100話記念企画 No.076



「よーし、よーし・・・可憐、ちょっと引っ張るよ・・・よっ!」
「うん、大丈夫っ!」
「この辺にも〜ちょっとピンが欲しいかな〜?」
「うし、オッケ!で?次は?」

宣言通り、昼休みにさささっと昼食を食べ終えてヘアアレンジされている可憐。

最も、可憐の場合は新しいヘアスタイルを習得したい内川と違って、普通のお遊びなのでめちゃくちゃ人にやって貰っているわけだが。

「あのう、皆っ?」
「「「ん?」」」
「私、鏡見ちゃいけないのっ?」
「それはダメ!」
「見ちゃったら面白くないじゃ〜ん?」
「暇なのはわかるけど、もうちょっと耐えてよ。」
「う、うーん?そうっ?」

どうも、見えない状態で髪を弄られているというのは何とも言えず落ち着かないのだが。
それに伊丹の言う通り暇だ。

せめて誰か話し相手居ないかな・・・なんて思っていると、丁度そのタイミングで廊下から知り合いの声がした。

「可憐ちゃん、居る?」

「あっ!忍足君、はいっ!私此処っ!」

普段なら立ってその場に向かうのだが、いかんせん今はそれが出来ない。
3人に髪をあれこれされている風景に、忍足はちょっと目を見開いた。

「・・・何やってるん?」
「あ、忍足君だ〜。」
「オーッス!」
「ごめん忍足君、もうちょい待って。」
「あ、あはは・・・あのっ、今ちょっと髪やって貰っててっ!」
「髪?」
「イメチェンですぜ、イメチェン〜。中学デビュ〜。」
「ほら、偶にはね?」
「ジョシには気分を変えたい時ってのがあんの!」
「そうなん。」

なんだか、わかるようなわからないような。
自分はそういう発想がないタイプなので、尚更。

「それでっ!ごめんね忍足君、用事は何っ?」
「いや、大した用やないねんけど。この前借りてたスコア、忘れへん内に返そう思うて。」
「あ、はーいっ!預かりますっ!」
「ねえ、忍足君?」
「?」
「時間あるんならさ、このまま可憐の話し相手になってやってくれない?」
「えっ!?」
「ほら〜、可憐も退屈そうにしてたじゃ〜ん?」
「そうそう、俯かれるとヤリニクイからスマホも見てほしくないし!」

そう、可憐は今スマホで暇つぶしすらも出来ないのだった。
3人に話しかけようにも、何やらヒートアップしているこの友人達は「ちょっと関係ない話は今後にして」的なオーラが段々出てきているし。

「でっ、でも忍足君忙しいんじゃっ!」
「俺はええで。」
「良いのっ!?」
「良かったね〜、可憐〜。」
「ラッキーじゃん、私らもなるべくちゃっちゃっと済ますからさ。」
「えええ、良いのかなあ・・・」
「まあまあ、ホンニンが良いって言ってるんだしさ!」
「誰の席か知らへんけど、借りるわ。」
「あ、そこ私の席だし大丈夫。」
「そうなん。」

なんて言って、可憐の真正面の伊丹の席に腰かける忍足。

「・・・・・」
「可憐ちゃん?」
「どしたの可憐?」
「何か喋ったら〜?」
「えっ!ああうん、そうなんだけどっ!」

(な・・・何か恥ずかしいっ!)

普段友達と話すときなんて自然な流れで会話してるのであって、こんな正面に座られてじっと見られながら話すことなんてあまりないから、なんだか気恥ずかしくて仕方がない。
喋れと言われても何を喋れば良いか。

「あ、あの・・・えー・・・あ!あのっ、私今どうなってるのっ?」
「どう言うて・・・そういうたら鏡は?あらへんの?」
「鏡は強制撤去で〜す。」
「ネタバレはゲンキンだからな!」
「ああ、そういう感じなん。ほんなら、俺も何がどうなってるとは言わへんでおくわ。」
「流石、話がわかるわ。」
「そんなっ!」

変じゃありませんように、なんて余計に気恥ずかしさが増して、ほんのちょっとだけ可憐は下を向いた。

「あ。」
「えっ?」
「可憐ちゃん、動かんで。」

忍足はおもむろに椅子から腰を浮かし、中腰になり。

ぐ、と距離を詰める。

「・・・!ち、」
「可憐、動かないで。」
「ジッとしてな。」

(近い・・・!)

何か自分の髪に手を加えてるのだろう。
それが目的なのはわかるけど、視線が外れていても正面からこうして至近距離に来られるとドキドキする。
身を引きたいのにこういう時に限って、動くなと4人もの人間から一斉に言われる始末。

(早く早く早く早く・・・・!)

頼むから早く終わって下さい。

実際時間ものの十数秒、体感時間にして十数分が漸く終わると、忍足の体はすっと離れてまた元の位置に収まった。

「よっしゃ・・・可憐ちゃん、どないしたん。」
「なんでもないですっ!」
「そうなん?」
「おお〜、すご〜い。」
「えっ?えっ?」
「あ、あのね。忍足君が今難しいところ押さえててくれたんだよね。」
「すげえ!ココあんなに悩んでたのに!こうもアッサリと!」
「っていうか、真美がそっちの手離したら良かったんじゃ〜ん?」
「え、イヤこっちを離したらこっちが緩むからさ、」
「こっちで止めてるから大丈夫じゃない?」
「あ・・・・」
「は〜、つっかえね〜。」
「仕事の出来ない女だー。」
「酷くない!?チョット見落としただけじゃんよ!」

可憐の頭の後ろでわあわあ騒ぎ出す3人。
それを見て忍足は賑やかやなあ、なんて何気なく思うが、そうしている間も視線を受ける可憐はとても落ち着かない。

「ええと・・・ええと・・・お、忍足君器用なんだねっ!」
「器用いうか、まあ多少は慣れやな。姉貴居ると手伝わされたりするし。」
「あっ、そうかお姉さん居るんだよねっ。お姉さんもお洒落さんなんだねっ!」
「・・・・まあ、小奇麗にはしてるわ。」

人の手を借りまくって・・・とは言わないでおこう。
可憐がそんな事べらべら喋るとは思わないが、秘密は仕舞っておいたほうが身のためだ。

「良いなあっ。私お洒落とか良くわかんないからっ。」
「ヤッパ、女子力にはオシャレは必須だよなー!」
「男子もやっぱりお洒落な子の方が良いでしょ?」
「俺は別に言うか・・・まあお洒落に越したことないけど、そない無理しやんでも清潔感あったらええんちゃうかと思うけど。」
「あー、わかる!清潔感ダイジな!」
「それに、お洒落にもいろいろあるさかい。その子らしいのが一番や思うで。」
「お〜。モテる男は言うことが違いますなあ〜。」
「別にモテてへんけど。」
「「「「それは嘘。」」」」
「そない揃わんでも。」

忍足がモテないとは流石に言えないのは当人以外誰でもわかる。
そりゃあ流石に跡部レベルではないにしてもだ。

「さて・・・よし!」
「オケ!」
「完成〜!」
「もっ、もう見て良いのっ?」
「鏡あるで。」
「わあ!」

そう言って忍足が目の前に持ってきてくれた鏡を覗き込むと、いつもと全然違う自分が自分を見ていた。
前髪部分を止めつつ、サイドから髪を纏めて綺麗に編み込みされていて、そのままバックの髪まで綺麗に纏めてアップにされている。

「す、すごいすごいっ!可愛いっ!」
「ふいー、クロウしたー!」
「会心の出来ですぜ〜。」
「可憐、どう?邪魔じゃない?一応部活の邪魔にならないようなやつにしたんだけど。」
「ああ、えらいキッチリ系のん選んでんねんなて思うてたら。」
「本当はお団子も考えたんだけど〜。」
「でも可憐、お団子部分を引っ掛けたりぶつけたりしそうで。」
「あ、はい・・・ううんっ!でも私、こっちのが良いなっ!」
「雰囲気変わるなあ。」

大体ヘアスタイルに関わらず、色んなものを可愛い寄りで決めることが多い可憐だが、今して貰ったヘアアレンジはキッチリ・綺麗系なので自分では滅多にやらないし、機会があったとしても選ばないだろう。。
なんというか、キャラじゃないし。

だから、忍足が雰囲気変わると言ったのはかなり頷ける感想だが。

「あの・・・変?かなっ?」

もし仮に変だったとしても、ここで変だとは忍足は言わないだろう。性格的に。
だから、そんなことないよ良いと思うよ、という返事が半分以上確約されてるようなものなんだけど。

「全然変とちゃうで。良う似合うてる、綺麗やわ。」
「きっ・・・!」

わかってても優しく微笑まれてそういう事を言われると恥ずかしい。
他意がなくても顔が熱くなってしまう。

「ホーウ?これがジゴロのやり方ってやつか。」
「勉強になります〜。」
「誰がジゴロやねんな。」


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