100話記念企画 No.026


木曜日。

「あ!居た居た、やーぎゅ!ついでにニオニオ!」
「こんにちは。紀伊梨ちゃん、ついでは失礼ですよ・・・」
「よ。」

「おや、お三方。」
「ついでとは随分じゃな。」

珍しい面子に、柳生は眼鏡の奥でちょっと目を見開いた。
この3人がわざわざ自分を訪ねてくるのは珍しい。

「私に用事ですか?何か。」
「やーぎゅってさー、知恵の輪好きなのー?」
「兄貴がそうだって言ってたんだけど。」
「ええ。まあ、ちょっとした趣味ですね。」
「あの・・・もし今お持ちでしたら、一つ貸して頂けませんか?」
「簡単なやつね!簡単なやつ!」
「何じゃ、藪から棒に。」
「藪から?あのねー、紫希ぴょんがしょーかんするんですよ!それに要るんですよ!」
「一つもわからんぜよ。」
「取りあえず何か簡単なやつ貸してよ。5分で返すから。」
「5分ですか。春日さんがされるということでよろしいんですね?経験はおありですか?」
「いえ、一度も・・・」
「そうですか。一番簡単な物をお貸ししますが、経験無しで5分の縛りはなかなかハードルが高いですよ・・・ああ、ありました。」

柳生の手には、いかにも知恵の輪らしい知恵の輪が一つ。
といってもさほどごちゃごちゃしてはいない辺り、かなり簡単なのものを選んでくれたのは本当だろう。

「どうぞ。」
「有難うございます、お借りします・・・」
「計るか。5分じゃったな?」
「はい。あ!ちょ、ちょっと待ってください、心の準備が・・・はい、大丈夫です。」
「用意・・・スタートじゃ。」

仁王のスマホからポン♪と軽快な音が鳴り、ストップウォッチが動き出した。
こうしている間に1秒が2秒に、2秒が3秒に。

「・・・それで、どうしてこういった事に?」
「あ、あの、」
「紫希は良いから知恵の輪してなよ。5分しかないんだし。」
「すいません・・・」
「あのねー、紫希ぴょんは今しょーかん術をやってるんですよ!」
「「召喚?」」
「児童書に書いてあるようなおまじない。まあ子供だましっちゃあ子供だましだけど、折角虹の下で黒猫を3回撫でるっていう馬鹿高いハードルクリアしたんだから、どうせならやってみよって感じ。」
「ようそれをクリア出来たもんじゃな。」
「で、この知恵の輪もそのいっか・・・その召喚に必要と言うことですね?」
「そーそー!もくよーびに5分で知恵の輪を解くんだってー!」
「普段は兄貴が持ってんだけどね。あのクソが今日はたまたま持ってないもんだから。マジ役立たず。」
「相変わらず当たりがお強いですね。」

「・・・・・・・」

「なかなか難航しとるの。」
「知恵の輪って私もやった事ないわ。」
「紀伊梨ちゃんこーいうの無理ー。でもさ、紫希ぴょんなら賢いから出来るよね!」
「いえ、そうとも限りませんよ。」
「にょ?」
「こういうパズルのセンスは、成績とは別のものですから。案外、五十嵐さんの方がするりと解いてしまうかもしれませんね。」
「おおーー!」
「マジか、そういうもんなの。」
「試しにやってみたらどうじゃ。」
「やるやる!やーぎゅ、何か貸してー!」
「では、もう一つ初心者向けのを。黒崎さんも如何ですか?」
「私良いや。面倒だし。」

「・・・・・・・」

「むむむ・・・えい!ありゃ?あ、こっちか・・・とりゃっ!む!今度はこっちか!じゃーこっちを・・・あり?戻ってきちったお?」
「駄目そうじゃな。」
「まあ紀伊梨だし。」
「なにおー!まだちょっとやっただけだもん!紀伊梨ちゃんだって出来るもん!」
「どうかの。」
「じゃーニオニオは出来るのー?」
「どうなの。」
「いかにも得意そうですね、仁王君は。」
「まあ出来なくもないが。俺はどっちかっちゅうと。」
「お?」
「ちちんぷりぷり・・・ほれ。」
「あー!なくなったー!消えたー!すごーい!」
「芸達者ねえ、あんたも。」
「お見事ですが、返ってきますよね?」
「机の上じゃ。」
「おー!」

「・・・・・・」

「後もう少しで5分じゃが。」
「紫希ぴょーん、頑張れー!」
「聞こえてないんじゃない。」
「集中されてますね。」
「実際どうなの。出来るの、あれ。」
「そうですね、良い所まではきていますが・・・・」

気づきさえすれば簡単なのに、その気づくのが難しいのが知恵の輪というもの。
分かっていれば余裕で時間内クリアだが、この悩みようでは微妙だなと柳生は見立てている。

やってる紫希もそれはなんとなく察していた。
もうちょっとだ。後ここだけだが、それが難しい。

(・・・もし出来なかったら・・・)

その時は、それはそれで良いかもしれない。
と紫希は思った。

多分5分まで後少し。
でもあまり焦る気にならないのは、もし失敗してもそれはそれでホッとするとどこかで思っているからだ。

(もし出来なかったら、それはきっと神様が止めろって言ってるんですよね。本当にその気があるわけじゃないのに、みだりに召喚なんてするものじゃないよ、って・・・)

だから。
もし出来なくても、良いんだ。

そう思って、良い感じに力が抜けたのが良かったのだろうか。

「ラスト5秒じゃ。4、3・・・」
「あっ、」

カチャ。

「あ・・・」
「出来たー!やったー!」
「おめでと。クリアじゃん。」
「本当にギリギリじゃったな。」
「ですが、制限時間内なら成功でしょう。おめでとうございます。」

(で、出来てしまいました・・・)


召喚術ステップ5。
完遂。




金曜日。
ビードロズ4人はテニス部の出待ちをしていた。

「誰にお願いするー?」
「柳生、柳、桑原に精市辺りじゃない。」
「その辺が妥当だな、やっぱw」
「紫希どう。誰が良いとかあるの。」
「わ、私は誰でも・・・付き合っていただけるだけで・・・」
「お前、仁王とか絶対止めた方が良いぞwこんな簡単なステップでうっかりポシャるとかw」
「真田っちとかブンブンとかはー?だめー?」
「ブンブン君もなあwあの子結構悪戯好きでしょw」
「真田とかもう論外じゃん。仮に違うクラスだったとしても、彼奴出来レースとか反吐が出るほど嫌いじゃーーー」

「俺がなんだ。」

噂をすれば何とやら。

「お疲れ様です・・・」
「真田っちお疲れちゃーん!皆は?居ないの?」
「後から来る。して、何か俺の話をしていたようだったが。」
「お前の嫌いそうな話してたんだよ。」
「いや、ちょっとねw誰かに協力して貰いたい事がーーー」

「お疲れ。」

「桑ちゃん居たー!」
「うお!?え、何だ?何かあったのか?」
「ちょっと頼みがある。」
「すみません・・・」
「???」
「おい、説明せんか!」
「今からするっつの、黙って聞いてろよ。」
「またお前はーーー「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!私が召喚術を進めたいから、皆協力してくれてるんです、ご迷惑をおかけして・・・」
「ん?」
「召喚だと?あの召喚か、呼び出すという意味の。」
「そうそれw」
「え?召喚を・・・する?してるのか?出来るのか?」
「ほら、見たこと・・・ああ、あんたらは2人ともこういうの知らなさそ。」
「紫希ぴょんの持ってる本にねー、やり方書いてあるんだお!」
「なんだかんだ進めてきたんだけどねw今日は『異性の友達にじゃんけんで勝つ』をしないといけないのよw」
「黒崎棗でも良いのではないか?」
「俺今日、朝一緒に登校しちゃったからw」
「『15時以降に、その日初めて会う人の中で』っていう条件もあるんです・・・」
「面倒な・・・」
「まあまあ、所謂おまじない?だろ?そういうのって、面倒くさいもんだろ、手順としては。で?じゃんけんで春日が勝てば良いって事か?」
「そーそー!だからさだからさ、ちょーっとだけずるっこさせてよ!」
「そっちグー出して。紫希はパー出すから。」

これ。
これである。

これを聞いて、馬鹿正直にグー出してくれる人でないと駄目。

そういう意味で、仁王みたいな人種は信用が置けないのである。
丸井も信用度でいうとやや下がる。(とは言っても仁王に比べたら遥かに安全ではあろうが、念のため。)
真田は最初から条件に当てはまらない。同じクラスでは15時以降の条件で×を食らうからだ。

その点、桑原はかなり安全牌と言えよう。
真面目・優しい・正直と3拍子揃っている。

「わかった。じゃあ・・・」
「おい。」
「何。」
「それは八百長だろう!正々堂々勝負をせんか!」
「あー、ほら。」

絶対こうなると思ったのだ。
真田がこういうの大嫌いなのは、頼む前から想像がつくというもの。

「たんまたんまw目的は勝負じゃないんだってw」
「良いじゃーん!別に悪いことするわけじゃないのにー!」
「紫希、良いからやっちゃいなよ。」

「で、でも・・・」
「じゃあやるか。当分終わらないぜ、あれ。」

真田は一度主張しだすと、基本的に折れない。
紀伊梨たちもそれをわかっているから、説き伏せじゃなくて足止めにかかっているのだ。

「だから、書いてないんだからそれはやっていいってことじゃんw」
「たるんどる!大体、お前は他の事につけてもそういう所があるぞ!ルールの穴を探すような真似ばかりするな!」
「何という飛び火w」
「あー、うっせ。うっせ。」
「だってさー!もしじゃんけんで負けちゃったら、もー全部失敗だよー!」
「それで良いのだ。それで失敗するも成功するも、天の采配だ。それを捻じ曲げようとするのがいかんのだ!」
「そうは言ってもお客さんw」
「誰が客だ!」
「さいはいってはいさいの仲間?」
「あんた、沖縄弁なんて知ってたんだ。」

「・・・・」
「あの・・・安心しろって。俺、ちゃんとグーを・・・」
「いえ、良いです・・・」
「え?」
「真田君の言う通りです。」

失敗するも成功するも、天の采配。
最初の虹と猫をはじめ、もう何度も幸運に救われてきた。

もし、神がやれと言っているのなら。
それなら、八百長しなくてもじゃんけんに勝てるはず。

「お願いします。」
「・・・普通にやって、良いんだよな?」
「はい、最初に言ったことは忘れてください。」
「分かった・・・」

何か、これで失敗したら自分が戦犯になるみたいでそれはそれでちょっと怖いのだが。
まあこういう類のものは、本人の心理が一番大事だというのは、多分ブラジルだろうと日本だろうと変わらない筈だ。

「よし、行くぞ。」
「はい!」
「「じゃんけん、」」


召喚術ステップ6。
完遂まで後2秒。


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