100話記念企画 No.070

『皆の住んでるここ、湘南は海の見える街です。』

1年生の時担任が生活の授業中に言った言葉だ。

今でも覚えている。
自分にしては珍しく、その言い回しが何かお洒落っぽいなと思ったのだった。

ただ。
千百合自身は湘南を海の見える街だとは思わなかった。







神奈川は都会だとか言う人が偶に居るが、そりゃ正確じゃないと千百合はいつも思う。
都会なのは横浜だ。他の場所を見渡せば、田舎だってある。大阪にだって田舎はあるし、東京だって23区から外に出れば少々郊外っぽい所があるだろう。

まあ何が言いたいかというと、湘南を移動するには存外自転車が頼りになると言うことだ。

「あっつ・・・」
「ふふ。そうだね、もう6月も終わりだから。」

良い天気。
お出かけ日和と言えなくもないが、これは気を付けてないと倒れそう。

「で?どこ行くの。」
「そっくり辿るかい?最短で真っ直ぐ行っても良いよ。」
「あー・・・ならトレースしたい。」
「分かった。じゃあまず緑地だ。行こう。」

千百合の家から出発。
目指すは昔足を運んだ緑地。

この辺はほぼほぼ車が通らないから、前後を見つつ並走気味に行く。
会話も楽だ。

「あー、漕ぐとちょっと楽。暑さが。」
「そうだね、まだ風は多少冷たいから。とはいえ、水分には気を付けないと。」
「どっかで休憩取る?」
「ああ、そのつもりだから大丈夫だよ。折角だから、あの時と同じ場所で休憩しよう。」
「・・・休憩したっけ?」
「あはは!本当に覚えてないんだね。ルートを自由帳に書いた事や、高台に行ったのは覚えてるのに。」
「それはまあ、わけありで。」
「わけ?」
「まあ、落ち着いたらね。後で。」

不思議なものだ。
多分同じ思い出なのに、覚えている部分がバラバラ過ぎて全然重ならない。

(・・・ま、良いか。)

これはこれで楽しいから。良いや。

とか思いながら、信号で2人とも止まった時、風が吹いた。

「あ、」

まずい、と思うが早いか、幸村の右手が千百合のキャップを捕まえなおしてくれる。

「ありがと。」
「どういたしまして。・・・ふふ。」
「何。」
「はい。」
「?」
「これも覚えてないかな?五十嵐に同じことをされてたけど。」

「・・・・あ。」



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