研磨がそれから店を訪れたのは、1週間後のことだった。つらい練習の鬱憤晴らしのターゲットになってしまった研磨は耐え兼ね、練習が終わってすぐにカフェに逃げ込んだ。
残って練習しようと誘ってきた黒尾を振り切ってきたので、今日はひとりだ。急いできたので夕飯時とだだ被りしてしまい、流石のこの店も客が多かった。

ひとりでテーブル席に陣取る図々しさはなく、カウンターの一番端の席に座った。
潤ではなくその親戚という少年が注文を取り、いつもよりうるさい店内で、研磨は身を縮めた。この場所でさえも、居心地が悪い。カップルの多い店は何かとざわついていて、研磨は今すぐ店を出て家に帰ってしまいたくなったが、いつもの流れで注文してしまったので、研磨は座ったままでいた。
ゲームをする気にもなれなくて、どうやったら部活を辞めれるか思案していると、研磨の目の前にマグカップが置かれた。
潤だ。敬語が苦手だと告げたらすべて自分に合わせてくれた彼だ。追い詰められ、ぐるぐるといろんなものが渦巻くなかやってきた救世主に藁にも縋る思いで顔をあげた。そして落胆した。
そこにいたのは期待していた男ではなく、顔立ちだけ似た少年だったからだ。
一週間前と同じだ。研磨は少年から目をそらし、目の前に置かれたマグカップの湯気をぼうっと見つめた。

「……これ」
研磨が呟いた。それは潤がいつもサービスで出してくれるコーヒーではなく、白い液体だった。
「ええと、孤爪さん、ですよね。叔父から……潤さんから聞きました」
少年から帰ってきたのは暗に込めた質問の答えではなく、どうやら会話する気らしかった。といっても研磨には、「……そう」と愛想悪く応えることしかできなかった。
「潤さんみたいな美味しいコーヒーは、淹れられないですけど……。よかったら、どうぞ」
最後にペコリと頭を下げて、少年は忙しない店内へ溶けていった。

店内の空気から隔絶された研磨は、同様に残された淡い色で花の描かれたマグカップをみつめた。
恐る恐る手を伸ばして、口をつけた。
猫舌の研磨でも飲める温度のホットミルクには蜂蜜かなにか入れられているようで、とても甘かった。まだやってこないアップルパイと同じくらいの甘さで、潤のコーヒーと違って到底合わなさそうだった。
こくり、と呑み込むのと同時に、ごちゃごちゃした感情まで胃の中に落ちていくようだった。
「……甘すぎ」
ぽつりとつぶやいた研磨は、とりあえず、ゲームをしながらアップルパイを待つことにした。


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