100話記念企画 No.076


そのまま午後の授業を受けて、そのまま可憐は部活に出る。
折角セットしてもらったんだし。部活出ても大丈夫なようにしてもらってるし。

「えーと、今日のメニューが・・・」
「茉奈花ちゃんっ!お疲れさまっ!」
「あら可憐ちゃん、おつか・・・可憐ちゃんその髪どうしたの!?」
「えっ!あ、その、瑠璃たちにやってもらって・・・変っ?」
「ううん!すごく似合ってるわよ!びっくりしたわ!一人でいきなりここまでやったのかしら、って思ったんだけどやってもらったのね。」
「あはは・・・3人がかりでしたっ!」
「へえ〜、ねえちょっと見せて見せて!ふんふん、ここがこうなって・・・あ、ここで止めてあるわけね、成程・・・」
「茉奈花ちゃん、わかるのっ?」
「ふふ!実はこう見えて、ちょっと詳しいのよ?」
「そうなのっ?じゃあこういうのも一人で出来るっ?」
「まあ、時間はかかるでしょうけど、ね。その気になれば。」
「そうなんだ、凄いねっ!」

自分達は、それこそ皆でよってたかってという感じでやっていたのに。
やはり餅は餅屋というか、好きな者は詳しい。

「でもこれ、かなり良いわね!」
「えへへっ!そうかな?」
「ええ!似合ってるのも勿論だけど、これはお洒落且つ多少の事があっても型崩れしにくいわよ?これならこのまま部活に出られるわ。」
「あっ、やっぱりそうかなっ?瑠璃たちも、部活でも大丈夫そうなやつを選んでくれたんだっ!」
「なら、伊丹さん達は大正解、ね。それに可愛いし♪ここの編み込みが特に言いわよね、このアレンジは。上品でガーリッシュだわ!」
「うんっ!私もそこ可愛いなあって思ってたんだっ!三つ編みって、こういう風にも出来るんだね、びっくりしたよっ!」

何分詳しくない可憐は、三つ編みをサイドにというとサイドの髪で三つ編みをしてそれを後ろに流すのだとばかり思っていたが、あの後構造をよく聞くと違うらしかった。
こっちの方がより難しい代わりに崩れにくいらしい。

「良いなあ、私最近三つ編み系のアレンジやってないのよ、ね。今度のお休みにでもーーー」

「茉奈花ー!あ、可憐も居たの?丁度いいや、今日の割り振りどうなってる?」

「あっ、はーいっ!」
「残念。この話はまた後で、ね。」
「うんっ!」

今勢いよく振り返ったのに、全然崩れそうな気配を感じなかった。

(茉奈花ちゃんの言った通りだっ!良い感じっ!)

「あれ?っていうか可憐その髪どうしたの?可愛い!」
「え?えへへっ!」
「はいはい、その話はまたちょっと後で、ね?今日の割り振りなんだけど、まずお休みの人が・・・・」





「跡部君っ!スコア、ここに置いておくねっ!」
「ああ、悪い・・・どうした、その髪は?」
「えへへっ!友達にやってもらったのっ!」
「ああ、道理で。」
「むっ!どういう意味ですかっ!」
「お前が一人で出来るような髪型じゃねえなと言ったんだ。」
「もうっ!そうなんだけど、そんな風に言わなくたって良いでしょっ!」
「そうなんじゃねえか。」

この王様は、どうもこう触れてほしくない部分にちょいちょい触れてくる。
主にドジな所とかドジな所とか、後ドジな所とかを。

「ま、お前もいずれはこの手のことを嫌でも覚えるようになるだろうよ。」
「?そうなのっ?」
「そういうヘアスタイルを自分でやる機会が増えるからな、大人になれば。」
「大人に・・・」
「改まった場に行くのに、トラブルでスタイリストに頼めない時があるだろ。パーティーに、結婚式、披露宴、発表会、株主総会、」
「最後のは私、縁がないかなっ。」

これから大人になったとしても株主総会にパーティースタイルで出席する様にはならない気がする。
跡部はしょっちゅうだろうが、一緒にしないで欲しい。

「じゃあ私、もう行くからっ!纏めた表は、あかりが持ってるからねっ!」
「わかった。それと桐生。」
「うん?」
「言い忘れてたが、悪くねえぜ。」
「・・・・やったっ!有難うっ!」

王様は、お世辞を仰せにはならない。





「・・・桐生?」
「はいっ!あ、向日君っ!」

後ろからかけられた声に振り向くと、なんだかホッとした顔の向日。

「どうしたのっ?ドリンクっ?タオルっ?」
「いや、じゃなくて!桐生だよなー、と思って。髪型違うしよ。」
「これねっ、友達にやってもらったのっ!いい感じでしょっ?」
「おう。良い感じ・・・まあ、良い感じなんだけど。」
「あれっ?変っ?」
「変っていうか、何か怖え。すぐどっか崩れそーで。」
「あははっ!そんなことないよっ、崩れにくいようにしてもらってるからっ!」
「ふーん・・・」

そうなのか・・・としげしげ髪を見る向日は、家の姉を思い出した。
あの姉は家族で出かけた時なんかも、トイレに行く度にいちいち髪を直しているらしく結構待たされる。
崩れにくいんだったら姉に教えてやってほしいと思うくらいだ。

「何か信じらんねー。」
「そっ、そこまでっ?」
「だってよ、何かこう・・・崩れにくいっていうより、すげー派手じゃん。派手な髪型って、すぐ崩れるって感じがすんだよ。」
「そっ、そんな派手かなっ!?」
「前から見るとそうでもねーけど、後ろ結構凄いぜ?三つ編みがこう、ぐるってなっててそこから解けそう。」
「後ろ・・・そういえば後ろはちゃんとは見なかったなあっ。」
「ま、自分で見えねーもんな、後ろって。」

昼に確認すれば良かった。
後ろは人の手と鏡が無いと見られないし。

「うーん・・・」
「いや、まあ気にすんなよ!俺は詳しくねーけど、やってくれた奴が崩れないって言ってんならそうなんだろーし。」
「そう?」
「そうそう!それに似合ってんじゃん!いつもと違うけど、良いんじゃねーの?」
「えへへっ!有難うっ!」





「すげえなそれ。」
「えっ?」

声のした方を向くと、思わず言ってしまったみたいな顔をした宍戸。

「髪。すげえじゃん、お前こんな事出来たんだな。」
「わっ、私じゃないよっ!友達がやってくれたのっ!」
「・・・因みに、なんだけどよ。」
「うんっ?」
「その・・・何目的で、っていうか・・・」
「うんっ?えっ?目的っ?」

神妙な顔で目的と言われても可憐は弱る。
今日たまたまその場のノリでとしか言いようもない。

「特に目的とかは・・・今日皆でヘアアレンジの話になったから、偶にはやってみたらみたいな感じでっ。」
「ああ、なんだビビった・・・」
「??ビビったっ?」
「あの、ほら・・・その、よくわかんねえけど、女子って嫌な事があったらイメチェンするんだろ?だから・・・」
「・・・ああ!」

つまり宍戸は、可憐に何かとんでもなく落ち込むような事があって、髪型は心機一転の表れではないかと思っていたわけだ。
みだりに触っていいポイントなのかとか、何か励ました方が良いんだろうかとかとか色々考えていたのである。

「あははっ!大丈夫大丈夫、私元気だよっ!これも、そういうのじゃないからっ!」
「そっか!なら良いんだ。」
「それに女の子でそういう時って、アレンジっていうよりバサッと切る方になるんじゃないかなあっ?」
「なんで?」
「なんでっ?えーと、うーん・・・なんでって言われると・・・」

確かに何故なんだろうか。
なんとなく昔からそういうものだと思い込んでいたが、よくよく考えるとはっきり言葉で説明しづらい。

「・・・うーん、何かこう、吹っ切るみたいな感じかなっ?嫌なことを髪と一緒に切り離して、忘れちゃおうみたいなっ?」
「へえ・・・」
「あっ、あくまで私はだからっ!あんまりよく知らないしっ!・・・男の子はそういうのないのっ?って言っても、男の子はそもそもそんな風に出来るほどロングヘアの人は少ないかなっ。」
「まあそうだな。俺も長い方だけど、それこそ俺くらいのロングは周りに居ねえし。」
「宍戸君は、嫌なことがあったら切ろうとかって思わないのっ?」
「別に切った所で解決しねえだろ?」
「そ、そうなんだけど・・・」
「俺がもし切るとしたら、そうだな・・・・」

ケジメ、かな。

宍戸の呟きは、誰かが打ったテニスボールの音に隠れるようにして落ちた。








「桐生さん、髪素敵だねー。」
「滝君・・・・!」

可憐は感激のあまりちょっと泣きそうになった。

「え?何?どうかした?」
「ううんっ!なんだか久しぶりに自然に褒めてもらったのが嬉しくて・・・」
「あれ?皆褒めてくれないの?」
「褒めてはくれるよっ?くれるんだけど皆すぐは褒めてくれないっていうか、促さないと言ってくれないっていうか・・・」

最終的に良いねとは言ってくれるのだが、そこへ行くまでほぼ皆1ステップ2ステップ挟まるのだ。
大体良いね素敵だねよりも先に、すごいなそれ、どうやってやったの、一人でこんな事出来るの、ちょっとどうなってるんだ見て良い?な感じ。

女子はその辺流石というか流れるように褒めるというか、可憐今日可愛いじゃん!うん、良い良い!みたいな風に褒め言葉+会話で話してくれるのだが、男子は逆に大半がそうはならない。変かと聞くと変じゃないよと言ってくれるが、聞かなかったら多分何も言わないだろう。

「あはは。まあまあ、男子ってそういう生き物だよ。」
「滝君は違うでしょっ?」
「俺はまあ、ほら。比較的、女子を褒めるのに抵抗がないからね。男子って、誰かを褒めるのに照れが先行する人が多いから。」
「?そうなのっ?」
「ううん、まあこれこそ女子にはピンとこない感覚かなー。」

まあ、男子とは基本そういうものだからこそ、忍足や滝のようなしれっと可愛いと言える人間は浮いて見えるのである。この辺がジゴロと呼ばれるのも止む無しな所。

「三つ編みベースなんだね。やるねー、部活には持って来いだよ。」
「あっ、やっぱりそうだよねっ!今日も何度か転んでるけど、全然崩れないのっ!」
「ううん、転んじゃ駄目だよ?」

すっかり転ぶことを前提にして話をする可憐に、滝は苦笑してしまう。

「後はまあ、全体がしっかりしてるからこそ、引っかかって引っ張られたりなんかすると崩れちゃうけど・・・。」
「そうなのっ?気をつけなくっちゃ、私自分じゃ直せないしっ!」
「あはは。まあ、そんな事には滅多にならないよ。ボリュームも抑えめにしてあるしね。」

それなんていうか知ってる?
フラグ、って言うのよ。

とこの時誰か教えてやれれば回避できたかも知れないのだが。




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