくれないかな、なんて勝手なことを思い始めた時、紀伊梨のスマホからポン、という軽い音が。
「よしゃ!おけまる!」
「げ・・・」
「ほら、おねーさん達!」
「え?」
「紀伊梨ちゃん、別に何もおねーさん達の事言ってないっしょー?」
紀伊梨のLINEには、一言だけ。
ゆっきー、千百合っちのとこ行ってあげてよ。
以上、おしまい。
「「「「あ・・・」」」」
「ほらー!」
「あの、本当にこれ以上何も言いませんから・・・」
「ああ・・・」
「うん・・・」
(まあ、よく考えたらね・・・)
(別に、今言うのを止めたところでって感じ・・・)
仮に今紀伊梨のスマホを取り上げられたとしても、事の一切をこれから先ずっと隠しおおせるわけじゃない。
千百合達がその気になりさえすれば、いつかは絶対露呈する。
それに直ぐに思い至らない辺り、自分達も大分動揺していたことを今実感した。
「あの、じゃあ・・・」
「私達これで・・・」
「おい!」
「真田君、良いです、良いですから、」
「良くはない!」
「良いんです!良いんです、これで良いんです。先輩方、もう良いですからどうぞ行ってください。」
お許しが出たとばかりにそそくさと退散する2年生達。
真田は釈然としない顔でそれを見送った。
「おい、春日!」
「ごめんなさい!でもああする方が良いんです、後の事を考えたら・・・」
「・・・どういう事だ。」
「なんかねー、なっちんがそのほーが良いって!なんか、ざい・・・ざい?あくかん?が出てくるからってー。」
今追いつめて問い詰めて徹底的に責め立てると、相手が逆恨みしたり反撃してくる口実を与えてしまう。
そうするよりは甘めにジャッジしておいた方が、いつか仕返しされるかもというビクビク感で却って動きが大人しくなるだろう、というのが一同の軍師役である棗の考えだった。
別に人の事攻撃する趣味は持ち合わせてない。
ただ、今後邪魔しないでいてくれたらそれで良い。
そうしたら後は、あの神の子様がなんとかしてくれるだろうから。
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